表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デビルズ・ダンジョン ~悪魔に頼まれダンジョン造り~  作者: 夢見長屋
動きだした世界、プロジェクト開始
33/103

気合を入れたわいいけれど・・・・・・

 あの日、大神からの神託が世界中のすべての種族に下されてから一週間が経った。

 神無月黒がDDMを勤めるダンジョン『ウワバミ』にも、神託を聞いた者たちが魔族の侵攻を防ごうと、大勢に押し寄せダンジョン攻略に取り組んでいた――、

 

 

 

 

 

 ということは全く無かった。

 

 

 

 

 

 「……誰もこないね」

 「そうですね」

 

 一週間経っても誰も攻略に来ないことに、モニターの前に座り楽しみに待っていた黒はがっかりと肩を落とす。

 あのプロジェクトが始まる日、死を覚悟し、仲間と迎え撃とうと気合を入れた時の熱い気持ちはすで見る影も無く、すっかりやる気をなくしていた。

 

 「そう落ち込まないで下さいマスター。

 侵入者が来ないということは本来いいことではないですか、誰も侵入してこない間は、それだけ私達が安心して生活できるということなのですから」

 「それはわかるけど……」

 

 ムースの言っていることはわかる。

 わかるけれど、それでも納得できないモヤモヤがどうしても生まれてしまうのだ。

 それはせっかく苦労して造り上げ、万全の準備して待ち構えていたのに、その努力が無駄になってしまうことの虚しさからなのかもしれない。

 

 「ダンジョンの入り口の場所が悪いのかな?」

 「いえ、入り口は考える限り悪くないかと思います」

 

 ダンジョンの入り口は、西方にある大国とその周辺にある中規模の国のいくつかの境目となる山の中腹辺りに作ってある。

 入り口から歩いて半日ほどで中規模の国に通じる街道に出ることができる。

 ここならば国が軍をあげて攻めてくることがあったとしても、事前に察知することができるし、冒険者もそれなりに来やすいと思いここにしたのだ。

 

 「それに誰も来ないとマスターは言いましたが、昨日はちゃんと大物が入ってきたではないですか」

 「確かに入ってきたよ。

 入ってはきたけど……、あれは普通の熊だったよね」

 「普通なんてとんでもない。

 あの大きさの熊なんてなかなかお目にかかれませんので、恐らくはこの山の主だったと思われます。

 立派な大物ですよ」

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 初日は侵入者が来なくても仕方ないと思っていた。

 二、三日来ないのもまぁ納得できる。

 そろそろ誰か来るかな?と思っていた四日目からは、突然できたダンジョンの入り口に、警戒心が薄れたのか野生の動物たちが中に入ってくるようになった。

 兎に鼠、キツネに狸、蛇などはメーサがいるおかげか少しダンジョンの中に入ると、勢いよく奥に進みだしたほどだ。

 それらの入ってきた動物達は、少しだけ生け捕りにしてダンジョン内で育てることにし、残りは魔獣達のご飯になってもらった。

 そして昨日は今まで入ってきた兎や狸などとは体格が違う大きな熊がダンジョンに入ってきたのだ。

 

 兎や狸などなら密林エリアにいる蛇達や、魔狼達でも簡単に倒すことができる。

 だが入ってきた熊の大きさを見るとそれなりの戦闘力があると判断して、ヤードとスーラの二人に退治を頼んだ。

 

 「やれやれ、俺のダンジョンでの初めての仕事が熊退治とはな」

 「いいではないですかヤード殿。

 これから来る侵入者相手の肩慣らしだと思えば丁度良いでござるよ」

 

 二人には熊と戦うことにまったくの気負いはない。

 それもそうだろう。彼等が住んでいた地では、熊など可愛い犬みたいなものだったのだから。

 

 「二人とも怪我などしないようにお願いいたします。

 無駄に回復薬を使いたくありませんし、なによりマスターが心配しますので」

 「メーサおなかが減ってるから、熊肉楽しみに待ってるの。

 だからたくさん食べられるように、上手に狩ってくるの!」

 

 その背中に激励と言うよりも、自分たちの都合を優先した言葉でムースとメーサが送り出す。

 

 「……ただでさえ、やる気がなかったが、あいつらの言葉でさらに無くなったんだが」

 「……某も同感でござる」

 

 やる気をかなり減少させながら二人は熊のもとへと進んでいった。

 

 

 

 

 

 ダンジョンの入り口付近、狭い通路に目的の熊はいた。

 

 「意外にでかい…か?」

 「魔獣にいる魔熊よりは小さいでござが、それでも普通の熊に比べたら格段にでかいでござるよ」

 

 熊の巨体は狭い通路の半分以上を埋めていた。

 

 「さてと、どっちから行く?」

 「某はどちらでも構いませんが」

 「なら俺は最初様子を見ることにするか、先手はスーラに譲るよ」

 「是」

 

 スーラは武器である槍を握りしめ戦意を高め、ゆっくりとしたした足取りで熊との間合いを詰めていく。

 そんなスーラの背中を見ながら、ヤードは壁に背を付けのんびりとした観戦モードで二人の様子を見学する。

 一方入り口近くにいた熊も、前から戦意を持ちながら近づいてくる人影に、態勢を低くして威嚇の唸り声をあげる。

 

 「推して参るでござるよ」

 

 自分の間合いに熊を入れたと同時に、それまでのゆっくりとした歩行が嘘のような速さで間合いを詰める。

 そして手に持った槍を熊の頭を狙って鋭く突き出す。

 狭い通路しかも巨体のせいで熊には回避する術が無い状態、このまま狙い通り槍が頭に突き刺さるかと思われたが、頭に矛先が刺さる前に熊がいきなりその場に立ち上がることで間合いがずれ、槍は空突きに終わる。

 立ち上がった熊は天上に頭をこすりながらも、眼光鋭く槍を突き出した姿勢のスーラに向かい腕を振るう。

 剛腕が唸りを上げ、鋭い爪がスーラの頭目がけて振り下ろされるが、それをスーラは後ろに飛ぶことで回避する。

 

 「ふむ、当たれば痛そうでござるな」

 

 あの体格から繰り出される攻撃なら、体に当たるだけで甚大な怪我になるだろうし、頭になど急所にまともに喰らえば致命傷になる。

 

 「まぁ当たらぬでござるがな」

 

 その場で軽くステップを踏んだ後、再びスーラは熊の懐めがけて間合いを詰める。

 飛び込んできたスーラに熊は再び腕を振り下ろすが、その攻撃は地面すれすれまで身を低くすることで避わす。

 

 「威力は認めるでござるが、いささか間合いが狭いでござるな」

 

 熊の前足はそんなに長くは無い。

 しかも立ったた状態で腕を振るっているのだ、身を低くすれば簡単に避けることができる。

 避わした勢いそのままで懐に入ると、槍を素早く振るい数度熊の腹を突く。

 「グゥゥ」槍の攻撃を受け熊が悲鳴をあげる。

 ダメージは確かに与えた、だがまだ致命傷にはならない。

 熊は傷つきながらも懐にいるスーラを押し潰そうと、立った姿勢から地面に倒れるように全体重で押し潰そうとするが、地面に倒れるよりも早くスーラは懐から抜け出し熊から距離を取る。

 

 「あれだけ攻撃を繰り出しても死なぬか……。

 やはり某の攻撃は決定力に欠けるでござるな」

 

 素早い動きを得意とする代わりに力が弱い。

 倒れた体を起き上がらせる熊を見ながら、この後も攻撃を避けながら何回か槍を突けば確実に倒せるとは思う反面、何回も攻撃する分危険も増えてくると考えてしまう。

 この程度の敵に傷を負うわけにはいかないと、気合を入れて再び熊に攻撃しようとしたとき、それまで黙って見ていたヤードが待ったをかける。

 

 「スーラ交代だ。

 次は俺が相手をする」

 

 軽く首を回し、体をほぐすヤードにここは黙って譲ることにする。

 本来ならば、このまま戦いところなのだが、それと同時に自信満々に戦うと言ったヤードの戦う姿を見てみたいとい言う気持ちもあった。

 

 「わかりました。

 よろしくお願いしまう」

 「おう、任せとけ」

 

 力強くそう言い、ヤードは下がるスーラと入れ違いに熊の前に立つ。

 

 「ほら、かかってこいよ熊さん」

 

 片方の手のひらを上にして挑発するように手招きする。

 言葉は通じないだろう、だが発する気配から明らかに自分を軽んじている事がわかる。

 傷を負い、かなり思考が偏っていた熊は咆哮を上げヤードへと突進してくる。

 

 「いい気迫だ」

 

 嬉しそうにそう言い、ヤードは重心を落とし足に力を入れ、地面に根が生やすイメージを持ち、熊を待ちうける。

 その姿を見てスーラが驚きの声を上げる。

 

 「受け止める気でござるか!?」

 

 身長はヤードよりも頭3つ分は大きく、体重にいたっては4倍近くある熊、それが勢い付けてぶつかって来るのだ。

 常識的に考えてヤードが受け止められるはずが無い。

 だが、そんな常識など崩さんとばかりにヤードは不敵に言う。

 

 「受け止める?それは違うな。

 向かってくる敵に対して、避ける理由が無いから立ち向かうだけだ」

 

 そう言ったヤードの目の前にはもう勢いに乗った熊が、一瞬後には激突をする所まで来ていた。

 

 「グォゥゥ」

 「オラァァァァァ!!!!!」

 

 雄叫びをあげ敵をなぎ倒そうと前に進む熊。

 自身も熊に負けない声を出し向かい受けるヤード。

 一瞬後、ガッン!!という肉と肉がぶつかるというよりは鋼と鋼がぶつかるような音を通路中に響かせて二人はぶつかる。

 

 「ハハッ、やっぱりすっごい力だな」

 

 踏ん張ろうとしたのだが、勢いを止めることなくその場から何メートルも推し進められてしまったヤード。

 だが、推し進められはしたが、その両腕はしっかりと熊の首を絞め突進を止めた。

 

 「悪いがこの先に進ませるわけにはいかないんでな」

 

 背後に守るべき者がいる今、加護の力を十分に発揮したヤードが締めている両腕にさらに力を込め、一気に首の骨を折る。

 ゴッキという音とともに、うめき声一つあげさせず熊を殺した。

 力が抜けた熊の首からヤードが腕を解くと、熊はその場に倒れる。

 そんな熊の姿を見たヤードは一言告げる。

 それは戦いの感想でも、殺してしまったことに対する詫びでも無く、酷くその場にかけ離れているような言葉で、その実しっかりと現実的な一言を。

 

 「俺は一応無傷で仕留められたな。

 これで蛇っ娘に喧しく言われることも無いだろうよ」

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 「その後、二人が持って帰ってきた熊肉をみんなで熊鍋にして食べたんだよ」

 「おいしかったですね。

 特に私は熊の手が気にいりました」

 

 ダンジョン内で初の大物を仕留めたということで、その日はみんなで盛大な鍋会を開いたのだ。

 初の大物が熊なのはどうなの?とは思ったが、そこら辺は考えたら負けだ。

 

 「この調子でまた大物が入っていただければ、今後の食生活が楽なのですけどね」

 

 ムースがそう言うが、俺としてはやはり熊以外にも大物が来て欲しい。

 そんな願いを心の中で思った瞬間、俺の脳内にダンジョンに誰かが入ってきたのを感じ取る。

 これは俺が持っているスキル【侵入者警報】が発動したのだ。

 

 「ムース」

 「はい」

 

 俺のその呼びかけだけで、ムースは何も聞かず部屋に置いてある大型モニターの電源を入れる。

 このモニターはダンジョン内の様子を写すことができるのだ。(これを手に入れるためには1500DP必要だったが、それだけの価値がある)

 モニターが点くと、そこにはダンジョンの入り口付近の様子が映っており、二人の男がダンジョンを警戒しようともせずに堂々と中に足を踏み入れる様子が映っていた。

 

 そんな男達を見た瞬間、俺の顔に笑みが浮かぶ。

 そして、笑みを浮かべたままダンジョンにいる仲間達に一斉に通話をおこなう。

 

 「全員聞いてくれ、ダンジョンに侵入者が入って来た」

 「なんだ主、昨日に続いてまた熊か?それとも今度は猪か?」

 「イノシシ?それなら今日はボタン鍋なの」

 「いや、侵入者は猪じゃないよ。

 今日の侵入者は人間だ」

 

 その言葉に通話が繋がっている全員の気配が変わる。

 

 「ほぉ……、それはいよいよってことだな」

 「あぁ、いよいよ本番と言うことだ」

 

 そう、神託から一週間。

 いよいよ俺達のダンジョンが本質的に動き出すのだ。

 

 「作戦は前もって伝えていた通りだ。

 何か変更がある場合はすぐに通話で指示をする。

 

 みんな初めてのお客様だ、怪我などしないように十分に注意しながらよろしく頼むよ」

 「おう」

 「はーい」

 「是」

 

 ダンジョンにいる仲間の返事を聞き、俺は再びモニターに目を向ける。

 何も知らずダンジョンを進む二人の男達。

 この二人にどこまで俺のダンジョンが通用するか試してみようじゃないか。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。


日々読んで頂ける人が増えております。

読んでいただいたすべての人のこの場で感謝の言葉を述べさせていただきます。

本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ