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混乱

大介の朝は早い。家族全員分の朝食を作るからだ。さらに姉と妹の二人。さらに、昨日からこの家に住むことになった尚美。計三名を起こさなくてはならなかった。

 そんな朝の予定がある大介は、朝食を作り終え、三人を起こすため、二階へ行こうとしていた。

「どうしたんですか姉さん? 一人で起きてくるなんて」

 寝巻き姿の真が、下りてきたのだ。寝癖で綺麗な髪が台無しだが、本人はあまり気にしていないのうだった。

「うん、偉いでしょ。誉めて誉めて」

 さすがに自分の姉を一人で起きてきただけで誉められる、幼児と同じには扱いたくなかったので華麗にスルーしておいた。すると、真もすぐに諦めて朝食を食べ始めた。

「他の二人はまだ寝てるわよ。あ、お弁当てもうできてる?」

「ええ、もうできてますよ。冷蔵庫の二段目の左端にありますけど……やけに早いですね。今日何かあるんですか?」

「今日は朝から会議があるのよ」

 大介の問いに真は味噌汁をすすりながら答えた。もう話すことはなかったので、大介は二階に上がることにした。


 4つある部屋のうちの一番手前の部屋、かなでの部屋に入った。中学生の部屋と言うよりは、小学生の低学年の部屋と言った方が的を射ているだろう。壁紙からカーテンまでカラフルなその部屋は、汚くは無いが、整理整頓が行き届いている様にも見えなかった。そんな部屋の奥で、大量の縫ぐるみに囲まれながらベッドでかなでは寝ていた。

「かなで、起きて朝飯早く食べろ」

そう言いながら掛け布団をどけると、かなでの寝巻きが肌蹴ていた。初春でも、大量の縫ぐるみと掛け布団は暑かったのだろう。

 大介はそっと掛け布団を戻してから、体を揺さぶりながら、声をかけ続け起こした。かなでの部屋から出た後、想定外の時間の浪費に溜め息が出た。

 二番目の部屋の住人の真は、今日は既に登校しているし、三番目の部屋の住人は大介自身の部屋なので、必然的に次は四番目の部屋、昨日まで物置部屋だった尚美の部屋へ行く事になる。

昨日から住み始めた部屋なので、とてもさっぱりしていた。

「おい、お前も早く起きて朝飯を食ってくれ。ほら早くし………………ろ」

 尚美の部屋に入った大介は、まだ整理されてない荷物を横目に尚美を起こす為にベッドへ歩み寄った。そして尚美をを起こす為に肩を揺らそうとした次の瞬間だった。いきなり眼前に魔方陣が現れた。そこからは、人が持つことのできない様な鉄の塊、もとい大剣が飛んできた。切っ先が見えた瞬間に大介はコケながら横に跳んだ。御蔭で頬を少し切っただけで済んだ。屋根に大穴は開いたが……。

「俺を殺す気か!」

大介の叫び声を聞き、尚美はまだ寝たそうな声を出しながら起きた。

「おはようございます。どうしたのですか? 頬を怪我しているようですが」

 大介は二秒ほど固まった。自分の助かった事に天井を見て驚きつつ、天井の大穴をどうしようかと考えていた。大穴の修復は金はかかるが、時間がないので業者に頼む事にした。尚美にリビングに来るように言ってから、部屋をあとにした。


尚美が寝巻きのままリビングに降りると、制服姿の大介とかなでが朝食を食べていた。まだ手付かずのものがあったのでその席に腰掛、食べる事にした。

「いただきます」

「どうぞお食べ」

 誰も何も話さない、昨日の鍋パーティーとは真逆の静かな時間が流れた。朝食は昨夜の鍋同様、美味かった。真がいないことと、かなでが眠いのが原因だと尚美は密かに推理した。

 大介が不意にその沈黙を破った。

「神光尚美……で合てるよね? 君が壊した屋根の修理で俺は遅刻するから担任に言っておいてくれ。」

「おにいちゃん、なんでおにいちゃんの遅刻を尚美がおにいちゃんの担任に報告しなくちゃいけないの?」

 大介が尚美に話しかけるとすかさず、かなでが横から口を挿んできた。屋根の件を気にしてない事に少し呆れつつも大介は、かなでに説明することにした。

「ねえさんは知ってたと思うけど、かなでには言ってなかったな。昨日進学式の後に担任から教えられたんだが、Fクラスに推薦入学生が入ってくるそうだ。」

「え! すごいね。あの誰も通った例がない試験に合格するなんて。…………でもなんでその推薦入学生が尚美になるの?」

「人の話は最後まで聞くもんだ」

 大介が説明しようとしてる部分を話させず、自分から質問するかなでに注意してから、大介は話を続けた。

「覚えてないか? 前に父さんと母さんの手紙に拾って一緒に旅をする女の子のことが書いてあったことがあっただろ? あれに年齢も書いてあったんだよ。自分達の子供を放置して旅をする両親だけど、勉強だけはちゃんとさせるからな」

「なるほど。つまり、尚美が来た理由は学校に行くためだったんだね」

 大介の説明を聞いて理解したかなでがそう言うと、尚美は無言で頷いた。

「まあそう言う訳だから、頼んだ」

「その屋根の件なんだけど……壊したの私ですから、私が残ります」

「弁当は玄関に置いてあるから、制服に着替えて早く学校行ってこい。食器は下げてけよ。つまらん冗談を言う時間があるなら勉強しろ勉強」

 大介は尚美の提案を拒否した。それでもまだ残ろうと考えてる尚美を手で払うと、大介は、食器を洗い始めた。仕方がないので、尚美は学校に行く事にした。


屋根の修理を終えた大介が学校に登校したのは、昼過ぎだった。こんな時に戦争だと、魔法使ウィザードいは戦力として駆り出されるので不便だと痛感した。

 幸か不幸か授業中だったので廊下には誰もいず、人と会うことなく教室に入る事ができた。

「馬鹿もんが! お前の体内時計は4時間も狂ってるのか!」

教室に入った瞬間拳が降ってきた。堂々と前から入ろうとしたことを反省しつつ、大介は自分の席に座った。少し時間が経つと、大介は教室に入った事を後悔し始めた。「デュラハンだ」「そんなに強そうに見えないのにな」等と、聞こえてくるのだ。学級のほとんどがその話題を持ち出したのだから仕方がないことだが、大介にとっては居心地が悪い。悪過ぎる。鞄を置いて早々に教室を出ていった。数人の教師と出会ったが、中等部から噂が伝わっていたのか教師に止められる事はなかった。


 何も無い屋上。そこで大介は寝ていた。中等部の時から授業などほとんど受けた事はなかった。

「次は実技か……。出なきゃいけないよな…………」

 大介は筆記試験は常に学年トップの成績なのだが、魔法が使えないので実技の試験で合格点に届かない。なので、実技の授業だけは出なくては進級できないのだ。

 (さて、着替えの時間もあるしそろそろ行くか)

 そう思いつつ立ち上がり、尻を叩く大介の前に春香がいた。

「放課後に生徒会室に来なさい。それから今は授業中のはずよね? 早く教室へ戻るように」

「草加先輩も今ここにいるじゃないですか」

「私は生徒会役員として動いているから大丈夫なのよ」

蔑むような目をしていた春香に食って掛かった大介だったが、すんなりとかわされた。

 結局、春香が先に帰っていった。その背中が扉の向こうへ消えるのを確認してから、大介も歩き始めた。


 実技は高等部からなので、今日はオリエンテーションも兼ねていて全クラス合同だった。

 実技では剣を魔法で作り出し戦う剣士ブレイブ、弓矢や銃を出して戦う後援兵士ベイキング、魔法で火や水などを操り戦う魔術師マジシャンが選択できる。ちなみに魔術師は才能が絶対不可欠である。そんな物を蟻ほども持ち合わせていない大介は、まだ大丈夫な気がする剣士を専攻していた。まあ本当に気がするだけなのだが…………。

剣士の価値を判断するには重要な要素が3つある。一つ目は魔法で作る剣の強度をどこまで高められるか。まあこれはただ強ければ良い訳ではなく、その時その時に合わせて強度を変え、魔力の消費を抑えることも大切な事である。二つ目は剣とその他の魔法のコンビネーションである。流石に剣だけで魔法の飛び交う戦場で生き残るのは無理だと言う事だ。そして、最後の一つはただただ普通の剣術だ。いくら魔法が上手くても、剣の腕が駄目なら殺されて当たり前なのだ。

 担当講師の話も終わり、集められた剣士達は剣術の腕を磨く為に木刀を一本ずつ渡された。適当に相手を見つけて稽古するのだが……大介は端っこで木刀を左手だけで素振りしていた。

(あー面倒だ。まあ俺と稽古をしようってのはいないだろうからいいか)

などと余裕物故いている大介に声をかけた者がいた。

「やあ生徒会長の愚弟さん。僕と稽古をしてよ」

 大介が顔を上げてその顔を見てみると、それはAクラスの主席、つまりこの学年のトップだった。彼の祖父は大戦の剣士として有名だった。父はあまり耳にする情報はないが、祖父と同等の強さだとは聞いていた。血が全てではないが、強い父がいるとその技を受け継ぐのが普通だろう。Aクラスにいることからも実力が優れている事がわかる。

「どうしたんですか? 学年主席のあなたが私としても得な事などないでしょう。そうすよね倉田くらた和哉かずやさん」

「生徒会長の愚弟であるあなたに名前を覚えてもらってるなんて光栄ですね。私にとってのメリットはありますよ。あなたの実力が本当に黒服程度の物なのか知れますし、もし本当にその程度なら叩き潰せますから。研究によってその世代の魔法が第一子より、強くなることはあっても弱くなる事は無いことが立証されてますから、気持ち悪いんです。このままだと」

 つまり和哉は授業で習った事に反する俺が気に食わないのだろう。ちなみに彼は『第一子より』と言ったが正しくは、『一つ上の兄又は姉より』である。さらに言えば、『魔法使いとして生まれたならば』と結構曖昧なものなのだ。だが、この事が発見されてから人口は爆発的に増えた。家系に関係なく魔法使いは生まれたので、一族の安泰のために強い魔法使いを子供にしたかったのだ。しかし、もともと魔法使いになれる者の生まれる確立は高いとは言えなかった。どちらかと言うと低かった。なので、大介の家のような子供が三人の家庭、ましてや全員が魔法使いである家庭はほぼ有り得ない。家族全員魔法使いと言うだけでイレギュラーなのに、これまで百年以上も、何人なんぴとたりとも破る事を許さなかった『決まり事』を破る大介の存在を良く思わない者は多い。和哉もそのうちの一人というわけだ。大介にとっては慣れていてもなるべく避けようと思う面倒な状況なのだ。

 どう断ろうかと迷っていると和哉がいきなり木刀を振りかざし、そのまま下ろしてきた。木刀が風を斬る音がしたと思えば次の瞬間、音も無く木片が辺りに飛び散った。大介の木刀は粉々になり、和哉の木刀は和也の左後ろに弾き飛ばされていた。

「いきなりは酷いじゃないですか。私はただの劣等生ですよ」

「…………まあそういう事にしておきましょう。もう時間もありませんから、別の相手を探します」

和也は笑みを浮かべながらそう言うなり去っていった。

 尚美の事が気になった大介が探すと、人だかりの中心にいた。次々と稽古を申し込まれ、それを全て受けても相手の木刀をかすりもせず、確実に相手の動きを封じる見事な技を見て大介は、尚美の正体に答えを出した。

窓一つ無いその体育館を遠方より見つめる人影が五つあった。

「なあなあ、マジであんな所に俺らの姫様がいんの?」

「我々の情報部だからな。信頼できるだろう」

「じゃあさじゃあさ、今から突っ込んで姫以外皆殺しにしない?」

「ちょ、ちょっと待って下さい。もう少し慎重にいきませんか?」

「まだ時間はある。今日は偵察だけにして体勢を整えてから襲撃するとしよう。我等には他にもすべきことが多い」

全員顔は流行の戦隊物の面で隠されていた。だが、服装は統一されていなかった。最初に話した男は少しダボっとした目立つ服装。そしてヘッドフォンを首に掛けていた。最初の男の質問に返答したスラリとした男はスーツ姿だった。その次の子供は普通の子供服、自信無さげに話していた小柄な男はセーターの上に白衣をまとっていた。ちなみにメガネはかけてない。最後のリーダーらしき男はどこかの海賊王の様に派手な服装だった。

「さて、では行くか。姫の姿も見れないし……」

海賊王らしき恥ずかしい格好の男の一声で、五つの人影は消えた。


外出時着用を義務付けられたロングコートを羽織った大介と尚美が、都心の大型デパートへ着ていた。五十階まであるその大型ビルには所狭しと北の同盟国の会社の店舗が入っている。

「ベッドとカーテン、タンス、机……カーテン以外は送ってもらおう。ああ、折角だから夕食と明日の弁当の食材も買って帰るか」

「あ! 家具とその輸送料。それから私の分の食費は出しますから」

「お前馬鹿? それより、時間も無いし早く行くぞ」

 提案を拒否された尚美はその理由を考えながら大介の後を歩いた。ただひたすら。大介が食料の買出ししている時もずっと。

 気が付けば買い物はほぼ終了していた。

「後は……食料品だけだな。一階に下りるぞ」

 大介と尚美がエスカレーターに向かおうとして数歩歩いた時だった。一階から爆発音がした。さらにもう一度。一階は軽傷者や重傷者はもちろん、死者さえでていた。頑丈な建物だった為二階より上は死者はでていなかった。

 人々は爆発の元である武装した者達から逃げようとして自分から一番近い出口へ、我先にと駆け寄った。しかし、誰も外へは出なかった。武装集団は全ての出口を包囲していたのだ。

「このビルにいる魔法使いよよく聞け。我々『恐怖』はこの世を狂わせる魔法使いを廃絶し、正しき世界の秩序を取り戻す為に存在している。必ず貴様ら世界の異物を根絶やしにしてくれる。これは宣戦布告だ。魔法使いが取り仕切る企業も潰してくれる。そして普通ノーマルの人々よ、我々はいつでも仲間を募集している。『恐怖』に入る条件はただ一つ! 普通の人間である事だ」

爆発のあった方からメガホンを持ち、演説する男がいた。

男の演説が終わるなり数名の男が突撃銃アラルトライフルを手に入ってきた。さらに小型のロケット弾を所持している者までいた。さっきの爆発の原因はこれであった。その場に魔法使いは大勢いたが、軍人のように戦闘教育を受けた者はほんの一部でほとんどが普通の人同然なのだ。

 大介は下の階から上がって来る人々を見て、真の所属する魔法関連対策組織ストッパー―ー魔法使いが起こす事件や魔法使いに対する事件を警察に変わり対処する為に数多くが作られているーーに連絡した。

「もしもし、会長をお願いします。『大介から』と言ってもらえればそちらの多忙な会長さんもすぐでてくれますから。…………あ、会長さんセンタービルの屋上までヘリ大量にお願いします。それから姉さんの部隊の派遣も頼みます。では後ほど」

 現状報告も無しに要望を伝えると一方的に通信を断った。

「お前、屋上まで誘導してくれ。それ終わったらお前もヘリに乗れ」

 尚美に命令すると大介は人の流れと逆の方向に走り出した


 一階はスプリンクラーが作動しており、床が水浸しになっていた。ところどころに死体が転がっており、その周りだけ少し水が赤く染まっていた。銃声はしないが足音がするので敵が二階に向かってることは容易に判断できた。

 しかし、その通路は階段が4つ、エレベーター八基それからエスカレーターが八基と、多すぎて普通に戦っては一人で守り切れそうにも無かった。

とにかく時間を稼ぐ必要がある。

(こっちの方へ注目を向ける事ができれば楽に防衛できるはずなのだが。さてどうしたものか)

 などと大介が思考を巡らせていると、足音が段々大きくなってきた。さすがに大介一人で火器を持つ数人の大人の男を真正面から素手で迎え撃つには骨が折れる。一階は主に食料品を扱っているので、その調理器具である包丁も置いてあるのだが、彼からは離れた位置にあるため今こちらへ向かってくる者に敵対するのに用いるのは不可能だ。

 電気が止まってなく灯りは点いたままだったので、見つからないのはのは難しそうだったが、とにかく行動するしかなかった。

 大介が武器を探している間に足音はさらに大きくなってきた。

大介は敵の視界に入る少し前に敵の横の棚に詰め寄り蹴り倒した。急いで出て来た敵の後部へ倒した棚の上を走り寄り、五人のうちの一番近くにいた男の右こめかみを左手で、左顎を右手で押さえ、男の首を左へ勢い良く捻った。

 骨の破損音がし、男の体からは力が抜けた。男が倒れようとするのを襟を持って支え、男が携帯していたサバイバルナイフを抜き取り逆手持ちをすると、男を他の四人に向かって押した。

 敵は既に銃を構えているが、撃っても前の仲間の遺体に当たるだけで大介にはかすりもしなかった。

 大介は遺体の陰からフッと出て、次に近い男の喉にナイフを押し付け、そのまま喉を掻っ切りながら前に進んだ。

 続けざまに横にいる者の銃を蹴り上げ、明いた脇から心臓を突き破る。

 小隊長らしき人物が無線機を片手に走り出した。すぐにでも追いたいところだが、あと一人その場に居るのを無視することはできなかった。

 見るとまだ若い。震えながら旧式の突撃ライフルの銃口をこちらへ向け引き金を引いていた、「くそ! くそ! なんで当たらないんだよ」などと言っているが、引き金引きっぱなしで正しい射撃体勢ではない。動き続ければ当てられる気がしない。時間を無駄にはできないので、ナイフをその男の眼に投げつける。激しい痛みを感じた男がその場でうずくまる。すかさずナイフの尻を蹴り上げ脳に到達させた。

 最初と最後の男以外即死までは至らないので、最後の男の突撃ライフルを奪い止めを刺した。下の水はさらに赤みを増した。

 逃げた男を追うために走ろうとしたが、すぐ近くの柱の陰に隠れて無線で応援要請をしていた。こちらに気付き銃を構えたが、キッチリ頭を打ち抜く。パリンと頭蓋骨が割れる音がすると、男の体から力が抜けた。無線の向こうが騒がしかったので、無線機を壊した。この方がこちらに気を向かせられ時間稼ぎがしやすいと考えたからである。

大介の考え通りいくつかの足音が近づいてきた。人数は少ないものの、火力だけなら向こうの方が明らかに上だ。さっき奪った旧式の突撃ライフルを頼りにしたら死ぬのはすぐだろう。まだちょっと接触には時間がある。死体からナイフを二本、さらに携帯していた自動式拳銃をベルトごと剥ぎ取る。拳銃の残弾を確認し装填、安全装置を解除した後、できるだけ足音を立てないように注意しつつ少し敵に近づいた。そして、足音から敵の位置と進路を予測。丁度敵が入ってきた商品棚に拳銃を立てて横に来た瞬間に引き金を引いた。鉛玉は惜しくも脳を通過せずに敵の顎を砕いた。即死には至らないが、致命傷だろう。そいつが倒れこんでからすぐに、銃弾が数倍になって返ってきた。何発かが大介の身体を掠め、一発は腕に当たった。左の一の腕を貫通したので痛みに声をあげそうになったが、唇を噛んでそれをこらえた。

 裏に走り、水の上を滑って敵を目視。四人の敵がいることを確認すると、二つ先の棚で止まってポーチから手榴弾をとりだした。栓を抜いて投げつけると爆発音の前に叫び声と水しぶきが上がる音がした。爆音がすると耳を塞いでた両方の手に拳銃を持って敵の生死の確認と止めを刺すために走った。

 火薬の量が少なかったのだろう。商品棚が降ってきたぐらいで、大介にこれといった外傷はなかった。これは同時に敵へのダメージも多くないという事を意味しているので、作戦を考えられては困るので迅速な行動が必要なのだ。

 見てみると、壁に投げられた雪玉のように木端微塵な死体が一体、腰から下が吹っ飛び、焼けた内臓が外に放り出されてる死体が一体いた。やはり威力が弱かったようだ。しかし、生きてはいるものの足を失った者がいた。銃を構えずに只逃げようと血の色に染まった水の上を這いずり回る。もちろん生かす理由は無い。拳銃を両手で持ち、照準を合わせた。

 だが、引き金を引く前に手の中の拳銃はゴミとなった。

「チッ外したか」

もう一人の男がこちらへ数発撃ってきたのだ。

 そこそこの距離から商品棚の視覚的障害があるにしては上出来だが、大介を殺すには至っていない。

おそらく焦っていたのだろう。射撃モードがバーストになっているのに、引き金を引き続けていた。

しかし、そんなことはお構い無しに一発の銃弾が頭蓋骨の端から端まで突き抜ける。

 目の前で起こる事に無関心に。ただ必死に其の場から逃げようとする者がいた。だが、銃声がなった後はただの肉塊と化した。

 大介が装備品を漁ろうとしていた時だった。パパパと音がしたかと思えば、弾丸が顔の横を通り過ぎる。弾の補給だけでもしたいのだが、そんな余裕を与えてはくれそうもなかった。走りながら片手撃ちで撃ち返していると、ポーチが邪魔になったのでその場に放棄した。そろそろ弾が無くなってきた。あと十発も残っていないだろう。接近戦に持ち込むために徐々に近づきながら撃った。

 二丁の銃両方のスライドが止まった。敵に向かって投げつけながらさらに近づく。ナイフを一本抜いて、投げつける。残念ながら壁に刺さった。相手はこの距離になっても銃口をこちらへ向けた。スッと間合いをつめても全く反応できていない。

 「残念だ」

 大介は相手の首にナイフを突き立てて頚動脈を確実に切った。拍動に合わせて周囲が血に染められていく。

使える武器が減ってきたので、今さっき殺した男のポーチから拳銃を拝借しようとした。別に油断してたわけではない。だが、確かに高等部には銃口が突きつけられていた。大介は両手をポーチから抜き、頭の上へ挙げた。

 「物分りが早くて助かる。さて、誰かさんに戦力減らされた分補充しなくちゃいけねえんだよ。俺らの仲間になってくれないか?」

 「労働力の調達ご苦労様です。ですが、お断りさせてもらいます。魔法使いですしね」

 「そうか……残念だ。非常に残念だ」

 その男の重苦しい言葉を大介が拒否すると、男は大きく息を吐いた。

 「まあ仕方がない。来世は仲間になってくれることを願うよ」

 「こちらこそ」

 お互い別れを告げると大介はすぐに土下座の姿勢をした。

 すると大介の頭部が弾け飛ぶより先に男の上半身と下半身がおさらばし、胃も肝臓も小腸も、何もかもが重力に逆らえず床に落とされた。

 大介はゆっくりと上半身を起こす。先程まで後頭部に銃を突きつけられて話をしていた男の内蔵も血液も何もかもが否応もなく目に入る。が、大介の興味はそこには無かった。大介は横で血を滴らせている大剣を見ていた。それには見覚えがあった。なんせ自分も命を取られかけたからだ。

 「お前も知ってるだろうが、俺達の親は軍の上層部の人間なんだよ。だから軍の情報データベースも少し覗かせてもらえるんだよ。でだ、こんな馬鹿でかい剣を振り回せる兵士なんていないんだよ。お前『英雄』なんだろ? 尚美」

 後ろを向いた大介の視界には血まみれの尚美が立っていた。すぐ近くに平然と立っていたのだ。

 「民衆にはそう呼ばれているそうね。敵軍からは『悪魔』や『化物』と呼ばれ続けたから、もうなんて呼ばれようと関係ないけど」

 「北側陣営にとっちゃ『英雄』と呼ぶに取る存在だろう。押され始めてた戦局を元に戻し、停戦条約を結ばせたのだからな。兵士の数が激減した北側陣営としては救世主だ」

 尚美は褒められたにも関わらず、むしろその表情はどんどん暗くなっていった。

 「その話をするな」

 尚美は静かに言い放った。大介もそれ以上踏み込む気はなかったらしく、追求はしなかった。

 「ところで、そのポーズいつまでとってるんだ?」

 それを言われてから尚美は剣を横に振り抜いた格好を止めた。そして無言のまま頬を少し赤く染めた。いきなり人の部屋に裸でいるようなおかしな人だと思っていた大介も、少々は羞恥心を持ち合わせてはいるのだと安心できた。

 不意にサイレンの音が聞こえた。真の部隊がやっと着たのだ。敵勢力を殲滅したのはいいが、ライセンスも無しに学園の敷地外で魔法を使うことは禁じられているため、手柄は真の部隊に献上しているのだ。

 大介は身に付けていた武装を外し先ほど出来た亡骸の上半分へ投げ捨て、尚美も急いで大剣を魔法陣へ戻した。

 「盛大にやってくれたな」

 会って早々、真の部隊の一人の大男が笑いを含みながらも悪態をついた。

 「省吾さん仕方ないですよ。大部分はテロリストの仕業ですから」

 「まあそうじゃな。今回は逃げる途中に転んで怪我した人と、テロリスト含め二十近くしか死んどらんから大目にみたるわ。それよりも、隊長がなぜか学校の人と一緒にお前のこと待ってるで? 早く行かな殺されかねんで」

 確かに高等部の制服を着た人達と共に真が頬を膨らまして腕を組んでいた。大層ご立腹のようだ。

 「大ちゃん酷い! 会議に来るように連絡したじゃない」

 すっかり忘れていた。大介の頭の片隅にさえ、『会議』の『K』すら残されてはいなかったのだ。

 「折角あなたを風紀委員長に任命しようと考えていたのに、本人不在で却下されたわ」

 勿論顔にも態度にも示さなかったが、心の中では大喜びだった。大喜びだったのだ。

 「仕方なく会長の権限が最大限に生きる執行委員の中で、最も私を助ける役職。副会長に任命しました。あ、ちなみに来月の高等部三学年合同模擬戦闘大会には生徒会として出場が決まってるから。よろしくね」

 上機嫌の真とは真逆に大介は固まっていた。

 尚美も交じり現場検証と報告書を皆でまとめているなか、大介は一人で混乱していた。

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