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悪魔からの勧誘

 「1000人か……、よくそんなに集まったな」

 

 その人数を聞いて最初に思ったのはこのプロジェクトにそれだけ参加する人間がいるのかという気持ちだ。

 もちろんクラウンが言葉巧みに誘い、騙されるようにプロジェクトに参加することになった人間もいる可能性もあるが、それでも1000人は多い気がする。

 逆に考えればそれだけクラウンも失敗できないという現れなのかもしれないが。

 

 「ちなみにどうやって他の人達を誘ったのですか?」

 「特に変わったことはしていませんよ。今こうして神無月様としているように正体を明かし、プロジェクトについて話をしたらほとんどの人達は二つ返事でプロジェクトに参加表明して下さいましたよ。

 もちろん事前にある程度誘う相手は厳選していたおかげと言うのもありますがね」

 「参加しないって言った人もいたんだ」

 「えぇ、でもそれは本人の意志ですから仕方ありません。私と会った記憶を消させてもらい静かに立ち去りました。

 他にも聖職者の方の所に誘いに行った時は、正体を現したとたん十字架を突きつけられ話すことさえできなかったこともありますね」

 

 ごく自然に出た記憶を消すという言葉が出たが、そこは綺麗にスルーする。

 

 「参加を表明していただいた皆さんの中にはこの世界に何やら不満やら退屈を持っている方、異世界に興味津津などの方もいらして、話の途中にもかかわらず「すぐに異世界に連れていけ」と言う方も結構いましたよ。

 むしろ神無月様みたいに、落ち着いていろいろ質問してくる慎重的な方の方が全体的に見て少数ですよ」

 

 神様だけでなくこちらにも退屈している人間がたくさんいるということか。

 それもそうか。今の世の中よほどの国や環境では無い限り、高望みしなければある程度の夢は実現可能な時代だからな。

 他に聞いておくことはダンジョンについてだろう。

 

 「プロジェクトに参加するっていうとどうなる?」

 「参加表明された方はまずあちらの世界に送られます。そして送られる間に体を不老不死に変換されます。

 もちろん不老不死と言ってもダンジョンにいるだけの間で、食事や睡眠をしなくてもいいわけでもないので、簡易な不老不死だと思って下さい」

 

 簡易不老不死と言ったが、それでも十分すごいことだと思う。

 それと体を変換するときに希望があればある程度なら今の体を変えることも可能らしい。

 クラウンはある程度だと言ったが、性別まで帰ることが出来るのはある程度では無いと思うが……、これも悪魔の力なのだろうか?

 

 「次にダンジョンの主になります。ダンジョンと言いましても各自好きに造り変えることが出来ますので、住みやすい環境、望む環境を自分で作ることが出来ます。

 まぁ、あきらかにハイテクすぎて向こうの文明レベルを大きく超えない範囲になりますけどね」

 「造り変えるのに何か必要じゃないの?」

 

 本などによくあるダンジョン造りは魔力やそれなりのエネルギーを必要とする場合が多い。

 それに自由に変えることが出来るなら、身の安全を第一に考え誰も入れないようにもしくは入ってもすぐに排除できるようにダンジョンを造ることもできる。

 そんな造りをしていたらわざわざ異世界に呼んだ意味が無い。

 

 「あちらの世界についてからいろいろ説明することになっているのですが、神無月様は聡明ですね。

 もちろんダンジョンを造ったらり改築したりするのにはDPと言うのが必要となります。

 詳しい説明DPの入手方法については向こうの世界で説明することになっています」

 

 それはつまり参加表明していない今の俺には説明する義務が無いということか。

 

 「あとは誰に支配されることも命令されること無く、自由にダンジョンで生きていただくだけです」

 

 話を聞く限り、信じやすい人間や欲深い人間ならすぐにプロジェクトに参加するだろう。

 だが24年しか生きていない甘党(ただ甘いものが大好きなため友人にそう言われているのだが、本人としては他人に甘い人間に思われていると思っている)と言われる俺だが分かることもある。

 世の中そんなに甘い話があるはずがない。

 

 「それでダンジョン造りに参加するデメリットは?まぁ聞かなくても大体予想は着くけどね」

 「神無月様は本当によく理解されていますね。

 デメリットと呼べるのは一つだけはダンジョンを存続させ続けないといけないということです」

 「だろうな」

 

 簡易不老不死だがその期間はダンジョンにいる間と言っていた。逆に言えばダンジョンが攻略されると死ぬということだ。

 そしてこれは神様方のために作られたプロジェクト。

 活躍の場を求めて神様の寵愛を受けた者たちが日夜攻略に乗り出してくる。

 

 つまり、俺達は日々命の危険があるということ。

 

 

 「なにが自由に生きることが出来るだよ。ダンジョンを攻略されるまでの仮初の自由じゃないか」

 「仮初でも自由は自由ですので、ダンジョンを攻略されるまではそれこそ誰も罰する者はいませんから。

 のんびりとだらけるのもよし、ダンジョン内に畑などを造りスローライフを楽しむのもよし、好きなだけダンジョンに侵入した者を犯すのもよし、痛めつけるのも拷問するのもよし、こちらでは犯罪と呼ばれる行為も無効では好き放題できますよ。

 それこそ神様方公認で」

 

 さすが悪魔、人の気持ちを揺さぶるのが上手い。

 神様公認と言われればその効果は計り知れないだろう。

 特に決めた宗教を持たず、信仰も持たない人間にとっても神様の威光というのは強力だ。それが信仰を持っている人間にとってはさらに強力だろう。

 聞き方によっては、こんなおいしい環境だからプロジェクトに参加してくださいと言っているように聞こえるが、実際はおいしい思いをしたかったら少しでも長くダンジョンを続けて神様の暇つぶしになってくれと言った所だろう。

 それがわかってもプロジェクトに参加する人間は多いだろうけど。

 

 「ちなみに俺以外に参加するのはどんな人達がいるの?」

 「一応最低年齢は15歳の少年ですね。それ以下はさすがに人が死ぬ場面を見る可能性もありますので今回は除いています。

 最高年齢は99歳の方ですね。100歳まで生きたかった様なのですが、どうも御病気なようであと少ししか生きられないようなので、異世界に行っていただけるなら健康になれますよって言いましたら、すぐに承諾してくれました」

 

 それは悪魔の誘惑だろう。

 何処からか用紙を取り出し、それを見ながら答えるクラウンに心の中でツッコム。

 ちらりと見えた他の用紙には参加するであろう人物の顔写真と俺には分からない文字で何かが事細やかに書かれている。

 

 「男女比率で言いますと、7対3の割合ですね。本当は半分半分がよかったのですが、ダンジョンを攻略されないためには、この比率が一番いいと考えまして」

 

 確かに話を聞いた後だと、男の方が頑張りそうな気がするな。

 何をしてもいい、それは男にとってある種魔法の言葉だ。

 

 「他はダンジョンの傾向に偏りが出ないように、国、職業、趣味、思考ほとんど皆さんバラバラに選んでいますね」

 「同じようなダンジョンだと神様も面白くないから?」

 「そう言うことです。他に何か聞きたいことはありますか?」

 「ダンジョンは誰が守ることになる」

 

 話をしていて、ダンジョンを自由に改造できることは想像がつく。ならば侵入者用のトラップを造ることもできるだろう。

 だがそれだけでは簡単に突破されてしまう。

 ダンジョンを守るためには人では必要だ。

 

 「まさか自分一人で守れとか言わないよな」

 「もちろんです。しっかりそこら辺は考えております」

 

 クラウンはそう言うと指をパチンと鳴らす。

 すると机の上に百科事典のような分厚い本が現れる。

 

 「この本は『万魔事典』、ダンジョンを守ってくれる魔物達が載っておりまして、その魔物達を選び契約をすることでダンジョンを守っていただくことになります」

 

 なるほど確かにしっかり考えているようだ。

 軽く万魔事典を捲ってみると、最初のページにはよくゲームの序盤に出てくるスライムの写真が載っており、その横にスライムの簡単な特徴とスキルがのっている。

 

 

 名前 :スライム

 契約P:1~10

 スキル:分裂、体当たり

 備考 :どんな環境にも適応して生活が出来る生物。

     環境により独自に進化する。

 

 次のページを捲れば、そのページにはゴブリンが載っており次々とページをめくっていく。

 知っている魔物もいれば、知らない魔物もいたが万魔事典の5分の1ほど見た所でその後のページには何も載っていなかった。

 

 「クラウンさん、ここから先は何も載って無いけど」

 「それは今の段階だと契約できない魔物達です。神無月様に力が付いてきたら自然にページが増えていきます」

 「そうなんだ。ところでダンジョンに魔物がいていいの?また人族とかと戦争にならない?」

 

 最初の方の話で人族と魔族が戦争をしたというのを聞いた。

 魔物は種族的に魔族と同じ血を引いているが、魔族の中で知能も能力も格段に下のものを魔物と呼称するらしい。

 その魔物がダンジョンにいたせいで、それがきっかけでまた戦争とかなったら面倒臭い。

 

 「もちろん大丈夫です。ダンジョンに魔物がいることは神様方にも了解をもらっていますので」

 

 昔あった戦争で人間に負けた魔族たちは神様方に次元の奥深くに封印されたということになっているらしく、ダンジョンにいる魔物達は、その神様方の封印が弱りかけたために復讐のために出てこようとしているという設定にするらしい。

 

 「活躍の場にする訳ですから、そう言った設定の方が皆さん頑張るでしょう?」

 「再び魔族と戦争にならないために魔物を潰しておくか…、確かに物語になりそうだな」

 「それに今回のプロジェクトは魔族や魔物達らの要望を聞くという一面もありましたので」

 

 神様に封印されたことになっている魔族達だが本当は封印をされてはおらず、神様の力によって創られた土地に人間達に見つからないように生活しているそうだ。

 だがその土地はせまく生きるのは苦しい環境らしく、たまにその場所から外に出てしまい人に見つかってしまった魔族は、すぐに討伐隊が組まれてしまうそんな生活をしている。

 もともと闘争本能が強い種族の多い魔族や魔物達は、そんな生活の中で溜まりたまった数百年分の怒りをぶつけるためまた戦争を起こしかねない状況だった。

 だが中には過去の戦争を体験し、戦争を望んでいない者たちも少なからずおり、戦争を起こさないためにも暴れられる場を求め、殺される覚悟のある者はこのプロジェクトに参加するようにしたそうだ。

 全て覚悟し、ルールを順守することを確認しサインした者だけが万魔事典に載る。

 (魔獣たちの多くはそこまで言われても理解できる知能が無かったため、半ば自動的に全員万魔事典に載ることになった)

 

 「それなら問題ないか?」

 

 深く考えるといろいろ思うこともあるが、本人達が納得しているならこちらからとやかく言うことも無いだろう。

 

 「えぇ、他にも細かい説明はいろいろありますがこちらの世界で説明できるのはこれぐらいですかね。

 さて、ここまで話を聞いた神無月様にはそろそろプロジェクトに参加していただくか決めていただきたいと思います。

 

 

 神無月黒様、プロジェクトに参加していただけますか?」

 

 

 その問いの答えはすでに決まっている。

 今の生活に未練が無いわけでは無い、だがそれ以上に知ってしまった。

 知らなかった異世界の話を聞けた。

 知らなかった未知の場所に行ける。

 知らなかった新たなことに挑戦できる。

 なにより甘党な俺がこんな美味しそうなこと参加しないはずがない。

 

 「もちろん参加するよ」

 

 「参加ありがとうございます。

 それでは早速『ライフ』にご案内いたします」

 

 俺の返事に満面の笑みを浮かべたクラウンが再び左目の眼帯を外す。そして左目から発する妖しい光が俺を包み込む。

 まさか、もう移動?準備は?

 そんなことを疑問や戸惑いを口にする前に、全身を光に包まれた俺は意識を失った。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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