変な生き物に遭遇したのでクマの対処法で対応してみた結果 〜魔法少女に勧誘してくる“それ”から逃げた話〜
タイトル:変な生き物出没注意
変な生き物出没注意。
そんな注意喚起があったわけではない。
ただ、最近はクマだのサルだの、不審者だの、やたらと「出没情報」という言葉を目にする。
だからだろうか。
今日、学校へ向かう途中でそれを見たとき、私は真っ先に「出会ってしまった」と思った。
それは道の端にいた。
白い。
小さい。
ふわふわしている。
見たことがない。
そして。
明らかに普通じゃない。
「……なに、あれ」
思わず足が止まる。
その生き物は、きょろきょろと辺りを見回していた。
何かを探しているようだった。
――無理。
無理無理無理。
私は犬も猫も苦手だ。
それが、見たこともない未知の生物なんて。
頭の中が一気にざわつく。
でも。
こういう時こそ冷静に。
確か、こういう時の対処法があったはずだ。
えっと。
えっと。
何だっけ。
頭の中に浮かぶのは、以前見たチラシ。
クマ出没注意。
あと、どこかのイベントで見たツチノコのやつ。
えっと、えっと――
クマに出会ってしまったときは。
背を向けず、冷静に、あわてず、ゆっくりその場から離れる。
刺激しない。
音を立てない。
ツチノコは臆病だから、静かに観察。
まずは冷静になる。
落ち着け。
落ち着け私。
深呼吸。
すぅ――はぁ――。
よし。
とりあえず、物陰に隠れる。
電柱の陰から、そっと覗く。
観察。
白い。
ふわふわ。
……ぬいぐるみ?
いや、動いてる。
生き物。
でも。
何?
まったく分からない。
理解が追いつかない。
その時だった。
「ねぇ!」
声がした。
人の声。
そちらを見る。
――幼なじみの◯□△だった。
普通に歩いてきている。
そして。
そのまま、あの生き物の前で立ち止まった。
「えっ」
嘘でしょ。
やめて。
やめてやめてやめて。
その生き物が、顔を上げる。
そして。
「ねぇ!そこの君!」
喋った。
「魔法少女になって、僕を手伝ってよ!」
完全にアウト。
完全に危険生物。
思考が一瞬で切り替わる。
もう苦手とか言ってる場合じゃない。
私は飛び出した。
「ちょっと何してるの!」
「え?」
◯□△の手を掴む。
「逃げるわよ!!」
「え、えっ!?」
そのまま全力で走る。
引っ張る。
引きずる。
とにかく距離を取る。
「ちょ、ちょっと待ってよー!」
後ろから声が追ってくる。
パタパタと足音。
軽い。
速い。
来てる。
追ってきてる。
「来ないでぇぇぇ!!」
「待ってってばー!」
無理。
無理無理無理。
クマより怖い。
ツチノコより怖い。
というか、何あれ。
何なのあれ。
学校まで、全力で走った。
門をくぐる。
人がいる。
先生がいる。
日常。
その瞬間。
後ろの気配が、消えた。
「……はぁ……はぁ……」
ようやく足を止める。
「な、なに……今の……」
◯□△も息を切らしている。
「大丈夫!?何もされてないよね!?」
「う、うん……」
「何言われたの!?」
「えっと……」
少し考えてから。
「魔法少女にならないかって言われた」
「やっぱり!!」
確信。
あれはそういうやつだ。
「なにそれ、まさか“はい”とか言ってないよね!?」
「言ってないよ!?答える前に逃げたし!」
「よかった……」
心の底から安堵する。
「絶対ダメだからね!ああいうの!」
「う、うん……」
「◯□△は優しいから、騙されそうで怖いのよ」
「そ、そんなこと……」
「あるの!で、答えたら私も巻き込まれるからね!?」
「わ、分かった!」
……分かってない顔だ。
絶対、分かってない。
でも。
とりあえず、今日は逃げ切れた。
それだけで十分だ。
「……帰りも気をつけようね」
「うん……」
そう言って、教室に向かう。
日常に戻る。
でも。
頭の片隅に、さっきの光景が残っている。
白い生き物。
あの声。
そして。
最後に見た、あの目。
悲しそうに見えて。
でも。
確実に。
獲物を見つけた目だった。
――あれは、まだ諦めていない。
そんな気がした。
そして。
放課後。
「ねぇ」
その声が、すぐ後ろから聞こえた。




