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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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24話 伯爵家へ

家の中に入ってきたバルケル伯爵を見て、リウは凍りついた。


「何故、父上が・・・」


「ははは、甘い甘い、お前はまだまだだな。見張りがわざと寝ていたのにも気付かずに、わしをここまで案内してくれたのだからな。」


外からワンワンと犬の鳴き声が聞こえてきた。一仕事が終わったご褒美に、美味しい餌をもらっている機嫌の良い鳴き声である。


「おい、お前たち、入って来い。」

その声を合図にリウを見張っていた騎士が二人、家の中に入ってきた。


リウの脳裏に、ミウが語った父親の最期が過る。

― ミウの父親は騎士に切り殺された ―


「来るな! 来ないでくれ!」

リウはミウが父親と同じ運命を繰り返さないように、その身体に覆いかぶさり敵の刃から守ろうとした。


「引き離せ。」


「や、やめろ!」

リウの力は強くなったと言っても、日ごろ鍛えている騎士とは戦力そのものが違う。


一人の騎士に羽交い絞めにされ、ミウと引きはがされた。

それでも抵抗して何とかミウの手を掴んだが、もう一人の騎士は、握っている手を外しにかかる。


「や、やめてくれ!」

だが、リウの抵抗むなしく、リウの手とミウの手は無残にも引き離されてしまった。


「リ、リウ・・・ゴホッ」

病気で身体が思うように動かないミウは逃げることもできず、引き離されたリウに向かって手を伸ばし、悲し気な目で見ることしかできない。


「こいつを運べ。」

バルケル伯爵の指示で、手を外した騎士がロープでミウを縛り始めた。


「何をするんだ。ミウは病気なんだぞ。やめてくれ、やめるんだ!」

羽交い絞めにされてもなお、もがき続けながらリウは叫び続ける。


「ミハイル、わしは、この魔物を殺すつもりはない。だが、お前の出方次第では、すぐに命じて殺させる。だからおとなしくしろ。」


「うっ・・・そ、そんな・・・」

ミウを人質に取られ、リウはそれ以上抵抗できなくなった。 悔しくて目に涙が滲んでくる。


「ミウは病気なんだ。だから、せめて毛布を掛けてあげてほしい・・・。」

ポロリと涙をこぼしながら、リウはバルケル伯爵に頼んだ。


「わかったよ。それぐらいはいいだろう。おい、そいつに毛布を掛けてやれ。」


騎士は命じられたとおりにロープで縛ったミウを毛布で包み、そのまま抱きかかえて外に出て行った。


「ミウをどこに連れて行く?」


「わしの屋敷に連れて帰るんだよ。こいつには使い道があるのでね。」


騎士はミウを運び、幌付き馬車の中に置かれていた鉄格子の檻に入れた。もう一つの檻には、ここまで案内役を務めていた猟犬が二匹入れられている。


「さあ、我々も帰ろう。お前はわしと一緒に乗るのだ。」

バルケル伯爵はリウを外に出るように促し、乗ってきた馬車に乗せた。


バルケル伯爵の馬車と、ミウが積まれている馬車の二台が屋敷に向かって走り出した。




「父上、何故、こんなことを・・・?」


「お前は一人で森で生きてきたと言っていたが、そんなことを信じる者はバカだということだ。お前は絶対に誰かと一緒に暮らしていた。そしてそれは、誰にも言えないような相手なのだ。そう考えれば、おのずと答えが出てくるであろう?」


「ミウを、どうするつもりなのですか?」


「何度も言うが、殺す気はない。だが、それもお前次第だ。だから心しておくように。」


「ううっ・・・」

リウは唇を噛みしめて、目の前のバルケル伯爵を睨んだ。


「ところで、魔物は生きたままの人肉を食らうと思っていたのだが、お前が無事であることを考えると、それは違うようだな。魔物は何を食べるのだ?」


「父上、先ほどから、ミウのことを魔物魔物と呼んでいますが、彼女は魔物ではありません。僕たち人間と何も違いはないのです。だから、食べ物も人間と同じです。」


「ほう、つまり歴史書が間違っていると・・・?」


「そうです。この国の歴史が、間違った常識を国民に植え付けただけなんだ。」


「ふっ、お前の言いたいことはわかるが、今さら何を言ったって、世間の常識が変わることはない。わしが殺さないだけでも、ありがたいと思え。それにしてもミウなどと名前をつけおって・・・。魔物なんぞに名前などもったいない。」


ああ、この人には何を言っても無駄なんだ・・・

リウは虚しい思いに心が沈んだ。




二台の馬車は日が沈んだ頃に屋敷に着き、リウは客室に行くようにと言われたが、騎士が見張りを兼ねて、ぴったりとそばに付いている。勝手はさせないというバルケル伯爵の無言の圧力が重くのしかかる。


「父上、ミウに、必ず薬を飲ませてください。それから、食事も与えてください。」

別れ際にバルケル伯爵に頼んだのだが、本当にミウの世話をしてくれるのか、不安でたまらない。リウは自由になれないその身を嘆いた。


屋敷に到着してから、ミウは騎士に抱きかかえられてどこかに連れていかれたが、リウは知ることができなかった。さほど大きな屋敷とは言えないが、領主の館である以上、部屋数は多い。どうか、少しでも良い部屋で過ごさせてくれとリウは願った。




ミウが連れていかれたのは、屋敷の地下に作られた牢屋だった。窓はなく暗くジメジメしたその場所に、鉄格子をはめ込んで作られている。


使用人に懲罰を与えるためや、外部からの不審な侵入者を捕まえた際に使われる地下牢で、ミウはロープで縛られたまま床にごろりと寝かされ、その上に毛布が掛けられた。




バルケル伯爵は、書斎にアルメリアを呼んだ。


昨年十七歳で長男フレデリックと結婚したアルメリアは現在十八歳で、まだ子どもはいない。まだ若いが伯爵家の夫人として、いつも身なりをきちんと整え、茶色の髪をきれいに結い上げている。


落ち着きのある上品なモスグリーンのドレス姿で書斎に入ってたアルメリアは、大きな茶色い瞳をバルケル伯爵に向けた。


「お義父様、何かごようでしょうか?」


「ああ、お前に魔物の世話を頼みたいのだ。誰にも内緒でな。」


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