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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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36話 アルメリアの想い

「私には二つ上の兄がいるのですが・・・、六つのときに、家族と一緒にこちらのお屋敷に来たことがあるのです。・・・」


アルメリアは幼い頃からの思い出を語り出した。


アルメリアは、隣の領地の領主トレイソン伯爵の娘であり、二つ上の兄がいる。


トレイソン伯爵とバルケル伯爵は若いころから交流があり、結婚後もお互いの領地を訪問することがよくあった。


アルメリアが六歳の年、トレイソン伯爵は夫人と兄妹を連れてバルケル伯爵邸を訪ねたのだが、好奇心旺盛なアルメリアは、よそ見をしている間に家族とはぐれてしまった。


初めての屋敷でどこに行って良いのかもわからず、途方に暮れべそをかいているときに、フレデリックが現れた。


「お嬢さん、もしかしてトレイソン伯爵家のご令嬢ではありませんか?」


心細かったアルメリアには、フレデリックがお姫様を助けに来る王子様のように見えた。

神秘的な銀色の髪も、紺碧の瞳も、端正な顔立ちも、思い描く王子様そのものである。


「はい。お父様とはぐれてしまいました。」


「それでは僕が案内してあげましょう。」

そう言うと、フレデリックはアルメリアの手を繋ぎ、歩幅もアルメリアに合わせてゆっくりと歩いてくれた。


「ここは初めてだから、心細かったでしょう。もう心配いりませんよ。」

泣き顔のアルメリアを安心させようと、歩きながらも優しい言葉を掛けてくれるフレデリックが、とても大人びて見えた。


後で兄にさんざん叱られたが、叱る兄が子どもっぽく見えて、なおさら六つ年上のフレデリックのことが、頼もしく立派な男性に思えた。


それからは、父親がバルケル伯爵に会いに行くと聞けば、自分も一緒に行きたいと駄々をこね、何回かは連れてきてもらったことがある。


窓からフレデリックを探していると、弟のミハイルと金髪の可愛らしい女の子と一緒に遊んでいる姿が見えた。自分のどこにでもいるような茶髪と違って、その女の子の金色の髪が、銀髪のフレデリックととってもお似合いのように思えて、悲しくなった。


父親が、「お前も一緒に遊んでもらったらどうだ?」と声を掛けてくれたのだが、フレデリックと金髪の女の子の間に入る気になれず、アルメリアは首を振る。

結局、話しをすることもできず、ただ見ているだけ。


しばらくたってから、その女の子はジェシカと言う名前の、フレデリックの恋人だと知った。どのみち二人の間に入ることなんて、できなかったのだと思った。


九歳になって、バルケル伯爵家との縁談が持ち上がった。

一瞬、相手はフレデリックかと期待したが、弟のミハイルだと知って少しがっかりする。

けれど、あの素敵なフレデリックの義妹になれるのなら、それでもいい・・・と思った。


だが、ミハイルとの婚約後、わずか二ヶ月でミハイルは魔物の呪いにかかって死に、アルメリアは縁起の悪い娘と思われ、ひっそりと隠れて過ごすようになる。


二年が過ぎてアルメリアが十一歳になった頃、フレデリックが領主代理の社交活動を始めたと耳にする。自分の屋敷でパーティーが催された日は、母に頼んでドレスを着せてもらい、目立たぬようにパーティー会場に入って、こっそりとフレデリックを覗き見た。


噂も忘れられ、アルメリアが少しずつ社交の場に出られるようになると、立派になったフレデリックの噂を聞くようになった。眉目秀麗で頭脳明晰、多くの令嬢が夫人の座を狙っているが、まだ結婚する気はないと言って、誰ともお付き合いをしていない。


アルメリアは一目会いたくて、フレデリックが参加するパーティーがあれば、こっそりと見に行った。


使用人や友人など誰に対しても優しくて、思いやりのある態度で接する姿は昔のまま。

女性には少し素っ気ない気もするけれど、それは、あらぬ期待を抱かせないための優しさなのだろうと思う。


子どもの頃よりも、もっと素敵で凛々しい青年になっているフレデリックに憧れ、もし、このまま誰とも結婚しないのであれば、いつか自分が大人になったとき、父親に頼んで縁談を持ち掛けてもらおうとまで考えていた。


だが、突然のジェシカの死。隣の領地まで、二人の噂は届いていた。

フレデリックはそのショックで部屋に引きこもり、生きる屍のようになってしまったと父親は言う。

恋人が死んでしまって、とても辛い思いをしているだろうに、何もしてあげられない自分が悲しくて涙が零れた。


もう、二度と会うこともできないのかと、悲しい思いを抱いていたら、一年後、フレデリックが少しずつ仕事に復帰していると、父親から聞いた。

父親はバルケル伯爵のことを心配して、いろいろ話を聞いているらしい。


仕事に復帰したのなら、またいつか会えるかもしれない・・・。

アルメリアは微かな希望に胸が震えた。


十六歳になった年、父親から書斎に来るように呼ばれた。

何事かと思って会いに行ったら、縁談の話だった。


「バルケル伯爵の息子、フレデリックとの縁談の話なのだが、条件がひどくてな。もともとお前はバルケル伯爵の息子ミハイルと結婚する予定だったから、家門同士のつながりは悪くない。むしろ喜ばしい限りだ。だが条件がな・・・」


フレデリックの名前を聞いた瞬間、アルメリアは飛び上がりそうになった。

心臓がドキドキして、早くその続きが聞きたくてうずうずする。


「その条件とは、どんな内容ですか?」

言い出しにくそうにしている父親に、アルメリアは続きをせかした。


「婚姻を結ぶまで一切会わない、結婚式は挙げない、おまけに結婚してからも夫としての務めは果たさないと言うのだ。まったく花嫁をバカにしているとしか思えない。こんな縁談、断ってもいいのだぞ。」


怒った口ぶりの父親に、アルメリアは喜んで言った。

「お父様、私、その縁談をお受けします。今すぐ話を進めてください。」


その後はとんとん拍子で話が進み、本人たちが顔を合わさずに婚約、その半年後、十七歳の年にアルメリアは結婚のため、バルケル伯爵邸に嫁いできた。


着ていくドレスは花嫁衣装にしようか悩んだが、おそらくジェシカのことが忘れられず、夫としての務めを果たさないと言うフレデリックには、華やかな花嫁衣装は嫌味にしか見えないだろうと思い、わざと質素なドレスにした。


馬車が到着した際、目の前に夢にまで見たフレデリックが現れて、直接手を取り出迎えてくれたことが嬉しくて、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかっていたから、うつむいて歩いた。


その後すぐに客間に放置されたけれども、アルメリアは気にならなかった。

そんなことは覚悟していたし、何より、愛するフレデリックと同じ屋根の下にいると思うと、それだけで胸が高鳴った。


初夜でジェシカの話を聞いて思ったこと。

それはフレデリックの愛の深さだった。


罪悪感にさいなまれ、今も苦しんでいる。

それが彼の優しさと愛の深さからくるのだったら、今もフレデリックの本質は昔と何も変わらない。

そんな彼を支えたいと思った。

だから、自分からバルケル伯爵とフレデリックの間に立つと申し出たのだ。



「・・・私は愛するあなただからこそ、お支えしたいと思ったのです。」

アルメリアの長い話が終わった。


「フレデリック様、私の愛はとても重いのです。こんな重い女、嫌になりましたか?」


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