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第1話 村の底辺


カイル・ヴェルグレンは今日も村の外れで

薄汚れた剣を振っていた。村一番の貧民の家に

生まれた彼に、特別な才能などなかった。


村人たちは彼を見ると、ため息をついたり

嘲笑したりする。「また失敗するぞ」と。

家族ですら、彼に期待することはなかった。


しかしカイルは諦めてはいなかった。

剣を握ると、心が少しだけ落ち着くのだ。

空気の匂いや、風の感触さえ味方のように

感じられた。だが、現実は冷たかった。


「カイル、またそんなことして……」

母の声は、心配よりも呆れに近かった。

弟のレオンは、小さな手で剣を持って

真似をしている。笑顔だが、どこか悲しげだ。


ある日、村の近くの森に魔獣が現れた。

大きな影が木々をなぎ倒し、村人たちは

逃げ惑う。守護騎士ももういなかった。


「どうする、カイル……?」弟の声が震えた。

言葉に詰まりながらも、カイルは剣を握り

森の奥へ一歩踏み出した。何もできない少年が

唯一できること――前に進むこと。


闇の中で光る魔獣の目が、彼を睨む。

体は大きく、牙は鋭く、息をするだけで

木々を揺らした。カイルは心臓の高鳴りを

押さえつけながら、剣を構えた。


「来い……来い……!」小さな声が必死に

勇気を振り絞る。魔獣が咆哮し、地面が揺れた

瞬間、カイルは思わず剣を振り下ろした――

奇跡の一撃だった。


魔獣は倒れ、静寂が森を包む。

村人たちは遠くから、目を丸くして見ていた。

その日、カイルは初めて「誰かの目に映る自分」を

感じることができたのだった。


だが、胸に芽生えた誇りと同時に、恐怖もあった。

もしあのとき力が及ばなかったら、村は壊滅して

いただろう。自分はまだ何もできない――

そう痛感した。


その夜、カイルは村の丘に登り、星空を見上げた。

「俺は……いつか、この世界の頂に立つ」

小さな声で呟く。闇夜の星々が、まるで

耳を傾けるように瞬いていた。


翌朝、村は騒然としていた。

魔獣を倒した少年の噂が、瞬く間に広まった。

村の長老ですら眉をひそめつつ、好奇心を隠せない。


「カイル、お前……あの魔獣を?」

長老の問いに、少年は素直に頷く。

胸の奥に小さな誇りが芽生えた。

だが恐怖もまだ残っている。


その日の午後、森の奥でひとりの少女と

出会った。ライナ・セリス――銀色の髪を揺らし、

青い瞳でカイルを見つめる。


「その剣……普通じゃないわね」

彼女の言葉に、カイルは驚いた。

褒められたことはほとんどない。少し胸が

高鳴った。


ライナは遠くの国から来た魔法使いだと名乗った。

高貴な家柄だが、家族に見放され孤独だという。

二人の孤独は微妙に重なり合った。


「一緒に旅をしない?」ライナの誘いに

カイルは戸惑った。しかし、心の奥でずっと

望んでいた――誰かと共に戦いたい、認められたい――

が胸を打った。


「……分かった。ついて行く」

少年はゆっくり頷き、世界への扉を開く。

その瞬間、カイルの運命は大きく動き出した。


翌日、二人は森へ向かう準備を整えた。

荷物は最低限、食料と水、そして剣だけ。

初めての旅路は危険に満ちていた。


魔獣の残党や毒の草、落とし穴が待ち構える。

「気をつけて!」ライナが声を張る。

カイルは剣を握り、必死で防御する。

倒すだけでなく、知恵も求められる戦いだ。


夜、二人は焚き火の前で休む。

カイルは胸の内を打ち明けた。「俺……弱くて、

何もできないと思ってた」


ライナは静かに頷く。「でも、あの魔獣を倒した。

小さくても力はあるのよ」


少年は初めて、自分を信じる気持ちを知った。

孤独でも恐怖でも、諦めなければ世界は少しずつ

変わるのだと。


翌日、二人は森の奥深くで、さらに大きな魔獣と遭遇する。

初めての本格的な戦闘――恐怖、絶望、そして闘志。

すべてが少年の心に火を灯した。


「やるしかない……!」カイルは叫び、剣を構える。

運命の旅は、ここから始まったのだ。


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