表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/103

激動

シリアス回です

 さっきはスライムを一匹だけ呼んだから、今度は複数同時に魔物を呼び出してみよう。

 そう考え黒は万魔事典のゴブリンのページを開く。

 ダンジョンと言えばゴブリンだろう。

 それに実際のゴブリンも見てみたいしね。


 名 前:ゴブリン

 契約P:5~15

 スキル:各種

 備 考:繁殖率が高い種族。

     進化の幅が広いのが特徴。


 契約のDPを見ても、それほど高くは無い。

 取り敢えず三匹ほど呼び出して様子を見ることにして、さっそく万魔事典に手を置き、先ほどのスライム同様に呼んでみる。


 だが先程呼んだスライムの時と違い、今度は体からいきなり力が抜ける感覚が黒を襲う。

 この感覚は一度経験したことがある。

 一番初め、そうムースと召喚したときに感じたあの疲労感だ。


 力が抜け思わず黒はその場に片膝をつくが、万魔事典の召喚はそのまま順調に進んでいく。

 目の前に光り輝く召喚陣が三つ描かれ、すぐにその陣の中にそれぞれ一匹ずつゴブリンが出現する。

 だがその様子を見て、黒は片膝をつきながら嫌な予感が背中を走る。

 その予感は、出現した三匹の中の一匹のゴブリンから感じてくる。



 光が収まりゴブリン達が自由に動けるようになる。

 初めは何が起きたのか理解できずキョロキョロと周りを見渡すが、やがて嫌な予感をさせているゴブリンの目付きが鋭くなると、手に持った棍棒を握りしめ早くも行動に移った。


 同じ呼ばれたゴブリンの頭を殴り飛ばすという行動に。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 ゴンザは足元に光り輝く人が現れたと思ったら、次の瞬間今までいた場所とは違う場所に立っていた。

 いきなりのことで混乱し、状況を確認するために周りを見れば、同じゴブリンが二人と、男と女が一人ずつ少し広い部屋にいるのが確認できた。


(あの男と女はそんなに強くないな)


 同じゴブリンの一族に追われ山に入ってから、ずっと強くなるために生き物を殺してきたゴンザは、今ではある程度だが相手の実力がわかるようになっていた。


(これなら後でゆっくりと殺せばいい。

 問題は…)


 ゴンザはチラリと近くにいる二人のゴブリンを見る。


(一人は俺より弱いな。もう一人は……、よくわからない)


 そのゴブリンは見た目からでは強そうには感じないが、それと同時に弱いって感じもしない変な印象を感じた。


(わからないが今はいい、先にもう一人の方を殺そう)


 自分より弱いが、その手には小ぶりの石器でできたナイフが握られていた。

 武器を持ったゴブリンに傷つけられた経験から、ゴンザはそう判断を決め、いまだ混乱しているそのゴブリンにゆっくりと近づく。

 いつものように―、


 強くなるために殺すために。


 ゴンガを殺したときからずっと使ってきた棍棒をギュッと握りしめ、棍棒の射程距離に入ると、迷わず体を捻り勢いよくそのゴブリンの顔面に棍棒を叩きつけた。


「ヒッギ」と変な声の悲鳴を上げ、殴られたゴブリンは床に勢いよく倒れる。


(駄目だ。

 今の感触では死んでいない)


 ゴンザは殴った手ごたえでそう判断できた。

 綺麗に棍棒が入ったのなら手に痺れは残らない。

 痺れが残るのは、骨に当たったせいで止められたせいだ。

 それでも骨が砕け死ぬ生き物もいるが、大抵はしぶとく生きている。

 実際床に倒れたゴブリンも、勢いよく鼻と口から血が出ているが、痛みに悲鳴を上げながら床を転げ回るほどで、死ぬ気配なんて無い。


(早く止めを刺さないと)


 ゴンザがとどめを刺そうと棍棒を振り上げたとき、その視界の隅で動く影を捕らえ、それと同時に発せられた声がゴンザの標的を変えさせた。





 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 ムースは事の流れに初めついていけず、ただ見ていることしかできなかった。


 最初はマスターがその場に膝をついた事。

 万魔事典で呼び出す際、よほどの存在でもない限りそういうことは起こらない。

 ムースの時は、はじめての召喚でもあり同時に魔族が住む場所とのパスとなる道をつなげたことで疲労したが、それは例外みたいなものだ。

 後ろからスライムの次に呼び出す魔物のページを見ていたが、呼び出すのは魔族でも弱者に入るゴブリンだった。

 ゴブリンを呼んだくらいでマスターが膝をつくことなどあり得ない。


 だが実際にマスターは片膝をついている。

 その驚きと疑問を整理しようと思考する間にも、召喚は続き光り輝く陣が現れ陣の中にゴブリンの姿が現れると、今度は背中に寒気が走る。

 呼び出されたゴブリンの一人からは、ゴブリンとは思えないような気配を感じる。

 昔同じ気配を出した者を見たことがある。

 同じ一族のもので、壊れてしまった者。

 その者と同じ気配。

 あの気配を持った者は危険だ。


 早く対処しなければ。

 そう考えるのだがそのゴブリンから発する気配のせいで体が動かない。

 動けない間にも事態は進んでいく。

 そのゴブリンはいきなり同族であるゴブリンを攻撃した。


 何の躊躇も無く。


 部屋に悲鳴が響く。

 そしてその悲鳴に混じり、小さかったが確かにマスターの声も聞こえた。

 それがマスターの悲鳴の声だったのか、それとも疑問から出た声だったのかはわからないが、今はどうでもいい。


 大切なのはマスターを守ることだ。


 動けない体をそう言って叱咤し、動き出す。


「マスター、離れて下さい!」


 声を上げマスターに避難するように告げ、自身はマスターの前に両手を広げ立ちふさがる。

 戦闘力は無いが、マスターを守るために壁くらいにはなれる。




 マスターどうかご無事で……。


 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 覚悟を決めて立ち塞がったムースをゴンザは感情の映らない瞳で写す。

 強くないのに俺の前に立った。

 そのことが無性に腹が立つ。

 ゴンザは振り上げていた棍棒の目標をムースに変えて、雄叫びをあげて棍棒を振り下ろす。


 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 俺は突然の出来事に何だかわからなかった。

 疲労感で思わず片膝をつき、嫌な予感がしたら呼び出したゴブリンがいきなり同じゴブリンを攻撃し出した。

 目も前に映ったゴブリンの血に茫然と口からつぶやきが漏れる。


 そして、ムースの声が聞こえたと思ったら、彼女が俺の前に両手広げ立ちふさがった。

 突然の出来事でわからないことだらけだが、その行為の意味だけはわかる。

 ムースの背中からはっきりとつたわってくるからだ。


 おいムースなにしてんだよ。


 そう思うが言葉は口から出ない。


 ふざけるなよ。

 なんで俺を庇おうとしてるんだよ!!


 止めようとするが、俺は動けてはいない。


 彼女は戦闘力が無いって言っていた。

 それなのに俺を庇おうとしている。


 命を懸けて。




 なのに俺は何をしている?

 黙ってこのままムースが殺されるのを見ているのか?

 動かないままでいいのか?


 違うだろう!!


 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 このとき黒には自身の事や、ダンジョンのことなど頭には無かった。

 頭にあったのは―、

 いや、体を動かせたのは黒がこれまで生きて培った成果。


 そして、その黒の行動が事態を変えた。


 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆






「下がれムース!」


 目の前で両手を広げるムースの右肩を掴み、無理やり後ろに引っ張る。

 前方のゴブリンばかり注意していたせいで、ムースは後方からのこの行動に反応できず、勢いのまま無理やり後ろに下げられてしまう。

 そして、ムースに変わりに黒が前に出る。


 目の前にはゴブリンの棍棒が迫っているが、それでも黒は止まることなくさらに一歩足を前に出す。

 振り下ろされた棍棒は黒の頭をかすめ右肩に当たる。

 だが前に出たおかげで当たったのは棍棒の根元に近い部分で、普通よりもダメージは少なくなる。

 それでもそこは魔族の攻撃、黒の右肩には激痛が走る。


(折れ…てはいない。ヒビは入ったかも知れないけど)


 激痛に顔をゆがめながら勢いよくゴブリンに体当たりをお見舞いする。

 ゴブリンは思わぬ反撃のせいか、その体当たりを喰らい吹き飛ぶ。

 このまま追撃を、そう思い足を前に出そうとしたが足が言う事ことを聞かない。


(そう言えばさっきの棍棒が頭にもカスったっけ)


 右目の視界が赤くなっていく。

 どうもかすっただけとはいえ、脳が揺らされたようだ。

 それでも動かなきゃいけない。

 無理やり足を動かそうとしたとき、背後からムースの悲鳴じみた声が上がる。


「マスター!!」


 前から怒りの表情のゴブリンが棍棒を振り上げ近寄ってくる。

 足は動かない。

 逃げることはできない。

 ならこの場で迎え撃つしかない。

 素手と棍棒、魔族と力の無い俺どう見ても勝敗は明らかだ。


 それでも、何もしないわけにはいかない。


「う、ご、けーーーーー!!!!!!!!」


 歯を食いしばり、体を無理やり動かし迎え撃とうと拳を握る。
















「了解だ、主」


 あと少しで激突する。

 そんな瞬間今まで聞いたことが無い声が静かに割りこんできた。

 その声は静かだが、重く力強く。

 何より頼もしい響きだった。


 そして、棍棒を持っていたゴブリンの片手が宙を舞った。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ