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堕ちた者

今回残虐な描写があります

 魔族が住むとある土地。

 

 ゴンザはクチャクチャと音を立て、口周りを赤く染めながら今狩ったばかりの一角兎を食べていた。

 緑色の肌を持つ小学生ぐらいの背丈の魔族、彼等はゴブリンと呼ばれる魔族で、繁殖率と数の多さが取り柄の弱者の分類に入る種族だ。

 弱者と言ってもそれでもれっきとした魔族、知恵も無い一角兎程度の魔獣なら倒すことも出来る。

 ゴンザは一角兎の肉を全て食べ終わると、横に置いていた血で汚れた棍棒を手に取り新しい獲物を探しに山の中を歩き出す。

 空腹を満たすためでは無い。

 ただ強くなるためだけに。

 

 

 

 魔族の住む土地に、ある日クラウン様があるプロジェクトを発表した。

 その発表をゴンザは他の兄弟達と少ない夕食のおかずを取り合いながら聞いていた。

 もともと頭がいい方じゃないので、話の内容は難しくよく分からなかった。

 夕食の後、おかずを取られ空腹を紛らわせるために話を聞いていたジイちゃんに簡単にプロジェクトのことを教えてもらうと、自由に暴れ、たくさん肉が喰え、そしてなにより好きなだけ女を犯すことが出来る場所に行けるということだった。

 それを聞いた瞬間、俺は空腹も忘れて嬉しくて飛び跳ね回った。

 

 暴れられるのは嬉しいし、肉がたくさん食えることも嬉しい。

 でもそれよりも女を抱けるのが何よりも嬉しい。

 数だけは多いゴブリン族にとって女を抱ける機会なんてそうそう無い。

 まず同族の女はめったに生まれないし、他の種族の女は皆俺達一族より強いので抱く機会なんて無いのだ。

 運よく女を抱ける機会があったとしても、それは長老たちみたいな一族の上の物たちが使い終わった、人形みたいな女ばかりで面白くも無い。

 性欲だけは人一人前のゴブリンは毎日女の体に飢えていた。

 だが万魔事典ってやつに登録すると、俺でも女を好きなだけ抱けるのだ。

 

 話を聞いた次の日、俺は早速万魔事典に登録しにいった。

 登録した瞬間頭の中に色々とプロジェクトの契約内容が流れたが、そんなものはどうだってよかったので、特に考えず全て了解した。

 

 今ゴンザの頭にあるのは女のことだけで一杯だった。

 

 日々悶々としながら呼ばれることを待っていたが、なかなか呼ばれない。

 まだかな~、まだかな~。

 食事のおかずを他の兄弟に盗られるが、それも気にもならない。

 まだかな~、まだかな~。

 痩せ干せた畑を耕す大変な仕事も気にならない。

 まだかな~、まだかな~。

 いつでも、どんな時でも、それこそ寝ている夢の中でさえゴンザは愉しみで一杯だった。

 

 だが楽しみはどんどん膨らんでいくのに、一向にゴンザは呼ばれない。

 

 万魔事典に登録してから日が過ぎていくごとに、悶々として膨らんでいたゴンザの気持ちに徐々に苛立ちが混ざるようになってきた。

 ジイちゃんからは、プロジェクトはまだ始まっておらんと呆れながらに言われたが、そんなことも理解できずただ悶々とした気持ちと、膨らんでいく苛立ちを胸にゴンザは待つ。

 まだかな~、まだかな~。

 

 そしてそんなある日、同じように万魔事典に登録した兄弟が話している内容が耳に入った。

 

 万魔事典で呼ばれるのは強いものらしい。

 

 その話が耳に入った瞬間、ゴンザに絶望が襲う。

 

 強いもの、俺弱い……。

 弱い俺呼ばれない……。

 

 楽しみにしていた分ショックも大きかった。

 もう何もやる気が起きず、倒れるようにその場に横になる。

 

 そんな俺の目に一人のゴブリンが目に入る。

 そのゴブリンはゴンガと呼ばれ俺たち兄弟の中で一番腕っ節が強く、いつも俺のおかずをとっていたゴブリンだ。

 ゴンガは自慢げに力瘤をつくり、「強いものが呼ばれるなら、俺だろう」と自慢気にほかの兄弟達にアピールしている。

 

 その姿が妙に癇に障る。

 数日前からあった胸の苛立ち、呼ばれないと考えたあの絶望感、そして今胸に芽生えた嫉妬それらが胸の中でグルグルと渦巻く。

 目の前が真っ暗に染まったと思ったら、次の瞬間には真っ赤になる。

 気付いた時には、俺は家にあった棍棒を振りかぶり自慢していたゴンガの頭を殴打していた。

 背後からの不意打ちに「ギャッ」と短い悲鳴を上げ、地面に倒れる。

 だがそんな事はどうだっていい。

 まだ生きているではないか。

 さすがに強い。

 でも―、

 

 こいつを殺すことが出来たら俺は強いってことになるだろう?

 強ければ俺は呼ばれるはずだ。

 

 だから俺は何度も何度も棍棒で倒れたゴブリンの頭を殴った。

 最初は叩くたびに悲鳴を上げていたのだが、次第に悲鳴を上げなくなってきた。

 だが叩くたびに体が僅かに反応する。

 まだ抵抗しようとしている。

 それがただ体が反射的に動いていることだと分からず、ひたすらゴンザはゴンガを殴り続ける。

 周りにいた他の兄弟ゴブリン達は突然のこととあまりにも酷い残虐な行為に声も出せず立ち尽くしている。

 

 ゴンっという音と共に手に痺れが走り慌てて棍棒の先を見る。そこにはすでに叩いていた頭は無く、血と脳症で汚れた地面が広がっており、そこで自分が初めて地面を叩いたのだとわかった。

 

 体中にひどい疲労感を感じるが、それよりも強いものに勝ったという気持ちの方が強い。

 これで俺はゴンガよりも強くなった。

 ゴンザは充実感に満足してうなずき、そこで周りから感じる視線に気づく。

 辺りを見渡せばそこには兄弟達がこちらを、何だか恐ろしいものを見るような目で見てくる。

 一体何が恐ろしいのか?

 その視線の意味がわからない。

 

 俺はただ強いものを倒して、強いものになっただけだというのに。

 

 視線の意味を尋ねようと口を開くより先に、兄弟の一人が遂に悲鳴を上げる。

 その悲鳴につられるように他の兄弟達も悲鳴を上げ、一目散に家から慌てて出ていく。

 兄弟のその悲鳴を聞いて、俺はただ吃驚してその場にかたまってしまう。

 

 そしてすぐに悲鳴を聞き付けた近くのゴブリン達が集まってくる。

 皆俺と周りの状況を見て目を見開き驚きをあらわにするが、すぐに目付きが厳しいものへと変わる。

 そんな彼等の変化の理由がわからない。

 わからないという疑問が頭を埋め尽くし、その場で俺は動けずにいる。

 やがて武器を手に持ったゴブリン達が俺を囲い、武器の歩先を俺に向ける。

 彼等が何か言っている。

 でもその言葉の意味がわからない。

 

 「なぜ同族を殺したのか」

 「どうしてこんな行為が出来るのか」

 

 彼等の言っている言葉の意味は理解できないけど、この時になってようやくゴンザは命の危機にあると判断する。

 そしてこのままでは殺されてしまい、呼ばれることが出来ない。

 

 せっかく強くなったのに。

 死んでしまったら呼ばれることが出来ないではないか。

 

 そう考えて理解する。

 あぁそうか、俺を囲んでいる奴らは俺が呼ばれるのに嫉妬してるのか。

 それならわかる。

 俺も、さっきまで同じ気持ちだったから。

 

 でも今は違う。

 だからゴンザは雄叫びをあげながら、近くにいたゴブリンに勢いよく襲いかかる。

 そのゴブリンは俺の叔父にあたる人物で、よく頭をなで可愛がってくれたが、そんなこともうどうだっていい。

 今はただ気持の思うまま行動する。

 この押さえつけられていた感情が解放される気持ちを邪魔されないために。

 

 雄叫びに一瞬だが身を固まらせた隙に叔父を棍棒で殴り倒す。

 ゴッキという音と手に嫌な感触を感じたが、それよりも今は次だ。

 辺りを見渡し、近くにいたゴブリンめがけて棍棒を振るっていった。

 

 

 それからのことはよく覚えていない。

 何人かのゴブリンを倒した事、人数差に押し切られ徐々に傷が増えていった事、迫りくるゴブリン達を殴り倒しながら、山の中へと逃げ隠れた事。

 山に入って数日後、大人しく傷を治していると何人かのゴブリンが俺を探しに来た。その姿を見たとき、もう彼等のことは同族とも感じず全員殺した。

 

 全員殺した時になって、ゴンザは自分がかなり強くなっていることに気づいた。

 殺したことで強くなれる。

 そう考えたゴンザは目に入る生き物を次々に殺していく。

 

 当初考えていた女の子となど、もうゴンザの頭には無い。

 黒い渦のような感情に流されるまま、ただ強くなるそれだけを目的にゴンザは山の中を彷徨い続ける。

 

 

 

 

 

 そして、ゴンザは呼ばれることになる。

 待ち望んでいた場所に―、

 

 だがその望んでいたものが何だったのかゴンザは覚えていない。

 

 

 

 名 前:ゴンザ

 種 族:ゴブリン族

 スキル:棍棒術

 備 考:狂人化状態(思考が大幅に低下、戦闘意欲大幅に増大)

     妄執化状態(一つのことに囚われ、他のことを気にしなくなる)

 


万魔辞典で呼ばれて名前をもらいますが、

それ以前にも飼えらにはちゃんと名前があります。

呼び出したものにその名前を告げれば、その名前を使い続けることもできます。


ムースが名前が無いと言ったのは、

一種の彼女の愛です。


最後まで読んでいただきありがとうございます

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