5話 買い物
翌朝、背負い籠に背負えるだけの果物を入れて、フード付きのローブをまとい、ミウとリウは朝陽が昇る前に家を出た。
町まで歩くには、子どもの足では時間がかかる。二人はまだほの暗いうちに、町を目指して急いで歩いた。急げば疲れも激しくなるのだが、リウはウキウキしていた。
「やっと欲しいものが手に入るんだ。」
リウは、それが嬉しくて仕方がない。
昼を過ぎた頃に、二人はやっと町に着いた。二人はフードを深く被って町を歩く。ミウは白い髪を隠したいから、リウは自分を捨てた親に見つけられたくないから、それぞれの思いで顔を隠すようにして歩いた。
「アノ オミセ」
ミウが指さした方向に、果物と野菜を売っている八百屋の露店商があった。白髪の老婆が店主で切り盛りしている店である。
「オバサン クダモノ ウリニキタ」
「おや、ミウちゃんじゃないか。久しぶりだね。おや、その子は?」
老婆は、しわの刻まれた目をリウに向ける。
「コノコ トモダチ」
「そうかい。お友達ができたんだね。あんたの父さんが死んでから、ずっと一人だったものね。良かったね。」
老婆はミウとリウが背負ってきた果物を受け取り、二人の手に金を握らせた。
「今日は少し多めに入れといたからね。落とすんじゃないよ。」
「アリガトウゴザイマス」
ミウとリウは老婆にちょこんと頭を下げて、その場を離れた。
「優しいおばあさんだね。」
「ウン ニンゲン コワイケド アノオバサン ヤサシイ」
店が並ぶ通りを歩いていると、肉の焼ける芳ばしい匂いが漂ってきた。リウは鼻をクンクンさせ、その匂いの出所に向かって足を向ける。
「ミウ、僕が欲しかったのはこれなんだ。魚も美味しいけど、肉も食べたい!」
育ち盛りの少年にとって、肉は食べたくて仕方がない食材になっていた。
店にたどり着くと、店主が串刺しした肉を美味そうに焼いている。リウは思いっきり肉の焼ける匂いを吸い込んだ。
「ミウ、食べてもいい?」
今日は二人分の売り上げがあるから金銭的には余裕がある。
「ウン、イッショニ タベヨウ」
二人は串刺しの焼肉を買い、口いっぱいに頬張った。噛むと肉汁が口に広がり、ほっぺたが落ちそうなほど美味しい。
「う、美味い! ああ、僕、生きててよかったぁ・・・」
リウが満足気に笑みを浮かべた。
この後、リウが欲しかったマッチと干し肉を、ミウが買う予定にしていたろうそくを買って町を後にした。
「今まで火を点けるのにすごく時間がかかったけど、これからはミウよりも早く火を点けられるよ。」
歩きながら嬉しそうに話すリウであったが、ミウは少し残念そうな顔をした。
二人が深い森を抜けたとき、夕日のオレンジ色の光が差し込んできた。
風がそよそよと吹く中、目の前に広がる赤い海のような花々が夕日に照らされて輝きながら揺れている。
「きれいだな・・・」
「ウン、キレイ・・・」
二人はしばしその光景に見とれていた。
二人が家に着いた頃には、もう暗くなっていた。
いつもランタンのろうそくに火を点けるのはミウの仕事であったが、今日は違った。
「今日は僕が点けるよ。」
リウがマッチ棒を擦って、テーブルに置いてあるランタンのろうそくに火を点けた。ろうそくの炎が一瞬で燃え上がり、ランタンの周りを明るく照らす。
「ほら、一瞬で点くだろう? やっぱりマッチを買って正解だったね。」
「・・・ウン・・・ ソウダネ・・・」
嬉しそうに話すリウとは裏腹に、ミウは少し困ったような顔で、ぼんやりとランタンの炎を見ていた。
「それにしても美味かったなあ。お肉を食べたのはいつぶりなんだろう? やっぱり時々は焼き立ての肉を食べたいな。」
干し肉をどこにしまおうかと、場所を探しながらそう話すリウであったが、次に放たれたミウの言葉にひっくり返りそうになる。
「ヤキタテノ オニク タベレルヨ」
「えっ? お肉が食べれるって? しかも焼き立てだって?」
リウは干し肉をしまうことも忘れて、目をランランと輝かせてミウに向き直る。
「トウサン イキテタコロ ケモノ トッテ タベテタ」
「ど、ど、どうやって?」
「ワナ シカケタ ケド トウサン シンデカラ ミウ ワナ ツカエナイ」
ミウは物置部屋から金属製の罠を持って来た。獣が罠を足で踏むと、バネの力でガチャリと閉じて捕獲できるという代物だ。父親が死んで、まだ幼かったミウには恐くて使えなかったのだろう。
「ミウ、これなら僕にも使えるよ。生け捕りにした獣の処理は何度も見たことがあるから知ってるし・・・。そうだ、今からこれを仕掛けに行こう。ミウも一緒に来て。どこに仕掛けたのか、ミウも知ってないと危ないからね。」
ランタン片手に罠を持ち、二人は外に出て行った。家のそばに罠を仕掛け、おびき寄せるエサに、干し肉少しと切ったリンゴを地面に置く。
「じゃあ、おやすみなさい。罠に何かがかかってくれたらいいなあ。」
「オヤスミナサイ」
ミウが物置部屋に入ると、リウはテーブルに置いているランタンの火を消した。部屋は暗闇と静寂に包まれた。
リウは、町までの往復で相当疲れていたので、すぐに眠ってしまうだろうと思っていたのだが、仕掛けたばかりの罠が気になってなかなか眠れなかった。
灯りを消した部屋の中は真っ暗で、今は月が出ていないのか、窓から差し込む月明かりもない。
ずっと長い間、暗い窓に目を向けていたリウがウトウトし始めた頃、家の外がガサガサと騒がしくなった。
「シューシューブーブー」と低い唸り声みたいな音が聞こえてくる。こんなことは初めてのことだ。
「かかった!きっと罠にかかったんだ!」
リウは真っ暗な部屋の中、テーブルまで移動し、手探りでマッチに火を点けランタンに灯りを灯した。
「ミウに早く教えなくっちゃ!」
ランタンを持ち、ミウが眠る物置部屋に急ぐ。
そして、ミウに一刻も早く報せたいという思いが先走り、ノックもせずにいきなり物置部屋のドアを開けた。
「ミウ、罠に何かがかかったよ。起きて!」
リウが持つランタンの灯りで明るくなった物置部屋で、ミウは箱を並べて作ったベッドに、毛布に包まれて顔だけ出して眠っている。
「ミウ、早く起きて、ミウってば・・・えっ?」
ランタンの灯りに照らされているミウの顔の肌の色は水色で、その左右に大きな尖った耳が付いていた。その姿は、牙こそないものの、絵本で見た魔物と同じ姿である。
「ミ、ミウ・・・?」




