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プルプル触る?

 こちらの世界に来て二日目。

 朝俺は台所から漂ってくるいい匂いで目を覚ました。

 その匂いに釣られ自室から大部屋に出ると、ムースが丁度出来上がった朝食を机に並べているところだった。

 

 「おはよう」

 「おはようございます。マスター」

 「ムースって、料理もできたんだね」

 「本格的な料理を作るまでには至りませんが、一通りの料理はできますし、それ以外にも家事全般全てこなせます。

 ……ホムンクルス家の家訓に『仕える主は胃袋から掴め』と言う家訓もありますので」

 

 後半の言葉は小声になってしまったのよく聞き取れなかった。

 だが考えてみれば、初めて会ったときにホムンクルス一族は、サポートが専門みたいなことを言っていたのを思い出す。

 

 机に並べられた朝食はご飯と焼き魚、それに味噌汁と言った純和風の献立。

 最初冷蔵庫の中に味噌や醤油が入っていた時に、こちらの世界の住人はこの調味料を知っているのか?と疑問に思ったのだが、後からムース聞いてみると名前は自体は違うがちゃんとこの世界でもこれらの調味料はあるとのこと。

 やはり日本人なので、味噌や醤油が無い食事というのはどうも落ち着かないので、あってホッとしてしまった。

 それじゃあ一緒に食べようかと椅子に座ろうとしたときに、ムースが俺の後ろに立って座ろうともせず、しかも朝食が一人分しか用意されてない事に気づく。

 

 「あれ?ムースの分の朝食は?」

 「ちゃんとありますよマスター」

 「えっ、でもここには一人分しかないみたいだけど?」

 「その通りですよマスター。

 この料理はマスターの分だけですから」

 

 さも当然と言った感じで言いきるムース。

 彼女には、主人である俺と一緒に食事をするという考えが無いようだ。

 それはあまりにも寂しい。

 一人で食べる食事ほど、味気ないものは無いのだ。

 

 「ムース、一緒に席についてご飯食べよう」

 「申し訳ありません。私はメイドですのでマスターと同じ席に着き食事をするなどもってのほかです」

 「そんなの俺はちっとも気にしないよ。

 それにここは俺の家なんだから、俺の作ったルールに従ってもらうよ。

 食事はみんなで。

 だから一緒に食べよう」

 

 そうまで言ったらさすがのムースも何も反論できず、恐縮しながらだが同じ食卓に付き、二人で仲良く朝食を食べることができた。

 (朝食を食べる際に、俺とムースの献立が違い理由を聞いたら、ムースの朝食は俺の朝食を作る際に余った食材で作ったと言われたので、食事はみんな同じものを食べると新しいルールを追加した)

 綺麗に朝食を食べ終わりお茶を飲み一息ついたあとは、さっそくDMとしての仕事に取り掛かる。

 

 

 

 どんな形のダンジョンにするか、その構成は昨日のうちに大体は頭の中で完成させている。

 あとはそれを本当に造るのならば、どれぐらいのDPになるのか、またはこんな構造なのだが、これはこの世界では通用するのかなどを相談していくだけだ。

 

 早速パソコンに考えたダンジョンの完成図を投影させる。

 まずは渦を巻くように細長い通路を造る。

 横幅は大人が二人並んで歩くと少し窮屈に感じる程度の幅で、天井までの高さは2メートルほどだ。

 できるだけ長物の武器が使いにくいような造りにしておく。

 通路の全長は歩いて自分が住む場所までたどり着くのに、大体1時間ほど歩かなくてはいけないほどの長さになっている。

 本当なら、3時間ほど歩く必要がある通路を造りたかったが、今のDPの状況を考えるとこれが精一杯の全長になってしまう。

 次に今造った通路の要所に、それまでとは違い開けた場所を造る。

 広さは学校の教室と同じぐらいの大きさだ。

 それを全部で10カ所造り上げ、そのうちの5カ所には先に続く通路とは他に扉を設置し、扉を開けると宝箱がある小部屋がある場所にする。

 宝箱を取らせるつもりなどさらさらないが、何かおいしい餌があると思わせないといけないのでそのための場所だ。

 今造ったのがダンジョンの基本となる土台だ。

 土台だけでDPを2000Pも消費してしまった。

 

 これで残りは3010DP。

 合っているか確認のためにステータス画面を出し確認する。

 だが画面には、3020DPと計算よりも少しだけ多いDPが表示されていた。

 

 「なんで増えているんだ?」

 「どうかされましたかマスター」

 「いや、DPの残高が計算よりも多くあってね。

 俺どっかで計算間違ったかな?」

 

 計算した数字よりも10だけ多いだけなのだが、ちりも積もれば山となる。

 序盤でDPが少ない今、その10Pでかなり違ってくる。

 だから計算外の10がどこから来たのか、その理由を詳しく調べる必要があるのだ。

 

 「マスターが寝ているとき、パソコンにメールが届いた着信音がしましたので、恐らくその内容に関係しているのではないでしょうか?」

 「新着メール来てたの?」

 

 すぐにダンジョン造りに取り組んだため、新着メールの確認を忘れていた。

 あわてて、新着メールを確認する。

 

 『【従者からの忠誠(リリジェン・プレジ)】の称号を得ました。

 【従者からの忠誠(リリジェン・プレジ)】従者から心からの忠誠を誓われた者が入手できる称号。

 一日一回のDP供給に、従者一人に対し10P追加される』

 

 どうやら増えた10Pはこの称号のおかげのようだ。

 DPが増えた謎は解けたが、新たに一つの疑問が生まれた。

 

 「……ねぇムース」

 「なんでしょうマスター?」

 「俺に……、忠誠心って持ってる?」

 「勿論持っています!!」

 

 無表情なのは変わりないが、かなりの力をこもった返事をされた。

 いつの間にか、俺はムースから忠誠を誓わられる存在になっていたようだ。

 なぜ?いつ?どうして?

 そんな疑問が新たに次々と生まれてくるが、深く考えるとなんだか大変なことになりそうなので、考えるのは止めておくことにする。

 

 

 

 疑問が解けたので、ダンジョン造りを進めていく。

 次は10カ所の開けた場所の環境を変る。

 ダンジョンショップで買った、環境アイテムを5個選びそれを使用する。

 環境アイテムが使われた場所は、すぐに何の変哲もない無機質な姿から形を変えていく。

 床は足首まで伸びた草によってが一面緑色の大地へと変わる。

 壁の周辺からは生き生きと生い茂る木々が生えてきて、青々と生い茂る枝や葉が視界をかなり悪くする。

 先程までの何も無かった場所が、小規模な【密林】エリアへと姿を変えた。

 

 「もう少しDP余裕があれば、【樹海】エリアにしたかったんだけどね~」

 「【樹海】の環境アイテムは密林エリアの三倍の値がしますので、今はこれが限界かと」

 

 樹海はあきらめ、密林か森林のどちらのアイテムを買うべきか迷ったのだが、これから召喚し、配置しようと考えている魔物達のことを考えると森林よりも密林の方が過ごしやすいと判断して密林エリアを買うことにした。

 (ちなみに森林と密林の環境の違いは、おおまかに言うと木の集合密度具合の違いである)

 

 密林エリアの値段は、この部屋のサイズで一個300P。

 これが5つなので、1500P消費した。

 残り1520P。

 何かあった時のことを考えて、最低1000は残しておくとして、残りの520Pを使い万魔事典から魔物を召喚することにする。

 

 「ムース、従者召喚以外で万魔事典から魔物を召喚するには、どうやってやればいいの?」

 「ますは万魔事典の中から呼び出したい魔物を選び、その魔物が載っているページを開きます。

 それから臣下契約か普通の召喚のどちらかを選び、必要なDPを消費しますと呼び出すことが出来ます」

 「臣下契約?」

 「臣下契約とは従者契約と同じように名前を頂けることにより、普通に魔物を召喚よりも格段に能力が増します。

 ですが、DPはその分かかってしまいます」

 

 なるほど、そこら辺も考えていかないといけないな。

 普通に考えたら臣下契約の魔物を指揮官にして、普通召喚した魔物を指揮するのが理想的かな。

 

 臣下契約は一回はしておかないといけないが、その前にどうしても呼び出したい魔物がいるので、その魔物を呼び出してからにしよう。

 万魔事典を開き、目的のページを選ぶとすぐに召喚する。

 始めて万魔事典で見たときから気になっていたんだよね。

 目の前の床に光り輝く召喚陣が現れ、すぐに目的の魔物がその陣の中に現れる。

 

 透明に近いプルプルボディを持った魔物、スライムだ。

 

 「よし、できた!」

 

 万魔事典を初めて使ったが、どうやら上手く召喚できたようだ。

 そして俺は早速呼び出したスライムに近づき声をかける。

 

 「初めまして」

 

 スライムはその言葉にただプルプルと体を震わす。

 その姿に感激してします。

 

 何この子、超可愛いんですけど!!

 

 まるでゼリーのような姿でプルプル震える姿は、甘党の俺の心をがっしりと掴んだ。

 色は違うがその姿はプリンの様でもあり、ゼリーの様でもある。

 静かに震えるスライムに手を伸ばし、ゆっくりとその体に触れる。

 ひんやりとした冷たさがあるが、それがまたイイ。

 

 そのまましばらく黙ってスライムを撫でていると、背後から「コホン」と咳声がかかる。

 

 「マスター、スライムが可愛くて仕方ないのは分かりましたが、他の仕事はいいのでしょうか?」

 

 いつも通りの声のはずなのに、その声は手に持っているスライムよりも冷たさがあり、思わず背筋に熱くも無いのに冷や汗が流れる。

 

 「そうだね。まだやることはたくさんあるからね」

 

 慌ててそう返事をして、名残惜しくスライムから手を離し次の魔物を呼びすために、万魔事典を捲っていく。

 そんな俺の背後で、ムースが小さくつぶやく。

 

 「……私の胸もそのスライムと同じぐらい、いえそれ以上に気持ち良いと思いますよ」

 

 そんな誘っているようなつぶやきは、黒が慌てていたせいと、ムースの声が小さすぎたのが原因で、黒に届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 そしてそんな出来事があったため、黒は油断してしまった。

 ムースが万魔事典を使う際に普段と態度が変わらなかったこと、はじめての召喚が上手く行った事、召喚されたスライムが大人しかったこと、それらが気付かぬうちに失念させていた。

 本来、魔族という種族がどういうものだったのかという事を…………。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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