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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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43話 小神殿

バルケル伯爵とアルメリア、ミウが乗った馬車は、王城に入ると護衛騎士の先導で王宮まで案内された。


王宮に着くと国王の侍従が三人を案内し、着いた場所は小さな神殿であった。神殿と言っても、別棟にあるわけではなく、国王が個人的に祈りを捧げる場として王宮内の一室に作られたものである。


小さな部屋に祭壇が設けられ、真ん中の通路を挟んで左右に椅子、正面にはミスティカ神の石膏像が祭られている。

白く慈愛に満ちた表情で両手を広げ、来るものを温かく迎えてくれる女神の像がそこにあった。


「お前たちはここに座って待っていろ。」


「リウは? リウにいつ会えるの?」

初めて見る神殿にキョロキョロと目を泳がせていたミウが バルケル伯爵に視線を移した。


「待っていたらここに来る。だが、絶対に声を出してはならない。この場所から動いてもだめだ。そんなことをしたら、ミハイルが責任を負って殺されるのだ。」


「ヒッ・・・」

ミウが驚いて息を飲む。


「だから、ミハイルを守りたければ、わしの言うことをきくのだ。絶対に声を出すな。そして動くな。」

ミウは怯えた顔でこくんと頷いた。


二人のやり取りを聞いていたアルメリアは、バルケル伯爵の言い分がどこまで事実でどこまでが嘘なのかわからなかった。


神殿に来たのだから、王女様の病気が治るように祈祷でもするのだろうか? と思ったが、それとミハイルが殺されることと、いったい何の関係があると言うのだろう?  


「わしは用事がある。」

そう言ってバルケル伯爵は神殿から出て行った。


残された二人は椅子に座ってじっとしていたのだが、しばらくすると、王宮内の使用人らしき人々が現れて椅子に座った。皆同じ紺色のワンピース姿の女性たちで、人数は十人ほどである。


彼女たちは王女グレースの乳母、幼い時の世話係、専属侍女、病気になってから看護に当たった世話係たちである。


国王ジョシュアは、形だけの結婚式を公にする気はなく、極内輪だけで済ませるつもりであった。これから死にゆくグレースの最初で最後の花嫁姿を、彼女の身近な人にだけ見てもらおうと考えたのである。


アルメリアは、神殿に入って来た使用人たちの表情がとても暗いことに気が付いた。

中には涙目になっている者や、すでに泣いているのか、ハンカチで目を押さえている者もいる。


いったいこれから、何が始まると言うのだろう・・・? 


入り口のドアが開くと、椅子に座っていた皆が一斉に立ち上がり頭を垂れた。意味も分からず、アルメリアも慌てて立ち上がり、ミウも立たせて、頭を下げるように囁いた。


じっと頭を下げて待っていると、真ん中の通路を歩いている二人の足が見えた。

その二人が一番前の席に座ると皆も座ったので、アルメリアも同じようにしたのだが、一番前の左側に座った二人は、国王と王妃であった。


そして遅れてもう一人、バルケル伯爵が入ってきて、一番前の席の通路を挟んで右側に座った。


さらにやって来たのは神官である。

神官は祭壇のある場所まで行くと皆の方に顔を向けた。


アルメリアは国王夫妻を見たことはなかったが、王宮内の神殿で一番前列に座ることができる人物と考えれば、後ろ姿しか見えなくても、それが誰であるのか、容易に想像できた。


そして通路を挟んで左側に国王夫妻、右側にバルケル伯爵。これがいったい何を意味するのか、アルメリアは知っている。


今から始まるのは結婚式なのだ。

ミハイル様と、王女様が? でも、いったい何故そんなことに? 

アルメリアは、驚き激しく胸打つ鼓動を必死で抑えつけていた。




一方リウはどうしていたかと言うと・・・


宿からバルケル伯爵と一緒に王宮へ行くのだと思っていたのだが、「わしは別の用事があるから、お前は一人で行け」と言われた。


王女との約束があるので逃げる気などなかったが、バルケル伯爵は護衛騎士を一人リウにつけた。


馬車はバルケル伯爵が使ってしまったので、護衛騎士と歩いて王宮に行くことになった。


王宮に着くと、リウだけが控室に案内されて、王宮の侍女たちに手伝われて白い花婿衣装に着替えた。


式が始まるまで控室で待っている間に、バルケル伯爵が現れた。


「おお、ミハイル、さすが我が息子じゃ。よく似合っている。王女様もきっとお前を見たら喜ぶであろう。」


「父上、そんなことを言ったら、王族に対する不敬に当たりますよ。気を付けてください。」


「お前は王女様の顔をまともに見ていないから、そんなことが言えるのだ。ふふふ」

リウは、バルケル伯爵の含み笑いに吐き気がしたが、ぐっと我慢した。


「ミハイル様、王女様の準備が整いました。どうぞこちらにお越しください。」

王の侍従が呼びに来た。


バルケル伯爵は、リウと一緒に行こうとしたのだが、「伯爵様は式場内でお待ちください」と言われたので、リウが一人で王女グレースの控室に入ることになった。


グレースは真っ白な光沢のある絹のウエディングドレスに身を包み、豪華な白バラのブーケを持って車いすに座っていた。


一週間前に飲んだ五本の血と、昨夜バルケル伯爵が持ってきた一本の血のお陰で、グレースの体調は良く、顔の血色も一週間前とは比べ物にならないほど良くなっている。


金色の髪も手入れされてキラキラと輝き、やせ細り頬がこけているにも関わらず、化粧を施した顔は病人には見えないほど美しい。

しかし、病気の根本は完治していないので、余命が変わることはない。


グレースは、リウを見て嬉しそうに微笑んだ。


「お待ちしておりました。今日はよろしくお願いいたします。」

その瞳は、花婿であるリウをじっと見つめていた。


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