真っ昼間のおでかけ
今度はちゃんと、お姉さんたちにお出かけすることを伝えてきた。お姉さんたちは「5時までには帰ってきてね」と言っていた。この前の夜のお出掛けから3日、僕たちは外出禁止令が出されていた。ようやく自由になった今日、僕たちは雲一つない晴天に恵まれた。
僕たちの住む木造2階建ての家には屋根がなく、代わりに天井の土が上をふさいでいる。僕たちはこの家を気に入ってる。帰れば誰かがいるから。でもみんな、お父さんもお母さんもいない。だから代わりにお姉さんがお出迎えをしてくれる。帰るたびに、おうちの中にはキノコのスープの匂いが漂う。
青空の下に3人が立つ。1人はミカンの皮、1人は葉っぱの茎、1人は橙色のアフロのかつらを頭に乗せていた。
「ミルルちゃん、今日はどこ行くの」
彼女は耳の位置にミカンのヘタがある。その耳がピクリと動いた。
「公園だよ」
ミルルちゃんはそこらへんに落ちていたちょうどいい大きさの枝を拾って、空に向けて突き出す。そのまま彼女は棒を上下させながら前へ歩を進めて行った。
ふと、ヨワキくんを見た。彼の肌に、真っ黒の何かが塗りたくられていた。
「どうしたの、それ」
「ひ…ひやけどめ…だょ…」
それ以上、何を話しかけても彼は話さなかった。
公園は遊具が少ない。赤色の滑り台と錆びついたブランコ。それに背の低い鉄棒が2つだけあった。中央には池があり、近くの看板に『人工』と書いてあった。意味は分からないけど、その言葉のある池は『あんぜん』らしい。前にお姉さんとここに来たときに教えてくれた。
公園には他にも子供がいた。角を持つ子、馬のような足を持つ子…いろんな子供がいた。
「かくれんぼしよう!」
ミルルちゃんは僕らの返事を待つ前に時間を数え始める。刻々と近づくタイムリミットに僕とヨワキくんは二手に分かれ、急いで隠れる場所を探し始めた。
僕は木の根っこあたりに空洞があるのを見つけて、そこに隠れた。少しカビ臭い匂いがする。気がつくと僕の首に巻かれた赤いマフラーに土がボロボロと乗っていた。生き残りたい気持ちも山々だが、早く見つけてほしいという気持ちも強くなってきた。
「みーつけた」
遠くから女の子の声がする。どうやらヨワキくんは見つかってしまったようだ。こちらに足音が近づいてくる気配はない。
「ヨワキくん!すぐ見つけるからね」
威勢のいい声がさっきより小さい声で聞こえる。僕はさらに体を小さくして影に隠れた。
しばらく待っても誰も来ない。雨も降ってきた。ミルルちゃんの声はときどき聞こえるけど、何を言っているのかは分からない。僕のことを忘れてしまったのだろうか。そう不安に思って、僕は隠れるのをやめてミルルちゃんの声のする方へ走った。
「ミルルちゃん!僕はここだよ」
しかし、反応はない。
「ミルルちゃん?」
滑り台の向こうから人の気配がする。僕は勘に身を任せてそこへ足を運ぶ。
目の前には緑の肌に青痣でいっぱいで、近くにたくさん大きな石が転がっていたヨワキくんと少し離れたところで目が涙でいっぱいになって俯いているミルルちゃんがいた。2人とも地面に腰を下ろしている。それを見下ろしているやつがいた。すぐに目が合った。公園に来たときにいた角の子と馬の脚の子だった。
「なんだよ」
角の子が僕をジロリと睨む。彼は視線をカツラから僕の顔、マフラー、足元へと舐めるように動かしたあと、口をゆがませて言う。
「お前もこいつらのナカマか?」
一瞬で体が凍りついた。ヨワキくんとミルルちゃんをみれば、僕がいまどう答えるべきかすぐに分かる。2人を一瞥し、締め付けられる胸を無視して言った。
「ちがうよ」
ミルルちゃんとヨワキくんの双眸が大きく開かれる。口もあんぐり開いて、何かを呟いた。僕の目と手足はさらに氷のように冷たく固まった。
「さっき、近くを大人の人が通ってた!早く逃げないと」
今の僕の言葉が嘘だとバレないように、彼らへの憎しみがバレないようにそう言った。
「そうか、ありがとう」
馬の脚の子が角の子を抱えて走っていった。新鮮な風が3人を包み込んでくれたが、誰も息を吸うことはできなかった。
「何があったの」
切り詰めた空気の中で僕は重くなった唇を動かす。
「ぼくが…ぼくが…ニンゲンの形じゃなかったから…」
ミルルちゃんが悔しそうな目でヨワキくんを見る。しかし、僕のほうに目を向けてくれることはなかった。「ほんとうは『ナカマだよ』って言いたかったんだよ」なんて言えるような雰囲気じゃない。でも、ミルルちゃんの目がどうしても僕を責めているように感じてしまって、悲しくなった。
ヨワキくんの肌にあった黒いものは全部溶け落ちていた。それで、葉脈がよく見えるようになっている。僕の胸はもっと締め付けられた。
腕に冷たいものを感じた。僕たちはようやく雨が降っていることを思い出して、急いで建物に戻った。びしょ濡れになりながらも帰るとお姉さんたちが出迎えてくれて、僕たちを一生懸命に拭いた。僕の顔が拭き上げと同時にもみくちゃにされているとき、このニンゲンそっくりな顔もぐちゃぐちゃにしてほしいと思った。それは叶えられることもなく、タオルは僕の肌から離れていった。
夕食をとっていても、ベッドに入っても、僕の心は釈然としなかった。何回もミルルちゃんやヨワキくんに話しかけようとしたけれど、2人とも気まずそうに離れていく。僕は悪人になってしまったようだった。
今日の僕たちの楽しい思い出なんて全部埋もれてしまった。その代わりというようにヨワキくんの悲しそうな顔だけが残った。どうせ、明日になればみんな忘れてしまうんだろう。




