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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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53話 古神殿

ミスティカ神は、アッシュリンド王国の国教であり、唯一神である。


リウが訪れた神殿は、建国時に建てられた一番古い神殿であることに間違いはないが、国王の庇護のもと、古くなって傷んだ部分はきれいに修復されている。

そのため、思っていたよりもきれいで、千年の時が流れたようには見えなかった。


リウは、神官長に面会を求めた。

しばらくすると、長い白髪と白い顎髭を蓄えた神官長が現れた。


「私はバルケル伯爵の息子、ミハイルと申します。こちらの図書室で書籍の閲覧を申し込みたいのですが。」

リウは相手の機嫌を損ねないように身を低くし、丁寧に頼んだ。


「そうですか・・・。残念ながらここの図書室は、一般の人々には簡単には解放しないことになっております。」

神官長は、しわだらけの顔でリウの青い瞳をじっと見つめる。


神官長の灰色の瞳にリウが映しだされ、リウはその瞳を見て、神官長が密かに何かを訴えているように感じた。


「神官長様、あなたに神のご加護がありますように・・・。」

リウは懐から取り出した金貨を三枚、神官長の手に握らせた。


「あなたにも神のご加護がありますように・・・。さあ、ついて来なされ。」

神官長は薄く笑んだ後、金貨を懐に入れると歩き出した。

リウはその後ろをついて行く。




案内された図書室は、千年分の蔵書が保管されているとても大きな部屋だった。


「ここに千年分の書籍が保管されているのですね。」

リウが感心して壁の書架を見渡す。


「まあ、千年分と申しましても、多くの書物が焼失しましてな。残ったのがこれだけというところです。書物は書かれた年代別に並べられています。読み終わったら、間違えずに元に戻してください。では、どうぞごゆっくり見てくだされ。」


「ありがとうございます。」


神官長が部屋を出て行くと、リウは古い年代の本を探し始めた。


バルケル伯爵領で歴史書を調べた際、どれも皆、判で押したように同じ内容が書かれていたが、それらの書物は皆、四百年前以降に書かれていた書物ばかりであった。


どの歴史書にも四百年前の国王クリード・アッシュリンドが魔物討伐隊を編成し、各地に隠れていた魔物を全滅させた偉大なる王と書かれていた。


リウは、クリードが即位する以前の書物が読みたかったのである。


魔物について、どのように書かれているのだろうか・・・。

それが気になっていた。


ところが、ここの図書室の本をどれだけ探しても、クリードが即位する前に書かれた書物には魔物のことは一切書かれていなかった。


人を生きたまま食らう魔物ならば、遠い昔から書かれているはずだと思うのだが、古い書物に書かれている内容は、ミスティカ神の教義、国王の系図、地域に密接した民族学、当時の有名作家が書いた小説などで、その中に魔物に触れている記録を見つけることはできなかった。


ところが、クリードが即位してから、いきなり魔物は恐ろしい生き物であると書かれるようになる。

人間に危害を加え、さらには人間を生きたまま食べると言うことが書かれるようになり、まるで魔物討伐を正当化するための記述としか思えない内容になっていた。


結局、三日間探し続けたが、リウが知りたかった書物に出会うことはなかった。




意気消沈して神殿を出たら、外は暗く、見上げれば満点の星が輝いていた。


ああ、ミウと一緒に見た星空と同じだ・・・

リウは懐かしいひと時を思い出す。




ミウと結婚の約束をして数日たった頃


「せっかく赤いスカート買ったのに、着ていくところがないよ。」

夕飯を食べながらそう言うミウは、残念そうな顔をしていた。


「じゃあ、今からデートしよう。」


「今から? デートって、どこへ?」


「今日は星がすごくきれいなんだ。マンジュシャゲの草原だったら、空が広くて星がきれいに見えるはず。あのとき買ったブラウスとスカートを着て星空デートをしようよ。」


「ふふっ、わざわざ着替えるなんて変なの。でも、そうする。」


ミウは白いブラウスと赤いスカートに着替えて、リウに手を差し出す。

「リウ、さあ、行こう!」


「あ、ああ。」

リウは少し顔を赤らめてミウの手を握った。


ランタンを片手に、もう片方の手はミウの手を握り、リウは草原目指して歩き出す。


花が咲いていない場所に腰を下ろし、二人は空を見上げた。


「わあ、きれい! 星がたくさん。やっぱり窓から見るのとは違うね。」

ミウは、はしゃいだ声を上げる。


「うん。本当にきれいだ・・・。」

リウが星空を見上げたのは、ほんの一瞬で、その後は星空を見上げるミウを見ていた。


リウはミウの手を握り、その温かさを確かめるようになでた。


「リ、リウ・・・?」

ミウが星空を見上げていた視線を落とし、リウに向き直る。


「ミウ、好きだよ。大好きだ。」

リウはそっと顔を近づけ、ミウの唇にキスをした。




三年前の思い出なのに、ずいぶん昔のように思えるし、つい最近だったようにも感じてしまう。

どうして、僕はミウを失わなければならなかったのだろう・・・

ずっと一緒に、あの森で暮らしていきたいと思っていたのに・・・

あの日、父と騎士が現れて、僕とミウを引き裂いた・・・

ねえ、ミウ、どうして僕はあの時、君の手を離してしまったのだろう・・・

今でも僕は悔やんでも悔やみきれない。

もっと僕に力があれば、誰にも負けない力があれば、君を奪われることはなかったのに・・・

ミウ、僕は今でも君を愛している・・・




リウは、重い足取りで宿に帰った。


宿の食堂で一人遅い夕食を食べていたとき、隣のテーブルの話し声が聞こえてきた。

中年の男が二人、酒を酌み交わして日頃のうっ憤を晴らしていたのだが、急に話題が変わった。


「ああ、そう言えば、久しぶりに賢者様がこの町に来たそうだ。」


「へえ、それなら相談に乗ってもらうとするか・・・。」


「お前は何が聞きたいんだ?」


「俺の仕事がちょいと行き詰ってね。何かお知恵を拝借できないかってね。」


「それはいい。賢者様はなんでもよく知ってるから、役人よりもよっぽど頼りになるよ。」


何でもよく知っているって?

リウは思わず、隣の男たちに話しかけた。



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