45話 王の褒美
バルケル伯爵は国王ジョシュアの侍従に会いに行き、今回の薬代とリウが結婚式に協力した報酬を侍従から受け取った。
それに加えて、先週ジョシュアと約束していた屋敷の地図と鍵を手渡された。
褒美の金貨が入った皮袋はずっしりと重く、バルケル伯爵は、込み上げる笑いを抑えるのが苦しくなるほどであった。
「こんなにも多くの褒美をいただき、国王陛下には誠に感謝申し上げます。屋敷を王都に構えることができましたから、これからは毎日、薬をお届けに参りますと、どうぞ陛下にお伝えください。」
「わかりました。ああ、それから、貴殿から言われた通り、ご子息には控室で待っているように伝えております。」
「この度はお手数をお掛けしました。感謝申し上げます。」
バルケル伯爵は、次に控室にいるリウを迎えに行く。
リウは既に、登城したときに来ていた服に着替えて、バルケル伯爵を待っていた。
本当はさっさと一人で帰りたかったのだが、式場と控室の案内役をしてくれた侍従に、控室で迎えを待つようにと言われたので、仕方なく待っていたのである。
バルケル伯爵はリウと馬車に乗り込むと、褒美の入った皮袋をリウに見せた。
「ミハイル、国王はたいそうお喜びのようだ。これほどの褒美をもらえるとは・・・」
バルケル伯爵は、ずっしりと重い金貨が詰まった皮袋を愛おし気に撫でまわす。
「国王が喜ぶ? 父上、何をふざけたことを言っているのです。」
リウは、控室で悲し気に遠くを見つめてため息をついた王女のことも、ぼろぼろと涙を流した侍女たちのことも、辛そうな顔で王女を見つめていた国王夫妻のことも、頭から離れることはなかった。
あの悲しみの中での結婚式を見て、どうして喜ぶなどと言えるのだろう・・・。
「あの結婚式は、王女の最後の望みであり、あくまでも形だけのものなのです。その高額の褒美は、薬の代金と式の報酬だけでなく、口止め料と手切れ金も含まれているのだと、どうしてわからないのですか?」
「まったくお前と言うやつは・・・、素直に喜べば良いものを・・・」
リウはこれ以上バルケル伯爵と話しても無意味だと思い、無言で外を見ていた。
宿に着くと、バルケル伯爵はリウだけ降ろし、「わしは他に用事があるからこのまま行くが、お前は明日帰る用意をしていろ。」そう言い残して馬車を走らせた。
バルケル伯爵は、馬車の中で、これからの計画を頭の中で確認する。
魔物とアルメリアを、王都の屋敷に連れて行く。
護衛は一人つけていれば十分だろう。
明日になったらミハイルだけを領地に返す。
わしは用事で遅れるとでも言っておけば疑われないだろう。
ミハイルのことだから、魔物会いたさに急いで帰るはずだ。
今回、五本の血でも王女は完治しなかった。
魔物の血では治らぬほどの重い病なのだろう。
だが、明日からは、わしが毎日一本ずつ王女に魔物の血を届けるのだ。
王女が死ぬまでの二か月間、毎日王宮に通い、王に恩を売り続ければ、王都でのわしの地位は揺るぎないものになるに違いない。
王女が死んだあとは、魔物の血を高い薬だと言って金持ちに売りつけるのも良いだろう。
領地帰ったミハイルが、魔物がいないことに気付いたら、きっと王都に戻ってくるだろうが、魔物がわしの手の内にいる間は、どうせ何もできやしない。
ふふふ、魔物の血を、わしのために思う存分使ってやるぞ!
バルケル伯爵は、アルメリアとミウがいる宿まで馬車を走らせ、二人を乗せると国王から借り受けた屋敷に連れて行った。
今まで二人の護衛を務めていた騎士も、馬車の後ろをついて来させた。
屋敷は貴族の屋敷にしては小さいものであったが、王城に近く、商店街も近くにあり、非常に利便性の良い場所にあった。
国王所有のこの屋敷は、遠方からくる貴族の宿代わりに使わせることもあり、必要最低限の家具はすべてそろっている。
使用人はこちらで用意する旨を伝えているので、今は誰もいない。
バルケル伯爵は護衛騎士に入り口の警護を任せて、アルメリアとミウを屋敷の中に入れた。
使用人がいないので、各自のスーツケースも運ばせた。
バルケル伯爵にとっても初めて見る屋敷であったが、ちょうど良いソファーとテーブルが置かれているリビングがあったので、二人をソファーに座らせたが、ミウはまだメソメソと泣いていた。
馬車の中でも泣き続け、その姿を鬱陶しく思っていたバルケル伯爵は、とうとう怒りの声を上げた。
「いい加減に泣き止まんか! ええい、鬱陶しい。」
ミウは怒鳴り声にビクッと肩を震わせたが、結局涙が止まることはなかった。
「いったい、お前とミハイルの間でどんな約束をしていたのか知らんが、ミハイルはこちらの世界に戻ってきて、ようやく気付いたのだ。魔物と人間は一緒に暮らすことはできないとな。」
「ううっ・・・うっ・・・うっ・・・」
バルケル伯爵の言葉は、さらにミウの涙を誘った。
「お前も見ただろう? ミハイルはお前を捨てて人間を選んだ。魔物よりも人間と結婚することを選んだのだ。しかも王女だぞ。ミハイルは、この国の王女と結婚したのだ。これ以上の幸せはあるまい。」
その言葉に、うつむき泣き続けていたミウが顔を上げた。
「リウの幸せ・・・?」
ミウは、目から零れる涙を指で拭う。
「王女様と結婚したら、リウは幸せになれる?」
ミウを見るバルケル伯爵の目がニヤリと笑った。




