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Stage9:才脳

こんなことしてるばあいじゃあないんだよ

 戦闘は一回のみ。時間はこの世界で3時間。勝ったチームを委員とする。監督教師は御来屋櫻子だけ。観戦は不可。ルールはこれだけ。

 普通の戦闘でなら、監督員の先生が3人はつくらしい(らしい、というのは、判定結果に不満を持つ生徒が先生に危害を加え無いよう監督教員に関する情報があまり公開されていないためだ。)が、今回は担任一人。しかも俺の親。さらに2対1という殆ど出来レース。

 俺はこの学校では不可能現象的才能(ストレンジ)系の《加速》才脳者で登録されているため、脳力的才能(アビリティ)系のもう一つの才能である『理解』を知ってる人間は少ない。知っているのは、俺と俺の家族。親友枠で埜村、古川、鷹觜、そして有栖だ。犬飼はそれを知らないだろうし、それを考慮しても俺の親が全力で犬飼を潰そうとしているのがよくわかる。

 ………考えてもしゃーないか。

 犬飼、有栖、俺の準備が終わり、起動キーを音声入力する。謎を残しながら、バトルが始まった。


「「「デュエルギフト、起動アウェイクン!!」」」



  *  *  *



「死んでください大雅さん」

「やだ」


 いきなり俺の首目掛けて振るわれた刃を数歩下がって避ける。続けざまに急所へ放たれる斬撃も同様に避けてから、


「そい」

「あうっ」


 有栖の眉間に手刀を食らわす。手刀にそれほどダメージはないが、有栖はそれ以上の攻撃を止めた。


「…痛いじゃないですか」

「あ、ごめん」

「許せないです。私と一緒に死んでください」

「やーだ」


 再開された剣撃をゆるりゆるりと避けていく。有栖の振るう刃は殺意が程よく乗った今が旬のモノで、次々に繰り出されるから需要に対し供給が豊富でカカクヤスクSay you……っていかんいかん。有栖を安売りしてたまるか。特売に頭を支配されているようだ。


「殺す気あるんならもうちょい振りをちゃんとしろよ。腕だけで振ってても俺を殺れるわけねーだろ」

「うっせーですよこのマザコンキョニュースキー」

「えー(´・ω・`)」

「先生に抱かれて鼻の下伸ばしてたくせに。そんなに大っきいのがいいんですかこのおっぱい星人」

「えぇぇ…」


 口調こそ真面目ではなかったが、少しづつだが確実に有栖の剣撃の鋭さは増していった。一つ一つ正確に相手の急所を狙い、最小限の振りで最大のダメージを与えられるものへと変わり、そしてそれはさながら剣舞のように美しさを纏い完成されていく。初めのやり取りから5分も経たぬうちに有栖の剣は《加速》なしでは避けられないような速度へと変わっていた。


「うぇ、久しぶりに動いたら気持ち悪くなってきました」

「だろうねぇ、そろそろやめたりなんてしてくれたりしない?」

「あぁいいですねそれ死ね」


 最後の言葉を言い終えたか終えてないかのタイミングで、有栖は威力も速さもこれまでとは段違いの一撃を放った。口調に少しも変化がないのは、まだまだこの程度の技は余裕だからだろうか。…それでも、俺の方が速かったのだが。


「……落ち着いた?」

「…なんとか。ごめんなさいね、なんかいきなり」

「べつにいいよ。久しぶりの他人とのバトルだし、肩慣らし程度なら付き合えるから」

「ありがとうございます。おかげで調子出てきました」


 すー、はー、と深呼吸をしながら答えてくる有栖の服装(アバター)は、白衣(はくえ)緋袴(ひばかま)…いわゆる、『巫女装束』というやつである。今手にしている武器は太刀。小柄な有栖が持っているからか、実際よりも大きく感じる。


「うに~っ、と。さて、あのよくわかんない人倒しに行きますよ大雅さん」

「…ん、」


 大きく伸びをし持っていた太刀を消してスタスタと歩いて行く有栖と、後に続く俺。そうだ。今は犬飼とのバトルをしていたんだった。


「で、あの変な人はどこなんですか?」

「いや、どこってお前…」


 ぐるり一周、辺りを見回す。今回のバトルは地元を模した市街地ステージで、一定の範囲が設けられてるとは言え先ほどの学校ステージより広い面積が特徴だ。また実際の土地を模しているためビルや民家などの建造物も多数あり、見晴らしもいいとはいえない。それにここの建物はプライバシーの問題から破壊と侵入ができないようになっている。一箇所に留まっていては一回も相手に会えないまま戦闘終了もあり得る、難易度の高いステージである。


「…このステージって、プレイヤーの初期位置はランダムスタートだから探さなきゃいけないんだよな」

「えー、ちょっと一っ走り探して来てくださいよう」

「やだよ一緒に行こうよ」

「イヤですめんどくさいです」

「えー、いいじゃん行こうよ」

「えー、」

「えー、」

「「えーっ、」」



「じゃあ手ぇつないでいこ?」

「はいっ♪」



『なんでそうなるにゃっ!?』



  *  *  *



 相手を探し、歩きながら考える。

 何故、どうして御来屋先生が知っているの。

 誰にも教えていなかった、あの場には私しかいなかった、それなのに。



『―――アナタがシタいようにしていいのよ?そうシてもイイようにこのルールにしてるんだから。使いたくて堪らないんでしょう?ソ・レ♪』

『―――ぇ…?』



 才能チカラに目覚めてから努力はしてきた。そして結果も満足に出ている。この前の才能別測定試験では、全5段階中レベル4、一般的な才能教育の最高レベルと判定された。それでも、それでも足りないのだ。もっともっと。欲望に底はない。決して満たせない欲望の器を満たす『ソレ』を手にし、ようやく手懐けられるようになってきたのだ。文字通り、人智を超えた力。決して他人に知られてはならない、選ばれない者には使うことはおろか持つことも、それどころか存在を知ることさえできない力だ。

 次に、今度は機会に飢えた。今身の回りにいる人間の多さは年齢性別関係なく自分がいままで行ってきたことの証明だ。誰から見ても完璧な、成績優秀の人望十二分な優等生。でも、今はソレが煩わしい。彼らは皆本当の私を知らないし、私自身周りにいるのがどういう人間なのかなんてどうでもいい。欲しい時に欲しい結果さえ与えてくれればそれが誰であろうと関係ない。それに、選ばれない者達の前でこの力を使うことはできない。周りにいるだけで自分の持ってる力を制限するならそんな奴ら必要ない。コレを自由に使っていい、『選ばれた者達』に会いたい、会いたい、使いたい、使いたい、使いたい。

 理由は不明だが、おそらく先生はこのことを知っている。先生の言う『シタいようにしていい』とは、このルール下でなら好きに動いていいということなのだろう。


「…あ、あはっ。あははははははははははははっ?」


 笑ってしまう。これは願ってもないチャンスだ。委員にもなれて内申も上がり、『コレ』を好きに使えてあの御来屋と三ノ宮の二人も叩き潰せる。なんて、なんて、素晴らしいんだろうか。


 御来屋先生、貴女も選ばれた人々だったんですね。



  *  *  *



「つーかーれーまーしーたー」

「つーかーれーてーまーせーんー」

「あーるーきーたーくーなーいーでーすーっ」

「あーるーくーのーですよー」

「あるくのつかれたはーしーるーっ!」

「つかれるからやーだー!」

「「うな~っ!」」


 犬飼を探して30分。たった30分歩いただけで有栖が本格的に疲れだしていた。この引きこもりめ。でも歩くの疲れたから走りたくなるというのはものすごいわかる気がする。


『…大雅殿、少し休んではいかがですか?』

「ん?黒……あぁ、スイか」

『有栖殿もお疲れの様子。敵の捜索は我々に任せ、体力を回復させるのも戦術かと』

「そうですよ大雅さん。スーちゃんもこう言ってますし、お休みしましょ?」

「…………はぁ…」


 残り時間はあと2時間強。俺と有栖は近くにあったベンチに腰を下ろすが、たかが30分歩いた程度で俺は疲れない。本当なら有栖を残して俺一人で犬飼の捜索と戦闘を終わらせたかったのだが、このバトルの目的に有栖の才能測定があるためそれは駄目。それにそんなことをしたら有栖の周りにふよふよと浮かんでいる五色の…五色の…………なんて言うんだかよくわからないんだけど、球状の妖精的な?奴らに怒られてしまう。でも無駄に時間を過ごすのも…なぁ…。


『なぁ大雅、要するにここで休みつつ相手の方から来れば解決なんだろ?』

ヒー、それだけってワケじゃないと思うぞ。相手だって同じことを考えてるだろうし、どうやって相手を呼び出すかも重要だ」

『それには相手がどういうことをすれば嫌でもこっちに来るかを考えないとね…』

「大雅さん、あの犬飼って人はどういう人なんですか?」

「犬飼…は―――」


 『犬馴れ』の犬飼。身体的才能フィジカルの才脳者で、その才能は文字通り『犬に好かれる、犬が馴れる体質である』こと。今までに戦ったことはないが、犬飼の才能用にステージに配置される仮想犬を多数従えて戦うらしい。あとは…、内申系優等生タイプという感じか。


『…あっ、いいこと思いついちゃった♪』

つっちー?』

『大雅、その娘って委員になりたいと思うわよね?』

「うん。それは確実だろうけど」

『なら簡単ね。ヒー、ちょっと手伝いなさい。有栖、身体貸して』

「はい。いいですよ』

『ありがと。じゃあ始めるわね。まずは…空き缶と葉っぱと枝を拾うわよ。大雅も探してくれる?」


 有栖の瞳と銀髪の一部が黄色く染まり空き缶を探し出す。俺がベンチから立ち街路樹の枝を数本折って持ってくると、有栖の足元には空き缶一つと落ち葉が小さい山のようになっていた。いままで意識してステージの地面を見ていなかったが、落ち葉やゴミといったあまり日常でも気に留めない部分もしっかりと作られていたことに驚く。


「次。大雅はこの葉っぱと枝から水分を飛ばして」


 《加速》を発動。手に持っている枝の中の細胞、それを構成する分子の運動、その速度を加速。加速。加速。落ち葉にも触れて同様に加速。 それぞれが一定温度になる頃には大体の水分を飛ばすことができた。


「できた?ならこの空き缶にそれを入れて、ヒー、火種くれる?』

『おう!全部に入れておけばいいんだな!」

『ええ。でも火はまだつけちゃ駄目よ? それができたら、変わって頂戴』

「よし!できたぞつっちー!』

『次は私ね。粘土で缶を覆って…大雅、ラストよ。缶ごと粘土を熱して」

「了解。…《加速》」


 言われた通りに温度を上げていく。温度の上昇とともに缶が膨らんでいき、原型とはかけ離れた丸みを持って破裂するかしないかという時、


「今よ大雅上に投げて! ヒー! 火種に火を!」

『おうともさ!』




  パァァァァァァァァァン!




 大きい破裂音とともに空中で缶が破裂した。それと同時にほんの少しの黒い煙と嫌な匂い。


『………なるほど、流石ですねつっちー。これで相手が音に気づけば、相手からこっちに向かってくるわけですね」

「それに、相手の近くには犬がいる。匂いと音で場所はもうすぐ分かるだろうな」


 あと10分っていったところか。才能の行使で有栖もまだ疲れているのでベンチに座らせてしばらくは休ませておく。相手が来るまでの間、俺はどこから襲撃されてもいいように周囲の確認を







「きゃあああああっ!?」






「有栖ッ!」


 有栖の座るベンチの後ろの茂みから何かが飛び出し、そして、






 俺は世界を止めた。


 

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