Stage8:吠える
バトル回じゃないよ。
「このクラスの学級委員は、御来屋、三ノ宮、犬飼の3人の中からギフトデュエルで決めるわ」
そう言った先生の目に、躊躇いなんてなくて。
この私ですら、その態度に一瞬異を唱えるのが遅れてしまった。
このクラスのトップである私が、教師とはいえ非才脳者である凡人に気圧されるなんて。
「異議あり。クラス委員はケンカの延長で決める物ではないと思われますが」
そう。選ばれし物だけが就くことのできる地位、まだ規模が小さいとはいえその小さな集団でのトップ、それがこの私の居るべき場所。それが権力、私の求める最強の力。
それをたかがゲームで決めるなんて、この私のプライドが許さない。私の求める物が、そんなに簡単に手に入っていいはずない。たかが不可能現象的才能系の加速才脳者相手に身体的才能系の私が遅れをとるはずなんてないし、ロクに才能教育も受けていないような不登校のあの娘の才能なんて考慮に値しない。あの時ペットたちが吹き飛ばされたのもそれは不意打ちだったから。なにが起きたのかは知らないけど、三ノ宮さんのあの豹変だってたいしたことない。
この私が負けるなんて、万が一をもってしても有り得ない。
「クラス内で我こそはというものを募り、多数決によってクラスメートの中から選ばれた人間こそ、このクラスという一つの共同体の代表となる人間だと思うのですが」
「犬飼さん。言ったはずよ」
「――――――私の言う事に従いなさいと」
「アナタの言い分はよくわかったわ。でも、このクラスの運営は私の仕事なの。確かにこういうのはケンカの延長で決めるべきではないのは事実よ。でも、だからってあなたがさっきしたことについて、またその結果についての私の解釈は変わらないわ。アナタも大河も有栖ちゃんも、今この場において平等な立場なの」
「だったら―――!」
「あの状況を黙って見てる奴に、このクラスは纏められないわ」
先生は目をスッと細め、私を見つめる。
「争いあうアナタや大雅に口出しできた人はいなかった。あなたのお友達は、最初から一人で来たわけじゃないからこの場合考慮しないわ。少なくともあの場において、あなた達に何かを言えるほどに力のある人間はこのクラスにいなかったのよ」
喋りながら、うっすらと笑みを浮かべる先生。その表情とは反比例するかのように、私を見つめる目が鋭く冷たくなっていく。
「つまり、他のクラスメートは『弱者』よ。強者に従うことでしか生きていけない弱い存在なの。弱者には選ぶ権利なんて与えてもらえない。ただ一方的に与えられ続けるだけ」
視線に温度があるのなら、この目はいくつを示すのだろう。先生が私たちに普段向けている笑顔はこんなんだっただろうか。
まるで気泡の一切ない、透明な氷のような。
「皆もいい?高校生って言うのは、義務教育を離れても尚、自分から学びたいと願った者たちが受験という戦いを乗り越え勝ち取った資格よ。私たち教師が教えるのは、中学のような子供の世界じゃない。これから生き抜く社会のルールよ。ここ学園都市も、学校も、クラスも、友人関係も、家庭内でさえ、社会のルールにそって動いているの。いわば小さな社会なの。私の言う事が今は耳障りに、とても理不尽に聞こえるかもしれないわ。でも、あなた達は知らないからそう思えるの。逆にこっちは、知っているからこそ教えられる。……もう一度言うわ。あの時意見できなかった者は弱者よ。弱者には権利すら与えられない。そして強者だけが権利を与えられ、行使できるの。やがて強者同士は互いに互いを潰しあい、たった一人の『最強』を決めるべく動くわ。みんな平等なんて言う世界は幻想よ。大雅、有栖ちゃん、犬飼さん、アナタ達はトップを決める戦いに参戦する『権利』を与えられたわ。この小さな社会の王として君臨する権利を。後は権利者同士で決めなさい。決め方を。強者の中の強者を。そして、敗北者を、決めなさい」
クラス全体が静寂に包まれた。
才脳者だとか教師だとかの次元を超えた、人間としての格の違いを見せつけられた。そんな気分だった。
先生はクラス全体に目を向けて言っていたが、私は一時も視線を逸らさない。逸らせない。
……この先生は何者なんだろう。
* * *
聞こえようによってはとてもカッコよく聞こえる義母親のセリフも、事情どころか本性を知ってる俺からしたら『黙って言うこと聞け』と要約されるわけで。
有栖、俺、犬飼のバトルが決定した。たった数分前に気付いたばかりの問題でさえも、俺が有栖をどう誘うか頭をどんなに悩ませようと、この親は状況から瞬時に利用できる情報を集めて目的の為にあらゆる手段で解決し、押し通すのだ。俺の苦労というか、自分の行っていること一つ一つが無意味になったと思い知らされるし、こういう存在をずっと身近で見てきたからこそ思うことがある。
才脳者は万能じゃない。ましてや神でもない。ただの人間なのだ。
俺の親がそういう類の才脳者だとしたらどんなによかったか。才能に胡坐をかく気はないが、『少なくとも一般的な人間とは違う』と教科書に教育されてきた俺にとってはどうも素直に尊敬できない節がある。それが今俺がこの人を未だに『お母さん』と呼べない理由なのだが。
「…義母さん、ちょいと言い過ぎ。やるならやるでさっさと戦闘監督の手続きとかしてくれ」
「こら大ちゃん、学校では『先生』って呼びなさいって言ってるでしょ?めっ!」
「じゃあその呼び方と叱り方をやめてぽこぽこ殴るのもやめろ全然痛くないウザい」
「む~」
「いやむ~じゃねえよ先生なら生徒の前でそう言う事すんな周りの目が痛いマジで」
「いやよ」
「をい」
イタイイタイイタイ。クラスメートの視線がイタタタタ。年齢不明の人妻合法ロリ巨乳教師という属性持ちのこの親は、どうやら一部の紳士共に多大なる人気を隠れることができないほどに密かに誇っているらしい(情報元:鷹觜)。
学年ごとのクラス発表の時に紹介される先生に対しての反応の落差が一番大きいのもこの人だし。
『御来屋の野郎…先生にあんな風に叱られるなんて羨まけしからん』
『畜生…俺が何のために今まで校則を破って来たと思ってるんだ…!』
『落ちつけ田中!お前は我々の中で一番先生と触れ合ってるではないか!』
『あぁ…抜け駆けして指導を受けるお前を帰りに拉致し羨望と恨みを込めてタコ殴りにしたのもいい思い出だ』
『ちょっと待てアレお前らだったのか!』
『おい、聞いた話によれば学内のフトドキモノを秘密裏に処分してくれる奴らがいるそうだ』
『何!?…それはいいことを聞いた』
『必殺汚職人とかいうらしいぞ』
『そうと決まればさっそく依頼だ』
『おう!』
『じゃあまずは…』
『当然御来屋を―――』
『『『田中を殺せ!』』』
『ちょっと待てええええ!』
………ひどくアホな会話が聞こえてくるのはきっと気のせいに違いない。やれやれとため息を一つ吐こうとしたとき。
「――――――――っぁ!?」
両隣、正確には吸った息から殺気を感じた。ピリピリと張りつめた空気を吸い肺と喉が緊張して呼吸ができなくなる。殺気という言い方だと同じように感じるが、右からは冷たく黄色い炎のような恨みに満ちた殺気。左からは純粋に殺意と屈辱に満ちた殺気。温度に明確な違いを持ちながらも、この二つは三人の真ん中に立つ俺へと同時に向けられていた。
「…何?」
「いえ別に。(¬_¬)」
「あぁそう…」
まずは右。今まで黙っていた有栖が無言でこちらを睨んでいた。
…で。
「…何だよ」
「別に何でもないわ」
「…そうか」
犬飼に至ってはこっちを見すらしねぇ。
いったいなんだっていうんだ。
「…三人とも準備はいいかしら?こっちも準備終わったわ」
その言葉とともに、俺たちのブレインがメールを受信する。それにはこれからの戦いにおけるルールが記載されていた。
時間は仮想世界において一時間。犬飼vs俺&有栖の一戦のみ。勝者を学級委員に任命する。ってちょっと待て。
「先生!いくらなんでもこれは不公平すぎます!」
犬飼が叫んだ。
「2対1ってどういうことですか!納得いきません!学級委員は男女一名、候補者がいない場合のみ一人に任されるはずです!ならば私と三ノ宮さんの戦闘が妥当なのではないでしょうか!こんなんじゃ私が不利じゃないですか!先生は私に委員になられると困るとでもいうのですか?なぜこうも特定の生徒に利がいくようにルールを捻じ曲げるんですか?いい加減にしてください!こんなの不公平です!」
……まぁ、もっともだわな。
いくらなんでも犬飼の権利を先生が権力を使って全力で潰しに来ているとしか思えない内容だ。元から強引な計画だったとはいえ、ここまでされると犬飼に同情してしまう。
理解んねぇ………義母さんは何でそこまで犬飼を警戒しているんだ…?
「それは誤解よ犬飼さん」
犬飼の怒りを受け、申し訳なさそうに口を開く義母親。そして、ゆっくり抱きしめるように、犬飼の耳元に口を近づけて、
「――――――♪」
「―――ぇ…?」
その表情を一変させた。
「……ね?あなたとこの二人の実力には、これほどに差があるの。だから、納得してもらえるわよね。犬飼さん?」
「は、はぃ…でも、なんで」
「知りたければ勝ちなさい。言えるのはそれだけよ」
表情の固まった犬飼をやんわりとした笑顔で諭し、俺達はバトルすることとなった。
次回からだよ。




