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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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51話 胸算用

バルケル伯爵が王城に到着すると、いつものように護衛騎士に先導されて王宮へと進み、侍従の案内で謁見の間へと続く廊下を歩いた。


その間、何人もの王宮関係者とすれ違ったのだが、皆が自分に注目している。

王女グレースに奇跡をもたらした偉大な人物・・・きっとそう思われているに違いない。

一週間たった今でも、あのときのことが忘れられない。




バルケル伯爵はミウから十七本の血の薬ビンを得た後、翌朝まで待たずに王宮へと届けた。

どうやら、青い血を効果的に使うためには、間を空けずに服用することが良いように思ったからである。


謁見の間に通されると、一週間前には五本、昨日は1本飲ませたので、まだ王女に効力は残っているが、完全に効力がなくなる前に飲ませるべきだと国王ジョシュアに伝えた。


その後、すぐに病室に案内され、グレースが血を飲むのを見ていたが、十七本の青い血を一度に飲むのは難しく、グレースは休みながらも、できるだけ早く飲み終わるように苦心していた。


五本、十本と飲み進める度に、グレースの体調は目に見えて良くなり、最後の一本を飲み終えて数分後、なんと、ベッドから降りて自分の足で歩くことができた。


筋力が衰えていたために、三歩でふらつき侍女に支えられたが、医者は毎日リハビリを続ければ、一週間で一人で歩けるようになるだろうと言った。


ジョシュアも、目を瞠るほどの娘の回復に、涙を隠せないでいた。


医者はグレースの身体を調べ、彼女の身体をむしばんでいた身体のあちこちに転移していたしこりや腫れが、きれいさっぱりと消えていることを確認し、「これは奇跡だ。王女様のお身体に奇跡が起こった。」と感動して皆に伝えた。


「しばらく様子を見て、再発しなければ完治したと言って良いでしょう。」

その言葉に、そばにいた誰もが、王女に起こった奇跡に歓喜し涙を流した。


王女も喜びの涙を流しながら、バルケル伯爵に礼を言う。

「あなたのお陰で、私は命を救われました。本当にありがとうございます。ところで、ミハイルは来ていないのですか? 彼にもお礼を言いたかったのに・・・」


「申し訳ございません。息子は領地に仕事がありますので、帰ったのです。」


「そうですか。それは残念ですね。」




一週間前のあのとき、王女はミハイルに会いたがっていた・・・。

結婚式の相手を指名したのも王女なのだ。

絶対に王女はミハイルに惚れている。

王女が望めば、王女を溺愛している王は、その願いを叶えようと動くだろう。

それにしても、ミハイルを一緒に連れて来れなかったのは残念だ。

まあいい、国王の命令となれば、アイツも従わざるをえないのだから。

それに何と言っても、今日の褒美が楽しみだ。

王女の病気が完治したのだ。

前回よりも多くの褒美がもらえるに違いない。




バルケル伯爵は、これからもらえる褒美の胸算用をしながら王宮の廊下を歩いていた。


前回、リウが結婚式に協力した報酬も含めて、高額な褒美を渡した国王ジョシュアは、十七本の薬に対する褒美は、一週間後、王女の様子を見定めてからにしようと言った。


宿に戻って、革袋の金貨が半分減っていることに気付いた瞬間、激しい怒りを覚えたが、それを全部使ってしまったと言うリウの言葉をあっさりと受け入れることができたのは、本日もらえる褒美の額の大きさを考えていたからである。


謁見の間に通されしばらく待っていると、国王ジョシュアが護衛騎士と侍従を引き連れて現れた。


バルケル伯爵はジョシュアの前に跪く。


「面を上げよ。」


バルケル伯爵は顔を上げ、長く堅苦しい挨拶を始めたが、

「もう良い。早く本題に入ろう。」とジョシュアは挨拶を止めた。


バルケル伯爵は、挨拶を止められたことを、それだけ、国王は自分に親しみを感じているのだと解釈した。


「本日は、王女様のご様子を伺いに参りました。」


「ああ、娘はあれから歩く練習を始めてな。今では一人で歩けるようになった。元気になったのも、そなたのお陰である。それについては感謝しているぞ。」


「ありがたき幸せにございます。」


「ところで、今日はミハイルはどうしたのだ? いつも一緒に来ているのに。王女も会いたがっていたぞ。」


王がミハイルの名前を出し、王女が会いたがっていると言った。

やはりこれは・・・。

バルケル伯爵の心の中に勝算が湧き上がる。


きっと、この一週間の間に、王女と王の間でミハイルのことが話し合われたのだ・・・

バルケル伯爵は歓喜で胸が高鳴った。


「陛下・・・、息子は、本日は来ておりませんが、神の名のもとで王女様と誓い合ったのですから、息子ミハイルを王女様のおそばに置いていただけないでしょうか?」


その言葉の途中から、ジョシュアの目つきが一変した。

穏やかだった顔が怒りの形相に変わり、バルケル伯爵をその鋭い眼光で睨みつけた。


「貴様、神の名を盾に、私を脅迫する気か!」


「えっ? い、いえ、そ、そのようなこと、滅相もございません。どど、どうかお許しください。」

慌ててその場にひれ伏したが、ジョシュアの怒りは収まらなかった。


「コヤツを、牢に引っ立てい!」


「御意!」

間髪入れずに、護衛騎士がバルケル伯爵を引きずっていく。


「へ、陛下、陛下、どうぞお許しください、陛下~」


バルケル伯爵の許しを請う叫び声は、謁見の間から姿が見えなくなっても続いた。


バルケル伯爵の姿が見えなくなってから、ジョシュアは頭を抱えた。


「まったく、何と口の軽い男よ。あれだけ内密にと申し渡しておいたのに、このような公の場で口に出すとは・・・。あれだけ高額な褒美をやったのに、その意味もわからぬとは、これだから田舎者は・・・」


ブツブツと独り言を言う国王の周りの者は、何も聞いていないフリをして、腫物を触るようにハラハラして見ていたが、さすが国王である。

すぐに態度を変え、次の謁見者に備えたので、周りの者もほっとした。




午前中の謁見業務が終わった後、ジョシュアは執務室で休憩をとった。

そこへ、王女グレースが現れた。



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