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悪魔の証明

 「……異世界ね。まだこの眼で見たこと無いけどあるんじゃない?」

 

 最近のゲームやラノベなどでは異世界は定番だし、俺もシナリオや小説を書く時によく異世界設定を使っている。

 個人的な希望としてあって欲しいとも思っている。

 

 「それに異世界の存在の証明なんて、悪魔の証明と同じだろう?」

 

 『悪魔の証明』それは一つの思考実験の様なものだ。

 現在この世界に悪魔がいないという証明は絶対に出来ない。

 なぜか、それは悪魔がいないと言った次の瞬間、悪魔が現れる可能性があるからだ。

 逆に悪魔がいるという証明も絶対にできない。

 なぜか、それは悪魔という存在を証明できたものがいないからだ。

 極端な話だが、現在いないからいないという証明に未来という可能性を含めると、これからどうなるか分からない以上絶対の証明はできないということだ。

 異世界の存在も同じこと、今まで存在を確認できなかったからと言って、これからも存在しないとは限らない。

 

 「まったくその通りです。

 ですが、悪魔の証明なら簡単に証明出来ますよ」

 

 そう言ってクラウンは左目につけた眼帯を外す。

 そこには人間にはあり得ない複雑な模様が浮かぶ紫色の目があやしく光を放っており、いつの間にかクラウンの頭の両サイドから螺旋れた山羊の様な角が生え、細長い尻尾や漆黒の翼が生えていた。

 

 「こう見えて私、悪魔なんです」

 

 クラウンは異形の姿でも見る者を見惚れるような笑みを浮かべる。

 明らかに先ほど俺が殴りかかっていったときとは雰囲気が違う。

 先ほど殴りかかった時は普通の存在感しかなかったのに、今目の前にいる存在の気配に本能が頭の中をうるさいほど逃げろと警報を鳴らす。

 その警報で否が応でも理解させられる。

 間違いなくこいつは人間では無く悪魔だと、しかも俺なんかよりもはるかに強い存在だと。

 

 そしてクラウンがここで自分が悪魔だと証明したからには、先ほどの質問もおのずと答えが出る。

 クラウンの気配に逃げ出しそうになる足を無理やり押さえつけ、そのまま止まりながらカラカラになった口で何とか先ほどのクラウンの質問に答える。

 

 「……お前は異世界から来たのか?」

 「その通りです」

 

 クラウンは満面の笑みを浮かべて正解した俺に拍手を送るが、今のクラウンの気配で送られるそれは、どう見ても弱者を追い詰めるようにしか受け取ることが出来ず、俺はついに耐えきれなくなり意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 二時間後、意識を取り戻した俺に眼帯を付け直したことで姿と気配が元の平凡に戻ったクラウンに平謝りされることになった。

 

 「申し訳ございません。

 どうも制御装置を外すとこの世界では私の存在の格が強過ぎるらしく、普通の人は堪えられないようで、本来ならば私の本当の姿を見ていただいたらすぐに元に戻るつもりだったのですが、神無月様の態度が変わらなかったものですからそのままの姿でいました」

 

 どうもあの眼帯がクラウンの悪魔としての力を制御しているようだ。

 それと俺は別に態度が変わらなかったわけではない。

 驚き過ぎて一周して態度が表に出ていなかっただけだ。

 平謝りを続けるクラウンにこのままでは話が先に進まないと感じ、話の続きを促す。

 

 「それで異世界の証明が出来たことだ、次はその異世界でやろうとしているプロジェクトについて教えてくれるんだろう?」

 「もちろんです」

 

 頭を上げたクラウンは襟を正しプロジェクトの説明に入る。

 

 「私達が住む世界は『ライフ』と呼ばれ、さまざまな神々が創り上げた剣と魔法の世界となっております。

 そこでは人間達の他にも獣人やエルフと呼ばれる亜人や、竜族や魔族と呼ばれる力の強い種族、妖精や精霊などと言った半霊半人的な種族など多種多様な種族が住んでおります。

 そして近年少し困ったことがライフで起きていまして、その問題を解決するために神無月様にはプロジェクトに参加をお願いしたいのですよ」

 「困ったことね。人族と魔族との戦争とか?」

 

 先程魔族がいると言っていた。

 しかも力の強い種族として魔族と呼んだ、展開として一番多いのが勇者みたいな役割を異世界人に求めることだ。

 

 「いえ、人族と魔族との戦争はすでに人族側の勝利で終わっております」

 「終わってるの!!!」

 「はい数百年目に戦争は終わりました。負けた魔族側の多くは神々によって地下に封印されております」

 「……なら問題って言うのは戦争後に生まれる差別化や迫害の対処か?」

 

 すでに戦争が終わっているのは予想外だったが、戦争が終わっているとなると次はその後始末が問題となって来るものだ。

 戦争とは勝ったら終わりというわけではない。

 むしろ終わってからの方が問題が山積みになる。

 

 「いえ、それも戦争終了直後は混乱しておりましたが、現在では各国でそれぞれ大小問題を抱えておりますが、一先ずは安心できる範囲です」

 

 これも解決しているのか。

 だとしたら解決して欲しい事とはなんだ?

 頭に浮かぶ異世界の問題といえば文化の発展に貢献や、食料や土地の改善などだろう。

 わざわざ異世界の人材をプロジェクトに招きたいということは、それまで無かった価値観や知識などが必要とされていることだ。

 思わず考え込んでしまった俺に、クラウンは苦笑しながら説明する。

 

 「問題はですね。戦争が終わり平和になったことです」

 「…争いが無くなって人口が増えたか?そのせいで領土問題や食糧問題でも起こったか?それとも増えすぎた人口を減らすために口減らしの方法でも考えろってことかい?」

 

 人口が増えたらどうしても食料の問題が出てくし、あとは国があるようなことを言っていたので領土についても問題が出てくるのではないだろうか。

 生きていく上で食料は必須だ。

 下手したら食料を求めて、戦争が起きてしまうかもしれない。

 人数が増えればそれだけ問題の数も増えていくというものだ。

 それを解決しろってことか。

 いくらなんでもただの物書きの俺に頼むには荷が重いだろう。

 

 「安心して下さい、領土や土地については問題ないですよ。

 説明していませんでしたがライフはこの世界の三倍ほどの大きさがあり、そのうち各種族がそれぞれ住んでいる土地すべて合わせても全体の4割程度しか土地を活用していません。後の土地は未開の地と呼ばれ手付かずのまま残っています。

 まぁ先程神無月様がおっしゃった口減らしって言えばそうなる可能性もあるかもしれませんが、それはプロジェクトにおいて副産物的なものになってくると思います」

 

 その説明を聞きさらに分からなくなってきた。

 そしてクラウンが申し訳なさそうに告げる。

 

 「さっき言いましたよね。平和になったって、ここが一番の問題なんですよ」

 「……平和なのはいいことじゃないのか?」

 「いい事なんでしょうが、それは人間や他の種族にとってはなんですよ。

 つまり――、

 

 神様方はものすごく退屈してるんですよ」

 

 「あ~……」

 

 クラウンの言葉に俺の口はそんな言葉しか出てこなかった。

 さすがに種族的なことの問題は思い浮かんだが、神様のことまでは想像もつかなかった。

 

 そもそも神様が退屈って……。

 

 「もちろんライフにいらっしゃる神様方の全員が全員退屈しているわけではないのですが、神様の中には自分が創った種族や可愛がっている者やお気に入りの者など目に掛けている者達が活躍する機会が少ない今、かなり退屈だそうで……」

 

 平和の弊害と言うわけか。

 戦争など混乱があれば、英雄や勇者、聖女と呼ばれる神様に愛されるものたちの活躍の場は増えるだろう。

 良くも悪くも戦争という混沌は野に埋もれていた者が顔を出す機会でもあるからな。平和な時ではなかなかそう言った才能が芽を出す機会も無いだろう。

 

 「もちろん平和だからこそ活躍する者のいますよ。ですがその多くが商人や文官、作家や音楽家など文化系の物が多く、そのなんと言いますか…」

 「体育会系の神様たちは面白くないと」

 「その通りです」

 

 クラウンが苦労をにじませた笑顔で肯定する。

 

 「そこでですね。我々の商会は神様方から活躍の場を造るように頼まれまして、そうして考えられたのがこのプロジェクト『デビルズ・ダンジョン』な訳です」

 

 そのプロジェクトに付いているダンジョンと言う言葉で、なんとなくだがクラウンがやろうとしていることが見えてきた。

 

 「なるほど、つまりダンジョンを造ってそこを活躍の場にしようってことだな」

 「その通りです。異世界人の方々をライフにわざわざ招いてこのダンジョン造りをお願いするのは、どこの神様方にも贔屓が無いようにするための必要な処置なのです」

 

 なるほど同じ世界の住人を使えばどこかで不正が生じる可能性がある。

 それなら最初から何も関係ない人間を連れてきた方が、不正が無くていい。

 そしてライフとは違う環境で育ったおかげでこれまでに無かった発想が見ることが出来る。

 活躍の場と新しい発想まさに神様の退屈を紛らわすのに一石二鳥と言うわけだ。

 そこまで考えて急に気付く、俺はいつの間にかクラウンの話に惹きつけられているではないか。

 

 さすが悪魔。

 知らず知らず俺の心を掴んでいたか。

 

 だがここまで話を聞いたがすぐにプロジェクトに参加するとは言えない。

 まだ聞きたいことや疑問がたくさん残っている。

 それに相手は悪魔だ、まだ言っていないことや隠していることもたくさんあるだろう。

 頭の中で様々な疑問と予想を立てながら、まず初めに聞くことを口にする。

 

 「クラウンさん、いくつか質問したいことがあるんだかいいかい?」

 「もちろんです。何事にも情報は大切ですから私が知っていることでよければどんどんお答えします」

 「さっきの話の中で『異世界の方々』って言ったよな。つまりこのプロジェクトには俺以外にも何人か誘っているんだろう?

 一体何人ぐらい誘ってるだ?」

 

 今までの話を聞いた限りこのプロジェクトはかなり大掛かり、いや神懸かり的規模の話だ。

 そして神様方を相手にするプロジェクトだけに失敗は許されない。

 クラウンは失敗しないために、それなりの人間を選ぶはずだ。それは俺のことをある程度調べていたことからもわかる。

 あとはそれが何人ぐらいかが問題になってくる。

 質より量、量より質と言う言葉があるが、本当に失敗したくないのなら『質と量』両方を選ぶはずだ。

 

 俺の質問にクラウンがまたあの笑顔を浮かべる。

 

 悪魔らしい魅力的な笑みで質問に答える。

 

 「神無月様で丁度1000人目でございます」


最後までお読みいただきありがとうございます。

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