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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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18話 フレデリック

リウがベッドの上で一人悶々と頭を抱えていると、ノックの音が聞こえた。


「アルメリアです。入ってもよろしいですか?」

薬屋でリウを呼び止め、記憶が戻るきっかけとなった女性だ。


彼女は幼い頃、わずか二ヶ月間であったが、リウの婚約者であった。今はリウと同じ十八歳、他の誰かと結婚していてもおかしくない年齢である。


「どうぞ。入ってください。」

アルメリアが静々と入ってきて、ベッドの横に置いてある椅子に座る。


「お加減はどうですか? あのとき、頭が割れるように痛いとおっしゃって、そのままお倒れになったので、とても心配していたのです。」

髪を結い上げ化粧をしているアルメリアは、九歳の頃の面影はほとんどなく、額にかかる茶色い巻き毛と大きな茶色い瞳だけが、かろうじてその当時を思い出させる。


「今は、頭の痛みはなくなり、大丈夫です。」


「そうですか。ほっといたしました。」


「あの・・・、僕がいなくなってから、何が起こったのか、話してくれませんか? 先ほど兄上が来たのですが、とても聞ける雰囲気ではなかったので・・・」


「そうですか・・・。フレデリック様は、自分からはお話しなさらないと思います。」


「それはどういう・・・?」


「あまりにも辛すぎるお話だからです。ああ、それから、一つお伝えしておかなければなりません。子どもの頃、私はミハイル様の婚約者でしたが、今はフレデリック様の妻なのです。」


「えっ? アルメリアが兄上の?・・・」

ジェシカはどうしたのかと聞きたかったが、結婚した彼女に、昔の恋人のことを尋ねるのは失礼だと思い、それ以上聞くことができなかった。


しかし、言葉にしなくても、アルメリアはリウの表情を読み取った。


「ジェシカ様のことを聞きたいのですね。」

アルメリアから話を持ち出してくれたので、リウはこくんと頷いた。




話はリウがまだ魔物の呪いにかかる前に遡る。


「お前はまだ、モルフィーの娘と付き合っているのか? 早く別れろと言ってるだろう。バカ者が!」


「父上、何度も言いますが、私はジェシカと別れるつもりはありません。ですから、ミハイルを後継者にしてください。ミハイルに至らない点があるならば、私がミハイルを支えます。」


「いい加減にしないか!」


廊下に響き渡る父子喧嘩には、もう皆慣れっこになっていた。いったいどちらが折れるのだろうと、使用人はハラハラしながらも興味深く見守っていた。


しかし。ミハイルが魔物の呪いで死んでから状況は変わった。


「フレデリック、ミハイルは死んだのだ。お前しか後継者はいない。我が伯爵家にふさわしい令嬢と結婚するのだ。借金もろくに返せないようなヤツの娘などは、お前にふさわしくない。」


「父上、それを言うなら、私がしっかり働いて、借金以上の稼ぎがあればいいのでしょう?」


「身分を考えて言ってるのか? お前は伯爵、ヤツは男爵だぞ。身分の違いはどうにもならん!」


結局、平行線をたどっていたのだが、フレデリックがジェシカに会いに行った日に、彼女の方から別れを切り出してきた。


「フレディー、ごめんなさい。私たちは別れた方がいいと思うの。もう、これ以上は・・・」

苦しそうに言うジェシカの緑色の瞳に涙が滲んでいる。


「ジェシー、何故そんなことを言うんだ? わかった、僕の父が手を回したんだろう?」


「これ以上フレディーに付きまとうなら、今すぐ借金を返せって・・・。父も困っているの。だから・・・」

ジェシカの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


「ジェシー、じゃあ、こうしよう。できるだけ、人が見ている場所で会わないようにしよう。君から僕に会いに来ない。でも、僕がこっそりと君に会いに行く。」


「でも、ばれてしまったら?」


「ばれないようにするだけさ。僕はこれからも誰とも婚約しないし、結婚もしない。父上が欲しいのは次の後継者だから、最後は根を上げて、誰でもいいから結婚しろって言うはずさ。」


「そんなに上手くいくかしら・・・。」


「ジェシー、これから先、長い間待たせることになるかもしれないけど、僕を信じて。愛しているよ。」




それ以降、二人が表立って会うことはなかったが、フレデリックは服装を変えたりカツラを被ったりして、ばれないようにこっそりとジェシカに会いに行った。


それと同時に領主として必要な経済学、地理学、歴史などを学び、いつかジェシカと結婚した後に、領地をさらに発展させるべく、熱心に勉学に励んだ。その様子を見て、バルケル伯爵も満足していた。




フレデリックが十七歳になると社交界にも顔を出すようになり、徐々に領主代理として、他の地域の領主が催すパーティーに参加することが増えた。


輝く銀髪に知性を醸し出す紺碧の瞳と端正な顔立ちに、心惹かれる貴族令嬢は多くいたが、フレデリックは誰もパートナーに選ぶことはなく、いつも一人で参加していた。


親を通して縁談を持ち込む令嬢もいたが、まだ結婚する気はないし、婚約者を決める気持ちもないと、それもすべて断っていた。


ところが、十九歳になってすぐのこと、バルケル伯爵が政略結婚にふさわしいと思える縁談が持ち上がった。


いままで、婚約を打診してきた令嬢たちは、良くてうだつの上がらない伯爵、たいていは子爵や男爵令嬢だったので、バルケル伯爵の眼鏡にかなう相手ではなかったのだが、今回は違った。王都に住む由緒正しいガルシア侯爵家の次女キャサリエンヌとの縁談であった。


キャサリエンヌは十八歳で、年齢的にも釣り合う。


「フレデリック、お前にもチャンスが回ってきた。この令嬢と結婚できれば、政界にも手が届くようになるかもしれない。お前の努力が実ったのだ。」

意気揚々とバルケル伯爵はフレデリックに告げた。


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