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機動隊とカップ麺

掲載日:2026/04/12

「カップ麺、出来たぞ」


 住宅街にある町長の家の周囲に陣取っていた俺達機動隊員に、昼飯のカップラーメンが配られる。




 暦の上では「立春」が来たとはいえ春の足音だなんて気配すら無く、周りはいたるところに雪が積もっていて吐く息は昼間でも白い。

 身体に突き刺すような寒さが「ただ立っているだけでも」襲って来て、出動服……いわゆる「機動隊の制服」の上に防護装備をしてもなおしのぎ切れるものではない。


「ふう……助かるなぁ」


 そんな極寒の中任務を続ける俺達機動隊員にとって、カップラーメンの温かさには「とてつもなく」救われる。

 お湯を注ぐだけでどこでも温かい食事が食べられる、だなんて画期的な発明だ。そりゃ世界中で販売されるに決まってる。


 ズズズ、と音を立てて麺をすするたびに気力体力が戻ってくる。体の内側がポカポカと暖かくなるのは、犯人とにらみ合いが続いて張りつめた空気が続く中での貴重な癒しだ。

 食事の前までピリピリと張りつめていて話しかけにくい表情をしていた先輩の方々も、この時だけは穏やかだ。




 東北のとある町長の自宅に銃や刃物を持った男たちが侵入し、町長家族を人質にして立てこもる……予定だったが肝心の町長一家は家族旅行で出かけており、もぬけの殻。

 それでもここまで来たら引き下がれぬ、というわけで町長宅に立てこもる事件が起きて丸1日が経った。

 犯人たちは政府に「動物愛護法の改正」で野生動物も範囲に含めるよう請求しているが、到底飲めるものではない。

 町長一家が人質にならなかったのは不幸中の幸いとはいえ、銃や刃物を持った相手である以上いたずらに突撃しても殉職者が出る危険があるので、こうしてにらみ合いが続いている。




「え!? 先輩、もう食ったんスか!?」

「ああ。早飯早糞芸の内、って奴だ」


 俺はまだ半分程度しか食ってないのに先輩はもう全部食ってしまった。

 さすが現場で10年働いているとそうなるか……。




「先輩はこの事件の事、どう思ってますか?」

「どんな理由があろうと暴力をふるった奴が悪いに決まってる。犯人が100%悪い」

「でも町長は普段あんなことをしてたから……」

「『自業自得』と言いたいのか? そんなの許さんぞ。どんな理由があろうと先に暴力を仕掛けてきた奴が悪いに決まってる」


 町長はSNSで「過激な発言」を繰り返す事で有名だ。狩猟免許を持ち、休日は猟銃を持って山に入りクマなどの害獣を狩って、その肉でBBQ(バーベキュー)パーティをするのが日課だそうだ。

 もちろん、動物愛護団体相手には厳しく「クマがかわいそう!? じゃあテメェらで飼え!」「お前らなんてクマのエサになってしまえ。クマの命の糧になるのなら最高の死に方だろ?」等と口がかなり汚い。

 それにキレた自称動物愛護団体が町長の自宅に押し入り、占拠したのだ。あまり言いたくはないが「自業自得」と言われても文句は言えない。




「アニメを見てゲームをやって育ったお前だって、昔は『犯人の家からはアニメやゲームが出て来た』っていう報道にイラついてただろ? それと同じだ。

 いくら普段の言動が問題で、コイツにはバチが当たってほしい。っていう奴は俺にもいるし当然、お前にだっているよな?

 でもだからと言って犯罪に巻き込まれても『自業自得』とか『バチが当たったザマァミロ!』って言ってはいけない。そこは『建前』だとしても線引きしないと日本はメチャクチャになる」

「先輩って事件が起きるといつもそうですよね」

「当然だ、大事な事だからな。他にも『痴漢に遭ったのは男を誘惑する服を着ていたからだ』とかネタは色々あるぞ? 聞かせてやろうか?」

「い、いえ。結構です」




 一般人が入ってこれないように設置された規制線の外側では、自称動物愛護団体が俺達警備隊を「動物の命を何だと思ってるんだ!?」等とののしっている。俺達はいわゆる「味方の敵」なのだろう。

 彼らを見ていると「昔、元総理大臣が銃殺された事件があったがその時も『世直しだ!』『でかした!』と喝采(かっさい)した連中がいたが、お前はその中には入るなよ」と随分とクギを刺されたのを思い出す。


「速報だ。応援の部隊が間もなく到着予定だ。それを契機に突入する! 準備してくれ!」

「え!? まだ食事が……」

「チンタラ飯食ってる場合じゃねえだろ! 早く準備しろ!」

「は、はい!」


 俺は食いかけのカップラーメンを置いて作業に入った。

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