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模擬戦闘予選壱

 テロリストによるデパート襲撃事件から一ヶ月が経ち、高等部三学年合同模擬戦闘大会が始まろうとしていた。模擬戦闘大会とは名前の通りである。国のトップが考えたとは思いたくないほど詰まらぬ名前だ。とは言え、戦いの世界に身を投じた大人達に時間的猶予がなかったのも明白事実であるから責めるのも間違いであろう。兵士を手っ取り早く育てるためには名前よりも訓練の方が重要なのだから。そういったわけで捻りのない名前のついけられた大会であるが、その実、非常に大きなイベントであるのだから嘗められない。富こそ得られないが優勝者には大きな名声と確かな地位が与えられるのだ。いや、軍からも注目される大会なのだから将来の立身出世を考えれば巨万の富を得るに等しい。当たり前のことであるが学業成績もついてくる。

 予選は四人で一チームを組み、玄武、白虎、朱雀、青龍の名を冠する四棟に分かれて行われる。この四棟はその名が示すまま空中都市を守護し、またその中にある魔方陣によって人の転送を可能にしているのだ。ここから選手は戦場に送られフラッグ戦を行う。そして、総当たり形式の予選で一位になったチームの選手が本選へ進めるのである。つまり、本選では二十名の選手が競い優勝を目指すこととなる。

 ただ、その形式がどうであれ一年生が本選に出場できる可能性は無いに等しいことは想像に難くない。なにせ、全校生徒が出場するのだから下級生は戦力と見なされず、また実際上級生の前では無力なのだから。

 しかし、大介は生徒会チームで出るのだが、生徒会の構成員は彼以外優勝候補と目される面子なのだから、予選通過は当然だと、同ブロックの選手には諦める者さえ居る。そもそも、大会が始まって以来歴代生徒会役員は常に優秀な成績を修めてきており、今となっては予選通過は最低限の義務となっているのだ。

 そういった理由で生徒会に対する期待は大きく、また、大介の向けられる視線はさらに冷ややかなものとなった始末だ。

「副会長様は就任早々お疲れだな」声の方を確認すると、幸人の冷やかしだった。

「仕方ないよ。不適当な人材が上に立っているのは不快でしかないだろうさ」

「デュラハンが何を言ってるんだよ。進級早々に荒事までおこしてるし」

 知子のせいで都市伝説を見るような目を向けられた大介であったが、それも実技授業の度に薄れていった。さらにデパートでの一件を真の手柄としたことがよかったらしい。自業自得ではあるが、知子はホラ吹きの汚名を頂戴していた。

「それに、少なくとも役員は批判的な意見を持ってないんだから、気にするなって」

 確かに生徒会役員は黒服を奇異な目で見るだけなのだが、本人が重きを置くのはそこではない。目立たないことを願っているのだから。

「役員以外の目が大多数なんだけどな」

「そいつは諦めろ」即答だ。「お前は生徒会チームで模擬戦に参加する。この意味を理解してるな」

 予選突破が確約されてることを言ってるのだろう。そこから推し量るに、彼は戦力外の大介はさらに批判されると言いたいのだ。

「だがな、解決方法はとても簡単だ。本選で力を示せば冷たい視線ともおさらばさ」幸人はそう付け加えた。

「そんなに上手くいくわけないだろう。本戦の相手は実力者ばかりなんだから」

「まあ足掻くことだ。俺はもう行くぜ」

「そうか、もうそんな時間か。そっちはどこでやるんだ?」

「俺は見学だよ。そのうち白虎の美人なお姉さんも見に行くからよ」

くだらん言葉を代わりに、幸人はそこから立ち去った。


 模擬戦闘施設白虎。直径百メートル程の円柱状の建物の入り口には百を大きく越える人だかりが出来ていた。大介はその中から真を探すことにした。他の役員とはまだ顔を会わせたことがないのだ。

 求めた声は後方からきた。

「やっぱりこっちだったのね。随分と探したのよ」真が数名の足音を引き連れていた。

「姉さんに真っ向から立ち向かえぬ小心者のささやかな抵抗ですよ。他の先輩方も巻き込んで申し訳ありません」素直に頭を下げた。

「もう、いい加減機嫌を直してよ」真はそれでも不服らしい。

 頬を膨らませる真を周囲がなだめるのは日常的のようだ。猛獣使いが多いのは喜ばしいことだ。

「さて、知ってるとは思うけど一応紹介するわね。この筋肉ゴリラが進藤君。土魔法が得意で、役職は書記よ」

「ゴリラとは失敬な」大介は二つの意味で頭を下げた。

「その隣の眼鏡をかけてヒョロっとした宇宙人が安田君。電気魔法使いの変態で、役職は会計よ」彼は何故か胸を張ってた。

「最後に、この小動物が我が親友の千秋ちゃんよ。水魔法を得意とする庶務なの。可愛いでしょ」抱きつかれた千秋は全てを諦めた顔をしていた。日頃から申し訳ないと思い、大介は最も深くお辞儀をした。

「こっちが大介よ。仲良くしてあげてね」

 これが真被害者の会の顔合わせであった。

 そうこうしているうちに監視役の教員が現れたようで、周囲がだんだんと静寂で満たされてゆく。

 「これから予選の説明を始める。予選ではフラッグ戦を行ってもらう。敵陣のフラッグをより早く回収した隊の勝ちとし、敵フラッグを自陣に持ち帰った時点で回収完了と見なす。敵を戦闘不能にしても回収完了までは試合終了ではないので忘れないように。また、味方にフラッグを持たせることは可能だが、その味方ごとフラッグの消失が認められた場合は敗けとなるのでこれも注意するように。勝利条件を同時に達成した場合には生存者が多い隊の勝利とする。生存者が同数の場合は制限時間終了まで戦ってもらう。それから、行動は国際法が許す限りである。

 以上が特筆すべき注意事項だ。では、配られた紙に従って速やかに行動し、スケジュール通りに進行出来るように協力してくれ。解散」

 戦闘の様子を映しだしたディスプレイを見て敵の情報を得る者。伝えられた情報を元に作戦を立案する者。道具を管理する者。予選通過の為に各隊が準備を進める一方で、生徒会は仕事をしていた。

「地表では空気中の魔力密度が高いので、慣れない人は頭痛、腹痛、下痢、嘔吐、酷い場合は意識を失う可能性もあります。体調不良に陥った時は深い呼吸を意識してください。万一に備えて先生が待機されてるので、落ち着いてくださいね」

 ここ、空中都市から地表へ下りる際に最も注意すべきものが二つあり、その一つが魔力酔いである。魔法が主力となった戦の影響で地表では魔力汚染が酷く、訓練を受けてない人が死に至った事例もある。それから逃げるために政府は核融合炉を積んだ空中都市を作ったということだ。

 「生徒会役員が配る器機を出発前に装着してください」教員にバイタル情報を送る装置だ。

 同様の手順が他の会場でも踏まれている。役員を春先に決めたのはこのためだ。

 これを繰り返しているうちに、ようやく生徒会の番となった。

「会長、そろそろ生徒会の出番ですね。今日も相手が痙攣する様を眺められるとは楽しみですね」

「安田殿、その様なことを申すのは相手に対して不敬であろう」

「ついでに気味の悪い笑みも人類に対する冒涜だからやめてね」

「見たら汚れるわ。千秋ちゃん目を伏せなさい。それが嫌なら私の胸を貸すわよ」

 千秋が口を開く前に真が抱き付いてしまった。すると、千秋は自らが顔を埋める柔らかいものに、憎しみを込めて平手打ちをした。周囲と雰囲気を異にした、呑気なものである。

 人の視線に慣れている他の隊員はともかく、大介にとっては敵の視線が痛い。

「そろそろ準備をお願いします」係員から声が掛かる。 

 空気が変わった。

 敵の気迫がさらに増しているが、大介は味方の気迫に驚かされた。気圧されるのも当然だろう。まさに学園代表といった面々なのである。負けられるはずもあるまい。一人一人がその意味と責任感を持っているのだ。生徒会とはそういった集まりなのだ。

 大介は深い呼吸と共に気を引き締め直した。決して敗北するまいと肝に銘じて。

「それではカウントダウンにはいります」益々緊張が高まった。

「大介、そんなに緊張しなくてもいいわよ」

「安心しろ、こんなんでもゴリラや眼鏡も、そしてお前の姉だって強い」

「我等生徒会は貴殿に指一本たりとも触れさせぬ」

「あ、でも戦力として計算してるので与えられた仕事はしてくださいね」

 安田は他の役員に責められていたが、彼なりの優しさだったのだろう。怒られて喜ぶ姿を見ても大介には不思議とそう思えた。

「五」カウントダウンは進む。

「四」しかし、先ほどまでの緊張はない。

「三」程よい緊張感を持てている。

「二」足先まで感覚がある。

「一」さあ、始まる。

「零」生徒会の戦争が。

「転送!!!」

 施設内に静寂が訪れた。

 戦闘シーンを書くのは次回からとなります。久しぶりにこのシリーズに手をつけたので違和感があるかもしれませんが、ご容赦ください。

 戦闘シーンのイメージが固まってないので次も時間がかかりますが、小説家になろう内の作品を読んでお待ちください。

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