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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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28話 フレデリックとミウ

アルメリアは、早朝バルケル伯爵とリウを見送った後、地下牢へと向かった。朝とは言え、光が入らない地下牢は真っ暗なので、アルメリアはいつものようにランタンを下げて行く。


もう片方の手には朝食が入った籠を持っている。ミウがどれだけ回復したのか心配で、歩く速度が早くなる。




昨日、バルケル伯爵から、魔物に精のつくものを食べさせろと聞かされたときは驚いた。

あの義父が魔物の心配をするなんて・・・。

どういう風の吹き回し?


だが、ミウの姿を見て、何故伯爵があのようなことを言ったのか合点がいった。ミウはベッドで横になっていたが、まるで死んだようにぐったりとしていたのだ。


「いったい、何があったのですか?」


「リウが病気だって聞いたから、血を分けてあげた。」

いったい何を言ってるのか、意味がよくわからない。


「血をあげたら、病気が治るのですか?」


「そう、ミウの血を飲むと病気が治る。」


そう言えばと思い出す。


少し前、病気の使用人が伯爵から薬をもらって、飲んだら治ったって騒いでいた。


あの義父が使用人に薬を飲ませるなんて・・・と訝しんでいたのだが、もしかしたら、ミウの血が、本当に病気を治すのか確かめたかっただけなのでは・・・?。


ミウはしゃべることはできるが、見るからに力なくぐったりとしている。

血を抜けば、力がなくなるのは当然で、量を間違えれば命にも関わる恐ろしいことなのに・・・。


アルメリアが精のつく食べ物として持ってきたのは、肉と卵と野菜を煮込んだシチュー、そしてバターをたっぷり塗ったパン。

テーブルをベッドに近づけて、その上に食べ物を置く。


ミウはふらふらと身体を起こして、シチューを食べ始めた。食べる手を動かすのもままならない様子であったが、ミウはゆっくりと時間をかけて全部平らげた。




あれから一晩寝た今、少しは元気になっただろうか・・・。


牢屋の中に入り、ランタンの灯りを照らして様子を見たら、ミウはまだ眠っていた。スースーと、規則正しい寝息を立てている。


しかし、灯りの眩しさに目が覚めたようで、むくりと起き上がった。


「おはよう。ミウさん。身体の調子はどうですか? まだ苦しいですか?」


「おはよう。まだ少し力が入らないけど、もう大丈夫。リウは元気になった?」


「・・・」

アルメリアは言葉に詰まる。


そもそもリウは、初めから病気になんてなっていない。

今朝も嫌そうにしていたが、伯爵と一緒に馬車に乗って王都に出発した。


「そう・・・ですね・・・。ミハイル様は元気になって、朝から仕事に出かけました。」


「仕事に? 元気になったのに、会いに来てくれないの?」


「と、とても忙しくて、お時間が取れなかったようですよ。そんなことより、朝食をお持ちしました。少し早いけど、食べますか?」


「うん。食べる。」

ミウは、ふらつく足を動かして椅子に座る。


アルメリアは、これ以上ミハイルのことを聞かれなくて良かった・・・と、ほっとしながらテーブルの上に朝食を並べた。

バターを塗ったパンに牛乳、ベーコンエッグとリンゴ。


ミウはムシャムシャとパンを食べ始め、アルメリアは鉄格子に背を向けて、それを黙って見ていた。


「アルメリア、そこで何をしている?」

突然、耳慣れた男の声が背後から聞こえた。

驚いて振り向くと、そこに立っていたのは夫であるフレデリックだった。


「フ、フレデリック様・・・、な、何故、こちらに・・・?」


ランタンを掲げて、鉄格子の外から中の様子をじーっと伺うように見ているフレデリックの顔に、驚愕の表情が現れた。


「こ、これは、何としたことか? とうとうあいつは、少女にまで危害を加えようとしているのか?」


フレデリックの言うあいつとは、バルケル伯爵のことである。ジェシカの一件から、フレデリックは伯爵のことを父上とは呼ばなくなった。屋敷の中にいても顔を合わせようとせず、声を掛けられても返事をしない。母親やアルメリアと話す際は、父のことを、()()()で済ませている。


「少女・・・ですか?」


「ああ、そうだ。牢屋の中でパンを食べているのは、どう見ても少女であろう? 少年には見えないが・・・。」


アルメリアは、フレデリックには魔物の姿が少女に見えるのかと不思議に思いながらミウを見ると・・・

ミウの水色の肌は人間と同じ色になり、大きく尖った耳は丸く小さな人間の耳の形に変わっていた。


「ミ、ミ、ミウさん? あなた、人間に変身できるのですか?」

ミウは、声を出さずに小さく頷いた。


「まったく、私には何の話をしているのかよくわかりませんが・・・。」

フレデリックは鉄格子のドアを開け、中に入ってきた。


「お嬢さん、どうしてこんなところにいるのか知りませんが、あなたが攫われてきたのなら、今すぐ家に帰してあげましょう。こんなところにいてはいけません。」


椅子に座ったまま、ミウはフレデリックを見上げた。

初めて見る顔に警戒して、瞬時に人間に変身したが、ミウを見るその目から、本気で心配してくれているのがわかる。


「ミウは、リウを待つよ。帰るときはリウと一緒。だから、このままここにいる。」


「リウとは?」


「あの、ミハイル様のことです。」

アルメリアが慌てて説明をする。


「そうか・・・。君が今までミハイルと一緒に暮らしていたんだね。」


「あの、フレデリック様、説明すればとても長くなります。今からお部屋に戻りませんか?」


「ああ、そうしよう。」


「では、私はミウさんが食事を終えてからお部屋に戻りますので、待っていてください。」


フレデリックは、これ以上の追及をせずに、夫婦の部屋に戻ることにした。


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