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考察そして対策

 「主殿!なぜ某達を引かせた!!」


 ムースに治療をしてもらいながらスーラは燃えるような熱のこもった瞳で俺を睨んでくる。

 これがもし治療中でなく自由に動けたならば、胸倉を掴みかかっていてもおかしくなかっただろう。

 そしてもしそうなったとしても、俺は特に抵抗しなかったと思う。

 それだけの命令を、仲間を見捨てさせる指示を俺は出したのだから。


 「あの時まだ某が狂信者と戦っておれば…。

 あやつは…、あやつは死なずにすんだかも知れないというのに……」


 後悔と無念の思いが口から零れ落ちて、部屋に響き渡る。

 その声を聞くだけで、どれだけスーラが殺されたウインドウルフの事を思っていたかがわかる。

 そしてスーラが後悔と無念感じている気持ちを、俺も感じている。

 これまで一緒に過ごしてきたん仲間なのだ、悲しまないはずはない。

 だが、今はスーラと一緒に悲しんでいる暇は無いのだ。


 「ヤーさん、あいつの戦いを見て勝算は見えたか?」


 悲嘆にくれるスーラを一瞥した後、モニターを見ていたヤードに尋ねる。

 悲しむのは後だ。

 後悔するのも、反省するのも後。

 今はまずはあの狂信者に勝つこと、それだけを考えなければいけない。


 「あぁ、少しだがわかった事がある」


 ヤードも俺の気持ちをくみ取ったのか、殺された仲間の事には触れずすぐに俺の問いに答えてくれる。

 だが一方で問いを無視されたと感じたスーラが、俺にさらに何か言おうと治療するムースを振りほどき近づこうとするが、それを察したヤードが顔を思いっきり殴りつける事で無理やりスーラを沈黙させる。


 「ヤード!」


 床に倒れるスーラを見て、治療をしていたムースが叱責の声を上げすぐさまスーラに近づく、叱責の声をうけたヤードはその叱責など聞こえなかったような反応で、ただスーラを見下ろす。


 「スーラ、時と場合を考えろよ。

 今必要なのは後悔の言葉を上げることか?

 もしもの話をすることか?

 違うだろう。

 主もあいつの事は悲しんでるぞ。でもな、今はそれを押し殺して俺達の事を考えて精一杯の事をしているぞ。

 お前もこのダンジョンに住む仲間なら、今はその気持ちを抑えて手を貸せよ。

 それとも、ただ後悔の声を上げてあいつの死を文字通り犬死にするつもりか?」


 狗族の中で「犬死」と言う言葉は最大限の侮辱の言葉となっている。

 そして犬死と言われた瞬間スーラは立ち上がり、ヤードの胸倉に掴みかかる。


 「あいつの死が犬死だと?ふざけるなよヤード!

 あいつはやるべき事をしっかりやった!

 某達のために命懸けで戦った!

 立派な戦士として、誇り高き狗族の一人として死んだんだ!!」

 「ならその行為をお前が汚すなよ。

 今のお前の行動はあいつの死を侮辱してるぞ」


 二人は至近距離で睨み合う。

 しばらく二人は黙って睨み合っていたが、先に目を逸らしたのはスーラの方だった。

 掴んでいた胸倉の手を離し、小さく口を開き謝ろうとするが、それをヤードが止める。


 「謝るのも後だ。

 全て終わってから、あの狂信者を倒してからきちんとお前も俺も謝り合おう。

 だから、今はあの狂信者を倒す事を考えろ」


 その言葉にヤードは覚悟を決めた瞳で頷いた。






 「それでヤード、わかった事って?」

 「まずはあいつの加護を与えた神だ。

 主も聞いていただろう?」

 「確か愛の神ラブだっけ?」

 「そうだよ。

 知名度、加護を与える率、狂信者発生率どれをとっても高い、正真正銘厄介な神だよ」

 「神界の三大問題児の一人でもありますからね」


 吐き捨てるように言ったヤードに、付け加えるように言ったムースもその顔を僅かにゆがめる。


 「それでその神からなにがわかるんだ?」

 「愛の神ラブだが、結構な数の加護を与えているって言ったな、それだけど全ての加護が肉体系の加護なんだよ」


 肉体系の加護とは自身の力を大幅に増す加護の事で、単純な加護の条件さえ満たせば目に見えて力を発揮するのが特徴な加護だ。

 他の分類でいえば水や火などを意のままに操る事ができる自然系の加護や、厳しい条件下のみで発生する試練系加護、鍛冶や農耕など生産系に大きな影響を及ぼす生産系加護などがある。


 「俺の加護【義の心】もそうだし、ラブ様がかつて与えた有名な加護【運命の赤い糸】、それにさっき話した【死者の羽衣】も肉体系の加護だな。

 肉体系の加護の特徴は簡単な条件で、大きな力をえるというものだ」

 「つまり条件がわかれば、あいつの力を封じることもできるということか」

 「そういうことだな」


 簡単な条件だからこそ、その条件を阻止するのも簡単になる。

 狂信者の驚異的な回復力も防げるかもしれない。

 そう思ったのだが、ヤードが渋い顔で付け加える。


 「だがな、話はそう簡単じゃないかもしれないんだ。

 肉体系の加護は確かに簡単な条件で発動するが、あの愛の神が加護を与える奴はイカレテいるからな、簡単な条件も簡単に達成してる場合があるかもしれない」


 例えば寿命を削りその分力を増すなど、普通の者なら躊躇するかもしれないが、狂信者の場合躊躇しなで、簡単に命を削る。

 確かにそんな場合なら条件を阻止するのは難しくなる。


 「いえ、今回の条件は簡単ですよ」


 どんな条件なのか考えていると、スーラの治療を続けていたムースがそう言ってくる。


 「条件がわかったのか!?」

 「えぇ、スーさんの怪我を治療していたのですが、一向に傷が塞がる気配がありませんのでおそらくは……」

 「相手の回復力、もしくは体力を奪い力に変えるか……」


 スーラの傷口は回復薬をかけてもふさがる事が無いので、今は無理やり布を当てて止血させている。

 それを見ると、傷をつけられると効果が永続するみたいに思える。


 「このまま傷が塞がらなければ、出血多量でスーラが危ないです」

 「最悪の場合は傷口を焼いて塞げばいいでござるよ」


 血が止まらない事を心配するムースに、スーラは何事もないようにそう告げる。

 このまま出血が続くようならばそれも一つの手だろう。


 「つまりは狂信者の攻撃を喰らってはダメってことか……。

 難しくないか?」

 「難しいな。

 あの回復力を見せられると、回復力以上の攻撃をお見舞いするって事も難しいのに、さらに攻撃を喰らうなっていう条件がつくとさらに難しいな」

 「それでもやるしかないけどな」


 難しかろうとなんだろうと、あの狂信者は倒さなければならない。

 モニターに目をやると狂信者はゆっくりとだが確実にこちらに近づいている。

 そしてスーラが退いたあたりから、なぜかモニターにノイズが入るようになりしっかりと狂信者の様子を見る事ができない。

 ムースいわく、狂信者から何かしらの妨害が入るようになったそうだ。


 「アラーネア、準備の方は?」

 「ばっちりじゃ、何とか間に合ったぞ」


 通話をアラーネアに送ると、得意げな返事が返って来た。

 先程クロコディルからも泥地の作業が終わったと連絡が来たから、これでひとまずは準備が完了したわけだ。


 これも全て命懸けで時間を稼いでくれたウインドウルフのおかげだ。


 「ヤード準備はできたよ。

 あとは頼む」

 「任せておけ、必ずあの狂信者は倒して見せる。

 義の文字と、死んでいったあの勇敢な魔狼にかけてな」


 拳を合わせヤードを見送る。


 さあ舞台は整った。

 決着を付けようぜ狂信者。

 


最後までお読みいただきありがとうございます。

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