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デビルズ・ダンジョン ~悪魔に頼まれダンジョン造り~  作者: 夢見長屋
動きだした世界、プロジェクト開始
32/103

その日、世界が動き出す(後編)

本日二話投稿してます。

前話を見てから、今回の話を読んで下さい

 とある大国の王と大臣たちの会話

 

 

 「それで、現状は把握できたか」

 「はっ、神託後混乱する兵士を落ち着かせ、すぐに国中いたる所に兵を派遣し巡回させ確認させたところ、確かにそれまで何も無かった山の中や海岸、それに辺境の村付近にダンジョンの入り口と思われるものを数カ所発見しました」

 「そうか……。

 それで、中はどうなっているか調べたのか?」

 「いえ、神託の通りならば中には魔族が生息しており、何が起きるのか分かりませんので、現在は入り口付近に複数の兵士達を配置し監視させるだけに留めております」

 「なにを悠長なことを!いつ魔族がダンジョンから出てきて我らを襲ってくるかわからないのだぞ!!

 さっさと中に入りダンジョンを攻略して、魔族達を始末するべきだろう!」

 「その通りだ。手遅れになった遅いのだぞ!」

 「もしや騎士団長殿は魔族と戦うのを恐れているのではないか?」

 「恐れてなどいません!!

 確かにいつ魔族が地上に出てきて我々を襲ってくるかは心配です。ですがだからと言って何も準備をせずに、迂闊にダンジョンに入る事はできません。

 ダンジョンの中がどうなっているかわからない以上、迂闊に入れば無駄に兵達を失う可能性もあるのです。

 今後の事を考えるならば、兵士達を無駄に失うような真似はできません」

 

 ダンジョンの対処の仕方について騎士団長と大臣たちは互いの意見を激しく言い争う。

 どちらの意見も的を射ているため、いい合わそいはどうしても平行線となってしまう。

 王は御前で繰り広げられる彼等の言い分をしばらく聞いていたが、やがて静かに片手を上げ彼等の言い争い黙らせる。

 

 「大臣達よ、お主らの気持ちはよくわかる。

 襲ってくるであろう魔族達は脅威であり、その脅威は早々に払いのけなければいけない。

 だが、余は今回あえて騎士団長の言葉を尊重することにする」

 

 王の言葉に大臣達が口を開きかけるがそれを手で制す。

 

 「大神である創造神ライア様がわざわざ我々に神託を下さったのだ。

 これはつまり我等にも魔族達に対抗できるということに他ならない。

 ならばこそ、初手を間違ってはならぬ。

 騎士団長よ、全軍の指揮をとりダンジョン攻略に臨め!」

 「はっ!!」

 「大臣達も一丸となってダンジョン攻略のためのフォローをしていくのだ」

 「「「 畏まりました 」」」

 

 王の宣言にその場にいた全てのものが頭を下げる。

 

 こうしてかの大国はいち早くダンジョンの対処を進めていった。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とある兵士たちの場合

 

 

 「まっさか、あんなことがあるなんてな」

 「まったくだぜ。

 俺なんてあの神託が聞こえてきた瞬間、驚いて腰抜かしちゃったよ」

 「俺も同じだ。

 うんで、神託が終わった後気付いたら知らないおっさんと抱き合ってたよ」

 「マジか」

 「マジマジ、どうせ抱き合うなら花屋のクラミーと抱き合っていたかったぜ」

 「違いねー」

 「「 ハッハハハハハーー 」」

 

 二人の兵士は互いの肩を叩き合ってひとしきり笑い合う。

 

 「それでお前これからどうするんだ?」

 「どうするんだって言われてもな~。俺達みたいな新米兵士なんて特にすることないだろうよ。

 命令に従って、ダンジョンにでも入るんじゃないのか?」

 「そうなんだけどよ。

 あの神託で神様が言ってたじゃないか、『魔族と戦うと意志を持つものに我等神々は力を与えよう』って、もし魔族と戦うと決めたら俺達もすごい力持てるんじゃないか?」

 「お前それ夢見すぎだって、いくら神様がそう言ってても、俺達みたいのがそんなすごい力持てるはずないだろう」

 「そうかな~」

 「そうだよ。

 そんな夢見てると簡単に魔族に殺されるぞ」

 「あぁ……、そうだな」

 

 口ではそう言いながらも、どこかあきらめきれない兵士の肩を叩き二人は仕事に戻っていく。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 冒険者たちの集まる酒場で

 

 

 「よっし、きたぜ俺様の時代が!!

 これからこの俺、『剛腕のハック』様がダンジョンに乗りこんで攻略して来てやるぜ!」

 

 椅子の上に立ち、顔を真っ赤にしたハックが酒瓶を持ちながらそう大声で宣言する。

 

 「おいおい大丈夫か?酒の飲みすぎでついにおかしくなったか?」

 「もとからあいつはおかしい奴だろう」

 「ちっげねー」

 

 ハックの宣言を聞いた酒場にいた冒険者たちがそう言って皆腹を抱えて爆笑する。

 そんな周りの笑い声に、酒であからんでいた以上に顔を怒りに真っ赤に染めたハックは、飲み代を乱暴に机に置くとそのまま店から出るために皆に背を向ける。

 

 「ふん、笑いたい奴は今の内笑っとけ、あとで俺様が一番初めに神様からの褒美をもらえた時は、その笑い顔も引きつり顔に変わるだろうよ」

 「無理無理、お前さんみたいなのがダンジョンを攻略できるはずないだろう」

 「神様の褒美ってやつには心引かれるけど、少し危ない気がするしな」

 「なに言ってんだよ、危ないとこに飛び込むのが冒険者ってもんだろうが!」

 「確かにな、今んとこ冒険者の中で一番攻略できそうなのは『猟犬』のチームか?」

 「いやそこよりも『ブルーソード』のチームが一番だろう」

 

 ハックの言葉なども歯負け犬の捨て台詞だと皆歯牙にもかけず、それぞれが酒の肴に冒次々に有名なチームの名をあげていく。

 それぞれが自信がないように言い、なのあるチームの名を上げていくが、彼等の目の奥からは野望に燃えて炎がチラチラと見え隠れしている。

 彼らもまた機会を窺いながらダンジョンの攻略を狙っているのだ。

 危険な場所に自ら踏み込む冒険者である彼等が、こんな美味しい話を大人しく見ているはずもない。

 しばらくは新たの情報が入ってくるのを待ち、それから本格的に攻略に乗り出すつもりなのだ。

 

 

 

 そしてそんな酒を楽しんでいた彼等は気付かなかった。

 誰にも宣言を真剣に受け取られなかったハックが静かに行動に移していた事に、その足はダンジョンが出現したと言われる方に向かっていることに。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とある獣人族の村での村長と若者の会話

 

 

 「本当に行くのかぇ?」

 「あぁ、行くよ村長」

 

 がっしりとした体格をした若者はそう言い、準備していた旅道具肩に担ぎ村の外に向かうために村長に背を向ける。

 

 「お前さんには、ワシの後を継いで欲しかったのじゃがなぁ」

 「……本当にすまんな村長。

 俺も何も無ければ継ぐつもりだったよ。だけどあの神託を聞いた以上、このままこの村でじっとしていくことなんてできないんだ。

 俺はダンジョンに挑んでみたいんだよ」

 

 まだ見ぬこれから進もうとする旅の先に思いを馳せ、その目を野望に燃えらせる。

 

 「俺達虎族は身体能力に優れた獣人の中でも人一倍身体能力の優れた最強の一族だ。

 だが今までの平和が長く続いた世界じゃ誰もそんなことたいして気に留めもしなかった。

 馬より速く走れても、大人数人分の力があっても、害獣を単身で倒せたとしてもだ!

 そんなもの平和な世界じゃ、逆に疎まれる。

 だが今はどうだ?

 神託が下った今なら俺達を見る他の奴らの視線も変わってくるんじゃないか。

 だから俺は行くよ。

 ダンジョンを攻略して、俺達一族の名を世に知らしめ、虎族が獣人最強ということを証明してやるよ!」

 

 普段無口だった若者が、これほど自分の思いを口にした事があっただろうか。

 もう先が見えてきた村長にとって、まだまだ先が見えない若者のその思いを止めることなどできるはずも無かった。

 

 「……そうかぁ、お主がそこまで決めたのならもうワシは止めんよぉ。

 ワシはだた残り少ない時をお主の無事を祈っておくよぉ」

 「すまないな。今まで育ててくれたのに碌に恩返しもできないで」

 「構わんよ。いつだって子供は親の手から飛び立っていくものよぉ。

 お前の活躍を期待しておるよぉ」

 「あぁ、期待していてくれ」

 

 深く深く頭を下げた若者は、振り返る事も無くダンジョンを目指し進んでいく。

 その小さくなっていく背中を、村長は見えなくなるまでじっと見送っていた。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とある幻想郷での妖精族の会話

 

 

 「では今回の神託に対し我々エルフの一族は静観すると?」

 「その通りです」

 

 普段から変わる事のない頬笑みを浮かべたまま告げた族長の言葉に、私は机に拳を強く叩きつけながら反論する。

 

 「族長は大神様からの神託を無視するというのですか!!」

 「無視ではありませんよ。

 私は言いましたよ。一族に被害が出るようならこれに対してきちんと対処しいくと、そして対処していくだけで、こちらから手を出すことはありませんと」

 「それは無視と同じ行為ではありませんか!」

 「全然違いますよ。

 私達エルフの一族は世界樹の麓に住処を定めた一族。

 攻め入る者には断固として立ち向かいますが、こちらから攻めに出ることは無い。

 それが私達一族の掟ですよ」

 「掟だというのはわかります。

 ですがことは世界中を巻き込むもの、掟に縛られている場合ではないでしょう。

 大神様から神託を受けたというのに、まだ掟に従うというのですか!!」

 「確かに大神様から神託はありました。

 ですが私達は幻想神ファズム様の子です」

 

 創造神である大神ライフ様は確かに偉大であろう。

 だがエルフの一族にとっては、大神様よりも我々をエルフという種を生み出してくれた幻想神ファズム様の方を崇拝している。

 

 「神託の後、世界樹で禊をしていた巫女に幻想神ファズム様が降臨しお言葉を授かりました。

 『今回の神託に関し、各自の心に従い行動せよ』と、ですので私達エルフの一族は今まで通り、掟に則り危害を加えようとする者たちに対してのみ戦います」

 

 族長の説明を聞き、私は握っていた拳をさらに強く握りしめる。

 大神様は『世界の平和のため』と言った。なのにこんなところで私達はじっとしていていいのか?

 

 私の心情を見かねたのだろう、族長はハァと溜息をついてから私に一つの提案をする。

 

 「もしあなたが大神様の神託に従いダンジョンに挑みたいというなら郷を抜けなさい。

 郷から抜けた者の行動については私達も関与しないわ」

 

 エルフにおいて郷を抜けるとは別に珍しくも無い事だ。

 もともと掟のせいで閉鎖的なところがある一族のため、ある程度の実力のあるものを定期的に郷の外に出し新しい風を取り込んでいる。

 また若者の見聞を広げさせる意味も込めて、最近では積極的に郷を一度出るように勧められているほどだ。

 

 「……わかりました。

 私は一度郷を抜けます。そして世界の平和のために力を尽くしてきます」

 

 胸を張ってそう族長に告げた私は、旅立つ準備のために急いで家に戻る。

 世界のために戦える、そのことに意識を奪われていた私には背を向けた私に向けて族長が小さく呟いた言葉は聞きとることができなかった。

 

 「『世界の平和のため』ね……、その言葉の意味を、本質をあなたはちゃんと理解できているのかしら。

 綺麗な言葉、耳に良い言葉というのはいつだって真実を遠ざけてしまうものね。

 気をつけなさい。大神様の言葉の意味を、本質をきちんと理解できていないうちは、あなたは神の手の平で遊ぶことになるわよ」

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とある帝国の牢獄での会話

 

 

 「おい、聞こえたか?」

 「あぁ聞こえたよ。

 だがそれがどうした。外に出られない俺達には関係ないことだろう」

 

 狭く室内、日の光が入らない暗い環境、湿気が酷く酷く不快になる空気、そんな悪質な環境で、罪を犯した者達が生活をしていた。

 

 「俺達は所詮死刑を待つか、永遠にここで過ごすだけの存在だ。

 神託なんて聞いても、俺達の人生何も変わらねぇよ」

 

 悪質な環境が、彼等から希望を奪い生きることを諦めさせていた。

 希望を失わせる。それこそがこの環境の意味であり、死を待つばかりの彼らへの罰なのであった。

 そんな希望を失っている彼らに神託が下っても、彼等は牢獄の外にいる者達のように喜ぶ事など無い。

 

 「あ~くそ、ここに来る前に神託を聞ければな。

 俺の人生、もっと違うものになってたかもしれないな~」

 「馬鹿か、お前の人生なんてどうやり直しても碌なもんじゃないだろう」

 「なんだと!」

 

 一人が言った軽口に悪態を返したことで殴り合いのケンカが始まるかと思われたとき、牢獄の入り口から一人の男が笑顔で両手を広げながら現れる。

 

 「おやおや、死ぬのを待つばかりという社会の屑の皆さんは、こんな人が住むような環境じゃない場所にいるというのに元気がいいですね。

 やはり屑の皆さんはゴミ溜めみたいな場所にいる方が元気が出るのでしょうか?」

 

 笑顔で囚人達にそんな事を言ってくる男に、喧嘩をしようとしていた物の、それを見学しようとしていたものも、皆一斉に男を睨みつける。

 ここに入れられるだけの罪を犯した人間の睨みだ、普通の人間なら失禁してもおかしくないほどの威圧がある。だがそんな威圧も男はどこ吹く風とばかりに一方的に話を続ける。

 

 「いいですね、いいですね。

 是非ともその元気を私のために生かしてもらいましょうか。

 上手く事が運べば、何の役にも立たない社会の屑であるあなた達も価値ある屑として子から出られ、外の世界で再び生きることができるかもしれませんよ?」

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 龍族の会話

 

 

 「なんじゃ、また悪戯の神が何か始めたのか?」

 「いえ今回は大神であるライフ様が出てきていますので、トリク様だけの考えではないかと」

 「まったくいい歳をして、神様方はいつまでたっても落ちつかんのう」

 

 龍族達の頂点に位置する大老はそう言って大きく溜息をつく。

 

 「それで大老、我らはこの神託を受けどう動きましょう?」

 「好きにせい」

 「はっ?」

 「好きにすればよいと言ったのじゃ。

 自分の思う通り行動せい、ワシは止めはせん」

 「よろしいので?」

 「若い連中のなかには大神様の神託を聞き、暴れたくて仕方ない小僧達も多いじゃろう。

 まぁ神託がなくても、最近の小僧達は鬱憤が溜まっていたみたいじゃがな。

 いい機会じゃ、たまには自らの力を発揮し、実力を知ることもいい経験じゃろう」

 「……では皆にはそのように伝えさせていただきます」

 「おうおう、好きにせい、好きにせい」

 

 神託を聞き集まっていた各龍種の族長達が去った後、誰もいなくなった部屋で大老は意地の悪そうな顔で笑いだす。

 

 おそらく各族長達は今回のダンジョン攻略が簡単に終わると思っている。

 神に次ぐと言われる龍種の力。自身らのその力を過信しているから短絡的なそんな考えにいたるのだ。

 

 彼等はいつその考えの間違いに気づくだろうか?

 気付く時は傷ついたときか?それとも死ぬことになるときか?いつ気付くかはわからないが気づいたときはきっと心身ともに手ひどくやれれた時だろう。

 

 「ワシ等がいかに強大な力を持っておったとしても所詮それは他種族から見てじゃ、神々から見ればワシら龍種も他の種族もたいして差は無いというのにのう」

 

 大老はかつて神々の思惑のせいで滅ぼされかけた種族の王である友のことを思い浮かべる。

 

 「どうせ今回の神託についてお前も噛んでおるのだろう。クラウンよ」

 

 旧友の名をつぶやき、静かに龍族の大老は世界の成り行きを見守ることにする。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とある辺境にある小さな村にて

 

 

 神託を受けたとき、僕は体に衝撃を受けたように感じた。

 神託が終わり村の人々が叫び泣きだし抱き合ったりしている中で、僕は一人ただ静かに空を見上げていた。

 

 平凡と言われていた。

 5人兄弟の次男でこのまま成長して、いつか家を出て自分の畑を持ち、嫁を迎え、子供を作り、老いて死ぬだけの人生だと思っていた。

 だがあの神託の後、僕の中にそんな平凡な未来は浮かばなかった。

 

 浮かんだのは物語に出てくるような英雄の姿。

 人々を苦しみから救い、悪を倒す偉大なる英雄となった僕の姿が浮かんできた。

 

 剣を持ったことなんてないし、戦ったのも兄弟喧嘩ぐらいだ。

 

 だが僕ならなれる。

 

 根拠はないがそう思えた。

 

 この日僕は英雄になるために一歩踏み出した。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 教会にて

 

 

 この日いつものように朝のミサをおこなっていた時、突然神託が下された。

 神に仕える者として毎日祈りを捧げてきたが、これまで一度も神の聞いたことも無く、その力も感じたことも無い私にとって大神の神託は驚きの一言だった。

 

 大神の神託が終わった時、私は知らぬうちに涙を流していた。

 

 神に仕えていて良かった。

 このとき心の底からそう思えた。

 

 そう思った後、私は決意した。

 

 神の神託の通り私も世界の平和のために戦おうと。

 

 戦闘自体はできないが、幸いなことに私には教会に訪れる怪我人は治療するために治癒術が使える。

 この力を使いダンジョン攻略に臨む人達を助けよう。

 

 そう決意して、私は大神と教会が祀る神治癒の神キュールに祈りを捧げる。

 すると再び私に神の声が届く、

 

 (愛しい我が子よ。その気持ちに答え私の加護を授けます)

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は治癒の神の加護を授かりました。

 突然の加護にまた私は感激して泣きだしてしまいました。

 

 しばらくして涙が止まると、私は決意を胸に歩き出します。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 魔族達の会話

 

 

 「始まったな」

 「そうですね」

 

 プロジェクトがいよいよ始まる。

 始まるまで死ぬほど忙しかったのが嘘のように、現在はかなり落ち着いている。

 

 「これからどうなるのでしょうね」

 「そればかりは、私もなんとも言えませんね」

 

 企画を立てたのはクラウンだが、それを仕上げたのは彼が呼んだ異世界の人間達だ。

 軽くダンジョン造りの様子を見ただけで、クラウンは今後の展開の予想を立てるのを止めようと考えたくらいだ。

 

 「まったくイイ性格のダンジョンが多いことで」

 「魔王にそう言わしめるとは、なかなかできることではないな」

 

 補佐官である彼女がクックックッと喉を鳴らして笑う。

 確かに悪魔でも引いてしまうような仕掛けを作るなんて、なかなかできることではないだろう。

 

 「それでクラウン。君の考えだとどれくらいのダンジョンが持つと思う?」

 「おそらくですが、一年間のうちに3分の1のダンジョンは攻略されるでしょうね」

 「そんなにもかい?」

 「えぇ、イイ性格のダンジョンが多いと言いましたが、それは多いだけで全てではありません。

 中には始まる前からあきらめていた者もいましたので」

 

 そうプロジェクトを説明したときは喜んでいたくせに、実際にこちらの世界に来た途端元の世界に返せと言ってきた人間もいる。

 

 「せっかく苦労して選んで連れてきたのにな」

 「まったくです」

 

 あの苦労を返して欲しい。

 

 「それでも残りのダンジョンには期待が持てるんだろう?」

 「もちろんですよ」

 

 残りの3分の2のDDM達は実にいい仕事をしている。

 今後何が起こるか分からないので確実なことは言えないが、それでも彼等は確実にプロジェクトを成功に導いてくれるだろう。

 

 そんな事を考えている、部屋の扉をノックされる。

 

 「クラウン様、申し訳ありません緊急の用件が発生しました」

 

 部下からの声に、やれやれとため息を吐き仕事に向かう。

 その際に補佐官である彼女に告げる。

 

 「これからも忙しくなると思いますが、よろしくお願いしますね」

 「まかせろよ。

 旦那を支えるのが妻の仕事だろう」

 

 戦争に負け、神々の雑用をするようになってもついて来てくれた妻に感謝しながら、クラウンは早速仕事に取り掛かる。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 とあるDDMの場合

 

 

 「いよいよだね。みんなよろしく」

 

 精一杯の気持ちを込めてそう告げる。

 みんなが力強く頷き返してくれた事に、こちらの思いが十分に仲間に伝わったと実感できた。

 

 

 

 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 その日、世界が動き出す。

 

 富が生まれる。

 名誉が生まれる。

 栄光が生まれる。

 

 苦痛が待っている。

 恐怖が待っている。

 死が待っている。

 

 楽園が手を伸ばす。

 

 地獄が口を開く。

 

 

 さあ動き出そう。

 

 DDMとなった者たちの新しい人生を、

 神々の暇な時間に終止符を、

 魔族の願望の先を、

 

 

 まだ見ぬ先を、ダンジョンに求めて


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