真夜中の外出
部屋をほんのり照らす。カーテンが風にあおられてフワリとなびく。そこからミカンの皮がひょっこり顔を出した。
「ユキタくん!早くおいでよ」
「でも、お姉さんたちに怒られちゃうよぉ」
僕と彼女の真っ白な手が重なった。僕の手が冷たかったのか、一瞬、彼女の手がピクッとするのを見逃さなかった。
「ユキタくんは怖がりだなぁ」
彼女の白い歯が薄明かりの中でも輝いて見えた。僕は根負けし、彼女について行くことにした。
窓から身を乗り出し、外に出る。あたりは森で霧が濃かった。見える世界は彼女のピンク色のワンピースが揺れる様子だった。彼女に髪はなく、代わりにミカンの皮が頭を守っている。肌は餅のように真っ白でお顔にはニンゲンの少女が乗っていた。
ときどき鼻の中に湿った土の匂いが通ると心に温かさを感じる。歩を進めるごとに首筋がチラチラと見え、僕は妙に嬉しくなった。
「待って、ミルルちゃん。ヨワキくんは?」
2人の足が止まる。
「ヨワキくんはもう行っちゃったよ」
膨れた頬が2つ見えた。
「ユキタくんがオジオジしてるから!」
再び彼女は前を向いて進みだした。しかし、歩き方はさっきよりゆっくりになっていた。
森は全く手入れをされていなくて、かすかな月明かりを頼りに奥へ進む。ときどき、どこからか動物の鳴き声が響いてくる。
「もうすぐだよ」
少し進むと人工物が見えてきた。不格好な木の板が釘で木の幹に固定されている。そこには『ここで あいことば をいえ』とあった。その先には背の高いヤブが僕たちを見下ろしていた。
「おおきな、おわん」
ミルルちゃんの声が響いたあと、少し経ってからヤブの中から弱々しい音が鳴った。
「いぃよ。ぉ、おいで…」
ミルルちゃんが僕の手を握る。そのまま僕を藪の中に引っ張っていった。急いでヤブをかき分けて彼女についていくも、草が頬に当たって少し痛みを感じた。しかし彼女は躊躇いなく進んでいく。すぐにその痛みはなくなった。
「ユキタくん、ついたよ」
目の前には空を泳ぐ光の粒が無数にあった。葉にとまるものもあれば、光を点滅させて泳ぐものもある。その光景にうっとりとしていると、隣からまた弱々しい音がした。
「きれぃ…でしょ…」
彼にもたくさん、光の粒がくっついていた。彼の肌には葉脈がある。耳は無く、頭のてっぺんには短く太い茎がある。きっと葉っぱと間違われているのだろう。
僕は彼の目を見て話す。
「うん、そうだね。すごくきれい!ヨワキくんが見つけたの」
「うん…そぅ…ふたりに見せたくて…」
彼は恥ずかしそうに俯いた。
「ヨワキくんね、毎日たくさんケガしてくると 思ったら、ここをきれいにいてくれていたんだって!ほら、これとか」
そう言ってミルルちゃんが指を指した先には、木製の小さな椅子が3つあった。
「すごいよね!ひとりで作ったんだって」
彼女は目を輝かせながら、僕たちの返事を待った。
「うん…頑張ったの…みんなで…座りたかったから…」
ヨワキくんが少し顔を上げ、目を泳がせる。しかし、その目は半月の形になっていた。ミルルちゃんはうれしそうにしている。
みんなでその椅子に座った。腰を掛けると椅子が少し悲鳴をあげていたが、僕たちは気にしなかった。
漂う夜の香りが僕たちを包み込んだ。
そこでゆっくりしたあと、僕たちは建物に戻った。そのままベッドに入って寝ようとしたけれど、お姉さんたちが焦った様子で部屋に入ってきて僕たちを叱った。どうやら他の部屋の子供が窓から僕たちを見て、チクったらしい。
ようやくベッドにつくころには本当に疲れ切って、今日の感想を言い合う前に3人とも眠ってしまった。




