Stage4:笑顔をあなたに。
鷹觜くんは書いてて楽しいです。
才能制御用端末専用アプリケーション、『デュエルギフト』。
才脳者保護及び教育を目的として作られた神宮寺学園都市は、見方を変えれば(むしろ、世間的にはこちらの方が主流だろうが)才脳者隔離のための檻である。
未だ反才脳者派の勢力が小さくない今、国は才脳者を一か所に集めて管理することにした。一定の面積の土地と才脳者を教育できる存在さえ確保できれば国内の動乱を鎮静化できる程度には規模を縮小できていたし、研究自体も始まったばかりの存在である才脳者を社会のシステムに置いておくには不確定要素が多すぎた。そんなシステム上の都合で俺たち才脳者はこの神宮寺の名を持つ学園に隔離され、世間に拒絶されながら生きている。うまい具合に神宮寺事件のおかげで広大な面積の土地も確保できたし。
才脳者の持つ才能は、一人につき一つしか持つことができない。これは才脳者が才能を行使する際にかかる脳への負担が常人の比ではなく、才能に目覚めたばかりの才脳者は加減を知らない為にひどい頭痛(本来ならもう少し言い方もあろうが、経験者としてはこういう言い方が一番合っていると思う)に襲われる。ブレインはそういった脳の負担の軽減や才能行使時の代理演算など、才脳者の日常生活に密接にリンクしている。
そんな感じで二つ目の才能が一つの脳に発現するのはありえないというのが、この世界の常識だった。
『技術的才能』、『身体的才能』、『脳力的才能』、『不可能現象的才能』。大まかに4種に分かれる才能は、細かく分けるとそりゃあもういっぱいになる。簡単に挙げられる身体的才能でさえもサッカー、野球、水泳、歌唱、その他。こんな感じである程度のジャンルをカバーしている為に種類は豊富である。しかしそれ以上に才脳者の数が多いために、複数の生徒間で被らない才能というのはとても希少だ。
年々増加する才脳者の所持する才能は、例え同じ才能だとしても個体差が存在する。誰がどんな才能をどのくらい使いこなしているのか、それらの把握、管理も神宮寺学園都市の仕事だ。デュエルギフトアプリケーションは、その個体差を明確にし、格闘ゲームをさせつつどれだけ使いこなせるかを測定するブレイン専用ゲームアプリなのだ。なんで格ゲーかというと、「普通の測定では普通の結果しかわからず、応用度合の測定が困難で且つつまらない(先生談)」からだそうだ。
様々な思考錯誤(誤字にあらず)の産物として、昔教師陣が子供の頃に楽しいと思ったコトを最新の技術を使ってやったらいいカンジになってしまったこのアプリが完成した。結果的に、各自が戦闘という極限状況下で自由に才能を行使し、どのように自身の才能に応用性を見出すかなどの観測が可能になり、子供たちが測定に積極的になったりと大成功し今に至る。
格ゲーといっても、コントローラーなどというものはない。バトルシステムを簡単に言うのなら、『仮想世界で才脳者が自分のアバターの装備をつけて才能使ってマジバトル』というもので、学園都市の屋内外問わず全域に設置されたカメラ(プライベートな場所は別)から得た地形情報をもとに構成されたステージを使い、バーチャルリアリティなどの技術により才脳者がアバターの五感と自身の五感をリンクさせ当人たちが戦っているかのような感覚を得ることができる。今いるのは現実世界にある俺たちの教室を仮想世界で再現したステージだ。
音声キーの入力とともに、制服だった鷹觜の衣服は、シャツやネクタイその他すべてが黒を基調とした色に染まり、黒いスーツに黒手袋といった全身真っ黒な姿に変化した。これが身体的才能、《空気化》の才能を持つ鷹觜聖斗のデュエルアバターとしての姿だ。因みに俺は面倒なので制服のまま変更はしていなかった。
デュエルのルールは簡単。相手を倒すだけ。審判及び判定は、システムによりランダムで選ばれた数人の先生が行う。デュエルにおける先生の判定は絶対で、従わなかったり先生に対して故意に攻撃を当てようものなら成績に直接裁きが下る。この制度により、戦闘時のやりすぎや男女間におけるトラブルが防がれているのだ。
『消えろ御来屋ッ!!』
「おっ、と!」
いきなり丸めたポスターを思いっきり振り下ろしてきた肝小田。お前もポスターかよ。
道着と袴をつけたアバター姿の肝小田。ヒュンヒュンとポスターを振り回して威嚇してくる動きに剣道に近い物を感じたので、おそらくコイツは剣道才脳者だろう。時折机やイスにポスターが当たるが、どういう原理か折れることなくそれらを吹き飛ばしていく。意図的にこちらへ向けて飛ばしてきている物を一つ一つしっかりと避け、間合いに入らないよう詰められた分だけ後退する。飛んできている物が物なので目が離せないが、耳と気配で鷹觜を探る。
『コポォwwコポォwwコポォww』
「っだー!うぜぇ!」
鷹觜は疋田の相手をしている。机と机の間に隠れて、疋田の方から飛んでくるペンを避けていた。タイミングを見計らい目を向けると、疋田は一か所に留まり机と椅子で作ったバリケードの隙間から、ポスターを使い吹き矢の要領でペンを飛ばしている。しかも吹き矢なのに連射とかしてるし装填も素早い。こいつ等ふざけたことを言ってはいるが、実力はあるようだ。
俺は才能の発動条件を満たす間を与えてもらえない為に後退を続け、鷹觜も相手に近づく隙を奪われたまま動けていない。じりじりと下がるうちに、俺の脚としゃがんでいた鷹觜がぶつかった。
「ちょっ、邪魔!」
「無茶言うな!」
『好機ッ!』
さがれなくなった俺に横薙ぎに振るわれるポスター。それを体中のバネに無理をさせてしゃがんで避けると、俺の頭のあった位置をペンが数本通過していくのが見えた。そして肝小田の動きに咄嗟に鷹觜をつかみ押し倒すように飛ぶ。俺たちを切らんと上から叩き付けられる肝小田のポスターはギリギリ回避できたが、教室の廊下側の角に追いやられてしまった。
上段の構えで俺らの前に立つ肝小田と、その垂直向きから狙ってくる疋田。そして回避後に無理にしゃがんだ影響で動くのが遅れ寝たままの俺たち。動きにくい体勢で、かつ四方を塞がれた。
『ぬっふふふ~、追い詰めましたぞお二方……!』
『正義はwww勝つwww』
ニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべる肝小田。離れた位置から笑う疋田。寝転んだまま動けない俺ら。
「御来屋抱きしめんなキモい」
「コワイヨー。タスケテタカノハシクーン」
言い方を変えようが状況に変わりはなく、カッコつけた手前負けられない。
『終わりだ御来屋ァァァ!』
無駄のない最小限の動きで構えた状態からポスターを振り下ろす肝小田。転がって回避するも身体がドアに接する体勢になり本格的に逃げられなくなってしまった。身体が、ドアに、接する体勢で。
発動条件は満たした。
「《加速》ッ!」
その一言とともに、ドアが爆発した。
* * *
「「あっぶなかった~」」
数秒後、6階建て校舎の3階にある俺らの教室から逃げてきた俺たちは、最上階にある他学年の教室で隠れていた。
「なぁ鷹觜」
「なんだ~?」
数メートル離れた位置から、少々気の抜けた返事を返す鷹觜。窓とドアのカギを全部閉め、廊下から見つかりにくいように2つのドアに一人ずつ背中を預けて座っている為に隣にはいない。
「お前今やる気ねぇだろ」
「せやな」
「せやなっておま…」
「いやだって、俺巻き込まれただけなんだけど」
「……せやな」
「「………」」
なんでこんな微妙な雰囲気のまま戦わなくてはいけないのだろう。そもそもどうしてこうなったのだろう。一体何が原因で、どうして俺らなのだろう。ぐるぐるぐるぐる、悩みが回る。
「………………」
自然と無口になり、空しい気持ちを隠せないまま考えが止まっていった。
「…なぁ」
「あ?」
「お前、さっき何で逃げたんだ?」
「…お前と同じ。やる気が出なかったから」
「そうか」
「うん」
「……………」
「……………」
「「……………」」
絶望的に会話が続かなかった。
「出ようか」
「あぁ」
逃げてから体感10分。俺と鷹觜はできる限り最短のルートで教室へと戻った。そこにはもうアイツらの姿はなく、グチャグチャになったままの机や椅子が散乱していた。
「…やっぱりいない、か」
「まぁ当然だろうな」
やりたくもない面倒に巻き込まれ微塵もやる気の起きない俺達。負けるのは癪だが、勝つためにどうするかなど具体的な会話はない。なにか、やる気は出せないものか。
「なぁ御来屋」
ふと、鷹觜が声を掛けてきた。
「あいつらって、吹き矢と剣道の才脳者だよな?」
「ん、俺はそう思ったけど」
「吹き矢って、飛び道具だよな」
「…そう…かもな」
「そうか…」
そういって黙ってしまった鷹觜。理由はわからないが、とにかくこいつがアイツらについて考えているのはわかった。
あいつらについて、勝つために。
「………」
他の誰でもない有栖のことなのに、何で俺が鷹觜よりやる気出さねえんだよ。
「………鷹觜」
「ん~?」
「…勝つぞ。だんだんムカついてきた」
一拍の間。
「おう」
* * *
バトルの制限時間は30分。そう長い距離を移動できるとは思えないが、この広大な校舎のどこかにあの二人が潜んでいるのは確かだ。残り時間の15分とちょっとの間に見つけて始末できるという保証はない。
「鷹觜、さっきの知識は正しいんだろうな?」
「おう。そこは信じてもらってもエエで」
俺たちは、できる限り明るく広い場所を堂々と歩いていた。俺ら以外に人の居ない校舎はどことなく不気味で、廊下などは声が反響する。少しの会話でもこれだけ響くのだ。下手に声を出すと居場所を特定されかねない。
『見ィィィつけたぞ貴様等ァァァァ!』
このように!
「来たぞ鷹觜!」
「わかってる!」
腰を低くして走り、懐から家庭科で使うような大きな裁ちバサミを取り出す鷹觜。肝小田は向かってくる鷹觜に中段の構えから突きを繰り出すが、対する鷹觜もハサミを開いて受け止めそのまま横に受け流す。肉薄した鷹觜はそのまま相手の顎に頭突きをかました。下からの攻撃に仰け反る肝小田。飛んでくるペン。
「御来屋ッ!」
「任せろ!」
今度は俺のターン。自身を《加速》し、相対的に世界を遅くする。鷹觜を襲うペンが空中でほぼ静止したように見える世界で、俺は慎重に鷹觜と肝小田のもとに近づきペンがどこから飛んできたかを調べる。
『狙撃手にとって一番避けたいことは、自分の居場所がばれること』
『相手の狙撃の為にいちいち探して動いてたんじゃ鉢合わせた時に積む』
『それ故に観察者が敵を見つけ、狙撃手に知らせる必要があるんだ』
『肝小田のあのキンキン声は、こういう廊下みたいな響く場所では比較的広範囲に聞こえるだろう』
『だから、この俺らをすぐ見付けられるくらい明るくて、かつ窓が多く開いている廊下にいれば、肝小田は必ず出てくる』
『俺が肝小田を抑える』
『お前はうまく外から見えない位置に立って隠れろ』
『ペンが撃たれたら、加速で位置を補足、仕留めろ』
『最初に狙われるのは俺だろうから、当たる前にどうにかしろ』
親友、鷹觜聖斗はこう言った。また、『互いの相手の相性が悪い』とも。
そして、完璧にその通りになった。
肝小田は最初俺らを見つけ次第大声で叫び、それを読んでいた鷹觜は肝小田に特攻。比較的体の動きにくい技で肝小田を一瞬抑え、自信を的にして疋田の狙撃を誘う。そして俺が加速し、場所を特定。
何もかもが完璧にいった。
「この角度…、あそこか!」
特定完了。校舎と校舎を結ぶ3階の渡り廊下にいる俺たちをこの角度からこの速度で狙える位置。5階、準備室。
静止したペンを掴み、向きを変えて倍速で投げ返す。この高速の世界で投げられたそれは、同じように空中で静止していた別のペンに当たり疋田の居るであろう方向にそのまま飛んでいった。
「行くか」
それを見届け、《加速》を解除しないまま5階へ走る。準備室のカギは閉まっているが、中から人の気配がするため確信する。疋田はここにいる。思いっきりぶん殴ると、くの字にドアが曲がって吹き飛んでいく。いた。疋田だ。
加速を解除。世界が動き出すと、いきなり疋田が口を押えて悶えだした。
「~~ッ! ~~ッ!!」
さっき投げたペンはそのままポスターの中に吸い込まれていったらしい。自身のペンが2本高速で口に当たり、歯でも折れたのだろうか抑えた手の間から血が出ていた。しかしそんなことは知ったこっちゃない。才能も手も使えないなら好都合だ。
胸ぐらを掴み、拳を固め。
「~~~ッッ!!!」
さっきよりはやや手加減したスピードで、顔面を打ち抜いた。
* * *
さっきまであったはずのペンが飛んでこない。作戦は成功したみてーだな。
『疋田殿ッ!?何かあったのかッ!!』
俺が撃たれていないのに疑問を持ったのか、その必要がなくなったことを知らずに大声で叫ぶ肝小田。頭突きの拍子に解放されたポスターを構え、俺の頭、剣道で言う『面』を狙ってくる。突きのように構えの高さのままギリギリまで近づけ、最小限の動きでポスターを上げて手首のスナップで打つ。そしてそれは振り下ろされることなく面の位置で止まり、肝小田の体当たりが来る。俺は首を横に傾げてポスターを避け、ハサミを突出し相手の体当たりを制する。一瞬相手が怯んだのを見逃さず、才能を発動。相手の意識から消える。
『―――なッ! どこへ行った!?』
一歩で相手の横に。もう一歩で相手の後ろに。ハサミを逆手に持ち替えて、後ろから左腕で首を絞め、ハサミを口に突っ込む。相手の体重の乗っている左足に横向きの足払いをかけて、後ろに倒す。そのまま俺は肝小田の上に乗っかり、空気化を解除する。その時に、
―――m9(^Д^)プギャーwwwwwwwwwwwwww」
全力で笑ってやった。
* * *
≪≪you win !!≫≫
「………ふぅ」
俺達の勝利を伝えるメッセージが表示され、意識は現実世界に戻ってきていた。しっかり30分戦っていたはずだが、時間を確認すると開始してから二秒しかたっていない。ブレインによる超高速情報処理により、現実世界での一秒が仮想世界では数分ほど延長されるのだ。
「あの二人は?」
「さっき、走って逃げていきました」
マジですか。畜生、まだ殺り足りねぇのに。
「大雅さん、屋上行きましょ?」
「ん……」
ま、今はとにかく昼飯だ。
「先行ってるね~」とか言って走っていく鷹觜の背中を眺めつつ、俺たちは準備を始めた。
誤字脱字感想その他、ポイントすら全く来なくてもいいから誰か何か言って!