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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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25話 アルメリアとミウ

「ま、魔物ですか?」

アルメリアは驚き、そして身体がブルブルと震え出した。


とうの昔に絶滅していたと思っていたのに、まだ生きていたの?

魔物は生きたままの人肉を食らう。

そんな恐ろしい魔物の世話をさせるなんて・・・。


「お義父様、それは・・・、あまりにひどい仕打ちなのではありませんか? いったい私が何をしたというのですか?」


「ははっ、そう怒るでない。実は生け捕りにしてきた魔物は、ミハイルとずっと一緒に暮らしてきた魔物なのだ。食べ物は人間と同じで、人の言葉を話す。それから今は病気だから、薬も飲ませてほしい。今死なれたらまずいのでな。」

バルケル伯爵はアルメリアに、リウから預かった二本の薬ビンを渡した。


「くれぐれも、誰にも口外しないように。」


「フレデリック様にもですか?」


「そうだ。お前の夫にも秘密にしておくように。ミハイルにも、どこにいるのか言うなよ。」




地下牢の鍵を渡されたアルメリアは、ランタンを右手に、左手には飲食物と薬を入れた籠をもって地下牢へと足を運んだ。


地下牢には灯りがなく真っ暗であったが、ランタンの光が牢屋の中を照らし、そこに縛られ毛布を掛けられてごろりと転がされているミウを見つけた。


毛布からはみ出している顔は水色で、目は吊り上がり、髪の毛は真っ白、特に目立つのは大きな尖った耳である。


「本当に魔物だわ。でも、牙はないのね。それにロープで縛られているから危害を加えることはなさそうだわ。」

アルメリアは、恐る恐る牢屋の鍵を開け、中に入った。


ランタンを近づけよく顔を見ると、苦しそうな息遣いで人間が病気で苦しんでいる状態と同じである。そっと額に手を当てると熱がある。


「あの・・・、大丈夫ですか?」

恐る恐る声をかけると、ミウが目を開けた。

金色の目にランタンの光が反射し、怪しく光る。


「キャッ」

アルメリアは恐怖で思わず後ずさった。


「お水・・・お水が飲みたい・・・」

初めて聞くミウの声は、消え入りそうに弱々しい。


「お、お水ですね。」

寝ているままでは飲みにくいだろうと、アルメリアはミウの上半身を起こし、水筒に入れてきた水を飲ませた。


よっぽど喉が渇いていたのだろう。ミウはゴクゴクと音を立てて水を飲んだ。


「あの・・・、薬も持ってきたので飲んでくださいね。」

アルメリアは薬の蓋を開け、水を飲ませたように薬も飲ませた。


「ありがとう。ところで、ここはどこ? あなたはだれ?」

リウにもらった薬が効いてきたのと、今水と薬を飲んだせいか、ミウの話し方が少ししっかりしてきた。


「魔物なのに、本当に人間の言葉をしゃべるのね。それにお礼も言うなんて・・・」


「ミウは魔物じゃない。」


「ミウって?」


「名前」


「驚いたわ。名前もあるなんて・・・。ここは領主バルケル伯爵様のお屋敷です。私はアルメリア、あなたのお世話を言付かりました。」


「リウ、リウはどこ?」


「リウ・・・ですか? そのような名前の者はここにはおりませんが・・・。」


「ここに一緒に連れてこられた。だからいるはず・・・。」


「もしかしてミハイル様のことかしら。金色の髪に青い瞳の?」


「そう、リウは金色のきれいな髪と青い目をしてる。」

リウの話になると、ミウの話し方が急に明るくなる。


「あの・・・、ミハイル様のことを、リウと呼んでいらっしゃるのですね。」


「ミハイル? それがリウの本当の名前? でも、リウはリウだよ。ずっとリウって呼んでたから。」


「・・・」

敬語を知らず、まるで男の子のような話し方をするミウに、アルメリアは戸惑いを覚えた。だが、魔物とはそういうものなのだろうと自分に言い聞かせる。


「リウはどこ? リウに会いたい。リウに会わせて。」

子どもが駄々をこねるように話すミウに、アルメリアは首を振る。


「ごめんなさい。あなたにミハイル様を会わすことはできません。お義父様の言いつけを守らないといけないので・・・。」


そう、お義父様に逆らってはいけないわ。

フレデリック様の悲劇を繰り返してはいけないもの・・・


ぐすんぐすんとミウが泣き出した。吊り上がった金色の瞳からぽろぽろと涙が零れてくる。


「まあ、人間と同じように泣くのですね。」


ミウは、「リウ、リウ」と名前を呟きながらぽろぽろと涙を流し続けた。


「あなたのロープをほどいたら、食事はできますか?」

その問いにミウはこくんと頷いた。


「私を襲わないでくださいね。」


アルメリアがロープをほどき、食べ物が入った籠を差し出すと、ミウはパンを掴んで食べ始めた。次に焼いた肉を皿ごと籠から取り出して、ナイフで切ってフォークを突き刺し口に入れる。その食事風景は人間と何ら変わらない。

アルメリアは、初めて見る魔物の食事姿に目を瞠るばかりであった。




世話が終わったら必ず様子を報告に来るようにと言われていたので、食事が終わるのを見届けるとアルメリアはバルケル伯爵がいる書斎へと向かった。


「お義父様、ご報告に参りました。」


「ふむ、あの魔物、どうだった?」


「人間の言葉を話し、名前はミウだと名乗りました。人間と同じように食事をします。それから、初めはぐったりとしていましたが、薬が効いてきたのか、食事が終わるころには元気になっていたようでした。」


「狂暴性はどうなのだ?」


「それはありません。人間の子どものような話し方をしますし、どちらかと言うとおとなしい方だと思います。」


「そうか。これからも世話を続けてくれ。」


「あの・・・」


「何だ?」


「ミハイル様に会いたがっているのですが・・・」


「だめだ、会わせるわけにはいかない。もし、ミハイルに聞かれても、知らないと言うんだぞ。わかったな。」


「・・・はい。かしこまりました。」




アルメリアはその後も毎日ミウの世話をした。床で寝るのはかわいそうだと思い、簡易ベッドを牢屋の中に入れ、他にも小さなテーブルとイスを置いた。

食事は三食、きちんと食べさせた。


そのたびにミウは「ありがとう。」と礼を言う。

魔物とは恐ろしい存在ではなかったの? 


歴史書に書かれていることが間違いなのか、それともミウが特別なのか、アルメリアにはわからなかった。




ミウが伯爵家に連れてこられて三日目、アルメリアから、病気は完治し、食事もしっかり食べていると報告を受けた後、バルケル伯爵は嬉しそうに笑った。


「はははっ、そろそろわしも実験を開始するとするか・・・。」

バルケル伯爵は、ミウがいる地下牢へと向かった。


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