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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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55話 港町

魔物は、本当は魔物なんかじゃなく、ミウ族という争いを好まぬ種族だった。

しかしそれは王家によって、恐ろしい魔物に塗り替えられたのだ。


それを知ったリウは、怒りが込み上げてきたのだが、新たな疑問が浮かぶ。


「どうしてこの事実を、こんなにもきれいに隠すことができたのでしょう?」


「ああ、それは神殿と結託していたからだ。」


「神殿と?」


「こんなに大きな大陸なのに、宗教が一つなんておかしいと思わなかったか? 王家はミスティカ神殿を国教にして庇護し、他の宗教は排除してこの世から消し去ったのだ。その代わりに、神殿は、王家存続を守り、悪事をもみ消すことに協力したという感じだな。」


「ああ、だから、神殿にはミウ族の記述がなくて、魔物のことを悪く書いている書物しかなかったのか・・・。」


「まあ、そういうことだ。だが、この事実は大きな声では言えんのだ。ばれたらわしが反逆者として殺される。だから、お前さんも、誰にも話すんじゃないぞ。いつか、堂々と話ができる世になるまではな。ところでお前さん、どうしてそんなに魔物、いや、ミウ族について知りたいんだ?」


「僕の愛する人が・・・、ミウ族だったからですよ。もう、死んでしまいましたが・・・。」

リウの顔が寂し気な表情に変わり、青い瞳が少し潤んだ。


「そうか、お前さんも何かいろいろ事情を抱えているようだな。」


「あの・・・、驚かないのですか? 魔物は絶滅したってことになっているのに・・・。」


「わしはな。ミウ族が人間の姿に変身できることを知っているんだ。だから、この国のどこかに、人間に変身して生きているミウ族がきっといると思っている。魔物は絶滅したと宣言したのも、結局は王家の体面を守るためにそうしただけだからな。」


「そうか・・・、ミウ族は、まだどこかで生きているかもしれないんですね。」

リウは、ふと嬉しくなって微笑んだ。


「それじゃあ、もう一つお前さんに教えてやろう。」


「何を教えてくれるのですか?」


「ここだけの話なんだが、東の海の向こうに小さな島国があるんだが、そこにミウ族が住んでいる。」


「そ、それは本当ですか?」

リウは、思わず前のめりになって賢者に問うた。


「実は昔のことだが、わしはミウ族に会ったことがあるのだ。セルデという小さな港町で出会ったのだ。そのとき、人間に変身していたからミウ族とは気が付かなかったのだが、そいつと意気投合してな。酒を酌み交わして仲良くなったのだ。別れ際に、変身を解いて本当の姿を見せてくれたんだよ。わしもそれまで変身できることを知らなかったから、心底驚いたがね。そいつは、自分は本当はミウ族で、東の海を渡ってこの港に来たのだと言っていた。島のことはそいつに聞いたんだよ。」


「僕も、僕もミウ族に会ってみたい。聞きたいことがあるのです。」


「潮の流れがきつくて簡単には行けないらしいが、挑戦してみるのも良いかもしれんな。だが、何が起こっても、わしは知らんぞ。すべては自己責任でやってくれよ。」


「もちろんです。ありがとうございました。」





リウは、東の港町セルデを目指して馬車に乗った。

十日もかかる道のりであったが、ミウ族に会いたいと思う気持ちが強かったからか、思いのほか早く着いたような気がした。


セルデは小さな港町で、そこに住む人々の多くが漁師を生業にしている。

リウは朝早くから網の手入れをしていた若い漁師を見つけて、東の海の向こうの島国に行きたいと頼んだ。


「いやあ、あの島に行くのは無理ですよ。潮の流れがきついし荒れてるし、しかも岩礁がいっぱいで、下手したら船が壊れて海に投げ出されてしまう。ここにいる漁師たちは、できるだけあの島には近寄らないようにしてるんですよ。」


「そこをなんとかできませんか? お金はいくらでも支払いますから。」

リウは、金貨を二枚見せた。


若い漁師は金貨を見て目の色を変えたが、うーんと唸ってから言った。

「その金貨があれば、漁船を一艘買ったっておつりが出ますよ。どうです? 急いでるのなら俺の船を買いませんか? あんたがこの船で行ってみたらいい。ダメなら引き返せばいいし。ただし、死んでも文句は言わないでくださいよ。」


リウは、漁師から船を買い取り、帆の張り方や手漕ぎの方法を教えてもらい、水と食料を積み込んでから沖へと船を出した。


漁師が言うには、ちょうどこの時間帯の風に乗ると東に船を進めることができると言う。

船は驚くほど速く進み、昼を過ぎた頃には島が見えてきた。


セルデの港からは見えなかったから、距離にしてみれば相当遠い場所まで来たのだろう。リウは、目の前に浮かぶ島を見て、やっとミウ族に会えると喜んだ。


ところが、リウは、すぐにでも島に行きたかったのだが、島に近づくにつれ、穏やかだった海が荒れてきた。

あちこちに黒い岩肌が見え隠れしている。

見えない岩礁も含めると、相当の数が波の下に存在している。

漁師が話してくれた岩礁が、まるで船の侵入を阻んでいるかのようだった。


リウは帆を降ろし、手漕ぎに変えて慎重に前に進めることにしたのだが、潮の流れがきつく、船を操ることができなくなってきた。


「くそっ、島は目の前にあるのに、近づけない・・・。」


船は荒波に翻弄され、激しく揺れている。

岩礁にぶつかった波が、リウの頭に覆いかぶさってくる。


このままでは転覆するかもしれない・・・。

リウは船から放り出されないように、必死にマストにしがみついたのだが・・・


ドンと大きな衝撃を受けた後、バキバキバキと船が割れる音がした。

「ウワー!」


リウは壊れた船から、マストにしがみついたまま海に投げ出されてしまった・・・



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