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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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26話 青い血

バルケル伯爵は地下牢にいるミウに会いに行く際に、念のために騎士を連れて行った。ミウをロープで縛った騎士である。魔物である以上、いつ人間を襲ってくるかわからない。だから護衛は必要だと思った。


だが、できるだけこっそりと、その目的を知られぬように動く。屋敷の地下牢に魔物がいることを知るのは、屋敷の中でもごく一部にとどめ、バルケル伯爵は使用人たちにもばれないように慎重に行動した。


地下牢は日の光が差し込まず、一日中暗い。バルケル伯爵はランタンに火を灯して、地下牢へ続く階段を下った。


ミウがいる牢屋の前で立ち止まると、ベッドに座っていたミウが急に怯えた表情を見せた。捕まえられたとき、病気で寝込んでいたと言っても、自分を縛って運んだ騎士の顔と、それを命令したバルケル伯爵の顔を覚えていたからである。


「殺さないで!」


「わしはお前を殺さないよ。」


「ほんとに? じゃあ、リウに会わせて!」


「残念だが、お前はミハイルに会うことはできないのだ。」


「どうして?」


「実はな。ミハイルは今、病気でな。病気を治すために、お前の血が必要なのだ。血を分けてくれるか?」

バルケル伯爵は優しく話しているが、顔はいやらしくニタリと笑っている。


「リウ、ほんとに病気なの?」


「ああ、そうだ。だからお前の血が必要なのだよ。わかってくれるか?」


「わかった。病気が治ったら、リウに会える?」


「ああ、もちろんだ。では、お前の血をくれるのだな。」


バルケル伯爵は鍵を開けて牢屋の中に入り、ミウの前に立つ。


「さあ、手を出してくれるか?」


バルケル伯爵は注射器を持っていたが、ミウにはそれが何かわからなかった。

今まで血を与える際は、ナイフで手首に傷をつけていたので、バルケル伯爵もそうするものだと思っていたのだが、目の前にあるのはナイフでなく、見たこともない道具である。


ミウは、首を傾げて手を差し出した。


「痛いが、我慢するんだぞ。」

バルケル伯爵はミウの手首の血管に、注射器の針を差し込み血を抜いた。注射器の中が徐々に青い血で満たされていく。


針を刺された瞬間、ミウはビクッと震えたが、痛さを堪えて自分の青い血が注射器に吸い込まれていくのを黙って見ていた。


「終わったぞ。これでしばらく押さえておけ。」

バルケル伯爵は針を抜いた後、傷口に綿を当てた。


「じゃあ、リウの病気が治ったら会わせてね。」


「ああ、病気が治ったらな。」


バルケル伯爵は注射器に満たされた青い血を薬ビンに移し、布で包むと大事な物を抱えるようにして地下牢を去って行った。


「リウに早く会いたい・・・」

一人残されたミウは、ぽつんと独り言ちた。




その後すぐに、バルケル伯爵は目星をつけていた使用人部屋へと向かった。


「わしだ。入るぞ。」

ガチャリとドアを開けて入った部屋の中には、熱を出しベッドで寝込んでいる中年の女性と、その女性を看病している若い娘がいた。二人は母と娘の関係である。


娘は寝ずの看病をしたのか、ずいぶんと疲れたような顔をしているが、いきなり入ってきた屋敷の主人に驚き、その場に平服した。


「ご、ご主人様、わわ、私は無断で仕事をさぼっていたわけではございません。メイド長から許しを得ていますので、どうかご容赦を・・・」


ベッドで寝ている母親も、苦しそうに半身を起こし頭を下げる。

「申し訳ございません。私が病気などになったばかりに・・・」


「ああ、そんなことはわかっておる。だから来たのだ。二人とも顔を上げなさい。」

娘は顔を上げたが、まだ、どこか怯えているような目でバルケル伯爵を見ている。


「それでは、このような場所に、どのようなご用件でいらっしゃったのですか?」


「ああ、お前たちに飲ませたいものがあるのだ。」

バルケル伯爵は、包んだ布の中から薬ビンを取り出した。


「おい、コップ二つとスプ―ンを持ってこい。」


「は、は、はい。」

娘は慌てて部屋の中に置いているコップと食事用の大きなスプーンを、バルケル伯爵に差し出した。


「ふむ。まずはスプーン一杯からだな。」


バルケル伯爵が過去の実験記録を読んだ際に困ったことがあった。それには具体的な量が書かれていなかった。


どれだけ飲ませれば効果があるのか、どれだけ血を抜けば魔物は死んでしまうのか、それがわからない。だからメイド長に病人はいないか確認し、看病している娘と一緒に実験をすることにしたのだ。


バルケル伯爵は二つのコップにスプーン一杯の青い血を注ぎ、娘と病気の母親に渡した。


「あの、これはなんでございますか?」

娘が見たこともない青い液体の正体を知りたがったが、バルケル伯爵は無視した。


「いいから、さっさと飲むんだ。」

不信感を拭えないまま、娘も母親も飲んだ。


「どうだ? 何か変わったことはあるか?」

少し間を置き、バルケル伯爵は期待を込めた目で二人を見る。


娘は不思議そうに首を傾げた。

「あの・・・、ご主人様、先ほどまで私はとても疲れていたように思うのですが、不思議なことに、今とても身体が軽いのです。元気になったと言うか・・・」


「ふむ、そうか。ならばお前はどうだ?」

バルケル伯爵は、母親にも問う。


「あの・・・、少し楽になったような気はするのですが・・・ゴホッゴホッ」


「ふむ、病人には、まだ足りないようだな。では、量を増やそう。」

バルケル伯爵は母親が持っているコップに、スプーン三杯の青い血を注ぐ。これで薬ビンの血はなくなった。


「さあ、飲め。」

母親がグビリとそれを飲み干した。


しばらくすると、母親の顔がぱあっと明るくなった。

「ご主人様、これはものすごく高価なお薬なのですね。ありがとうございます。身体がとっても楽になり、咳も止まりました。本当にありがとうございます。」


「お母さん、治ったの?」


「ええ、そうみたいよ。もう明日から普通に働けるわ。」


娘の顔も笑顔になり、バルケル伯爵に心からの礼を言った。

「ご主人様、お母さんを治してくださりありがとうございます。」


バルケル伯爵は満足そうな顔をして出て行った。




書斎に着き、ドサッと椅子に座ると、先ほどの母娘のことを考えた。


やはり、魔物の血は病を治す力がある。スプーン四杯で風邪程度の病気は治るようだ。

では、重症患者では、どれくらいの血が必要なのだろう・・・




ミウが地下牢に閉じ込められて一週間が過ぎた頃、王都にある王城から、バルケル伯爵に一通の手紙が届いた。


封を開けて手紙を読んだバルケル伯爵は、喜びで手紙を持つ手が震えた。


「とうとう、わしにもチャンスが回ってきた。はははっ、あの魔物を大いに使ってやるぞ!」


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