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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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32話 五本の青い血

「リウの病気は治った? もう、リウに会える?」


ランタン片手にミウの血を抜きに来たバルケル伯爵にミウは問うのだが、バルケル伯爵は、またもや悲しそうな顔をした。


「実はな。ミハイルはお前の血のお陰で病気が治ったのだが、王都に行った際に無理をしてな。また病気がぶり返してしまったんじゃよ。ああ、可愛そうなミハイルのために、またお前の血を分けてくれんか?」


「リウ、また病気になったの? 早くミウの血を飲ませてあげて。」

ミウはバルケル伯爵の目の前に、疑うことなく腕を差し出した。


「今回は熱がすごく高くてな。たくさん血が必要なのだ。」

バルケル伯爵は注射器を手に、ニヤリと薄ら笑いを浮かべながら青い血を抜く。

針を差し込まれる度に、ミウはビクッとしたが痛みに耐えた。


一本、一本と、薬ビンの数が増えていく。

五本目の血を抜かれた後、ミウは言葉を発することはできず、そのまま倒れるようにベッドに横になり、ピクリとも動かなくなった。


しまった、血を抜きすぎたか? 


バルケル伯爵は焦ってミウの頬をポンポンと軽くたたいて様子を見たが、反応はなかった。


うっ、まだ死なれては困るのだが・・・

焦る思いでミウの顔を凝視すると、息をしているのは間違いない。

死んだと言うよりも、深い眠りについたという方が正しいように思えた。


「この後の介抱はアルメリアに任せるとしよう。」




薬ビンを籠に入れて逃げるようにこの場を去ったバルケル伯爵と、入れ替わるようにして、アルメリアが地下牢に入ってきた。


「ミ、ミウさん、大丈夫ですか?」


バルケル伯爵に「介抱を頼む」とは言われていたが、まさかこれほどとは・・・。


ミウは前回よりも、もっとひどい状態になっていた。

ランタンで照らして見る顔は、青い血の気がまったく感じられず、髪の毛と同じ真っ白になっていた。身体を揺り動かしても全く反応がない。


「水分をとってください。ああ、滋養効果の高い水分の方が良いですね。」

アルメリアは、砂糖を溶かした水を吸い口に入れて、ミウの半身を抱き起こして甘い水を飲ませた。

目を開けることもできず、話すこともできなかったミウであったが、意識はあったようで、アルメリアが飲ませた砂糖水を、少しずつではあるが全部飲むことができた。


こんな暗いジメジメした牢屋の中で、死にそうになっているミウのことが哀れに思えてならない。

アルメリアはミウを客室に移してはどうかとバルケル伯爵に進言したのだが、結局却下された。

人間の姿に変身しても、いつ何時魔物に戻るかわからない。逃げたら困る。それが理由だった。


それよりも、アルメリアの心を不安にさせたのは、バルケル伯爵の気味の悪い笑いだった。

人間に変身することができると伝えると、利用価値が広がる・・・そう言いながら笑ったのだ。

いったいミウに何をすると言うのだろうか・・・。




そのころリウはどうしていたかと言うと、護衛騎士に動きを阻まれ、まったく自由に動くことができなかった。


ミウに会いたいと言っても、バルケル伯爵は聞く耳を持たない。

そしていつもの決まり文句。

「あの魔物を生かしたいのだったら、わしの言うことを聞くのだ。」


結局その言葉は殺し文句となり、リウの動きを封じ込めた。




翌朝早くに、バルケル伯爵とリウが乗る馬車は、王都に向かって出発した。


二人を見送った後、アルメリアは、ミウに会いに行った。

昨日の砂糖水が効いたのか、ミウはベッドで横になりながらも話せるようになっていた。


「リウの病気、治った?」

力なく腕も足も動かさずにミウは問う。


「あ、あの・・・、私はミハイル様に会っていないので、治ったのかどうかわからないのです。」

真実を告げるのは、余りにも酷なように思えた。


「そう・・・。早く良くなるといいな・・・。リウに会いたい・・・」


「きっとそのうちに会えると思いますよ。」


「うん。元気になったら会えるよね。」

ふっと微笑んだミウを見て、アルメリアの胸はジワリと痛んだ。


ごめんなさい。本当に会えるのかなんて、私にはわかりません・・・




血を抜かれたミウを回復させることが、今のアルメリアの仕事だった。

滋養効果の高い食事をさせ、水分をしっかりとらせた後は、ベッドで休ませる。


牢屋からの自由はなく、まるで飼い殺しをしているようで、ミウの世話をしながらも罪悪感にさいなまされた。




バルケル伯爵が王都に出発して三日後の昼間、フレデリックが地下牢から戻ってきたアルメリアに声を掛けた。


「ミウの体調は戻ったのか?」

本来なら執務室で事務仕事をしている時間であったのだが、フレデリックは夫婦の部屋のリビングで、腕を組み立ったままアルメリアが戻ってくるのを待っていた。


使用人を置いていないことから、誰にも聞かれたくない話なのだろうと推察される。


「はい。もう自由に動けるようになりました。でも、またお義父様が戻って来られたら、あのように死んだようになるのかと思うと・・・。」


あいつのことだ。もっと多くの血を抜いて、本当に殺してしまうかもしれない。アルメリア、僕は、ミウを逃がそうと思っている。」


「えっ? でも・・・」

初めに逃がしたいと話したのはアルメリアで、フレデリックは反対したはずなのに・・・


「君は一切関っていない。何も知らなかった。何を聞かれても、それで通してほしい。僕が地下牢にいるミウを見つけて勝手に逃がした。答えはそれだけだ。責任は僕が負う。わかったね。」


フレデリックは、私の夫は、私を守ろうとしてくれている・・・。

アルメリアはこくんと頷いた。


フレデリックは鍵を受け取り、ランタンを持って地下牢へと足を運んだ。


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