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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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17話 兄の思い出

六つ離れた兄は、なんでもできる頼もしい兄だった。弟の面倒もよく見てくれるし、幼い弟に合わせて遊んでくれることもよくある優しい兄だった。


だが、リウの記憶の中には、兄と一緒に遊んでいる一人の女の子の姿があった。フレデリックと同い年のモルフィー男爵家の長女ジェシカである。リウが物心ついた頃から、三人でよく遊んでいたのだ。


ジェシカは少し癖のある金髪で緑の瞳が可愛らしい女の子だった。兄のフレデリックは銀髪で、二人が並んでいると金と銀がきれいだなと思ったものだ。


モルフィー男爵は機械の修理工場を営んでおり、バルケル伯爵の事業関連の機械修理のほとんどを請け負っている。それに加えて、近所に住んでいることもあり、頻繁にバルケル伯爵家に出入りしていた。


フレデリックとジェシカは幼馴染でとても仲が良く、その二人の間に、後から生まれたリウが追いかけて無理やり中に入り込んだという感じである。


だが、ジェシカは幼いリウをけっして邪険にすることはなく、いつもリウに合わせて遊んでくれた。そんなジェシカに、フレデリックが頬を膨らませて時々不満を漏らしていたことを覚えている。


リウが五歳のころ、三人はよくかくれんぼをして遊んだ。


たまたま鬼がフレデリックで、ジェシカとリウが一緒に客室のソファの後ろに隠れているときのこと。見つからないように小さくなって座っているリウの頭を、隣に座っているジェシカが撫でた。


「えらいえらい。ちゃんと隠れることができるのね。これならフレディーに見つからないわ。」

ふふっと笑うジェシカがまるで姉のように思えたリウは、思わず正直に自分の気持ちを口にする。


「ジェシカ、僕、ジェシカのこと、だーい好き!」


「まあ、嬉しいわ。私もリウのこと、大好きよ。」

ジェシカは、リウのほっぺにチュッとキスをした。


驚くリウにジェシカは言った。


「ふふっ、これは愛情表現よ。」


「じゃあ、僕も・・・」

そう言ってリウもジェシカのほっぺにキスをした。


「まあ、ありがとう。でも、ミハイルは、ほっぺだけよ。」

そう言ってジェシカは優しく笑った。


幼い頃、愛情表現のほっぺにキスを教えてくれたのはジェシカだった。


リウはずっと三人で仲良く遊んでいたいと思っていたのだが、いつの頃からか、フレデリックとジェシカの姿が見えなくなることが増えた。一緒に遊んでいても、二人はどこかへ行ってしまうのだ。そのたびに、リウは二人を追いかけて、一緒に遊んで欲しいとせがんだ。


リウが八歳になった頃、フレデリックとジェシカが見えなくなった。


「これは鬼ごっこで、僕が鬼なんだ。よし、二人を見つけてやるぞ。」

そう意気込んでリウは二人を探した。


屋敷の中を探しても見つからず、次にリウは裏庭を探した。まだ子どものリウには、裏庭がとても広く感じられて、探すのも一苦労だった。


しばらく探していると、大木の幹に隠れているジェシカを見つけた。ジェシカは隠れているつもりだろうけれど、木の幹からはみ出ているドレスのスカートが、ジェシカの存在を教えてくれる。


そっと近づいて驚かしてやろう。

リウは音を立てずにそうっと木に近づいた。


手を伸ばせば届く距離まで近づいたけれど、リウは、驚かすことも、声をかけることもできなかった。


そこにはジェシカだけでなくフレデリックもいたのだが、ジェシカは木を背にして、フレデリックに抱きしめられていた。抱きしめられているだけではなく、二人は目を瞑り唇を重ねている。


リウは驚いて二人を見ていたが、そのキスは一向に終わる気配がなく、見てはいけないものを見た気がして、結局すごすごと二人から遠ざかった。


それ以降、リウは、二人を追いかけることを止めた。二人の姿が見えなくなるってことは、きっとまた、どこかで、ああいうことをしているのだろうと思ったからである。


リウという鬼がいなくなったからか、フレデリックとジェシカの逢瀬は頻繁に行われるようになり、父親であるバルケル伯爵の知るところとなってしまった。


「モルフィーの娘に、うつつを抜かすなど、どうかしている。今すぐ別れろ!」

大声で怒鳴る父親の声が廊下にいたリウにまで聞こえてきた。


ジェシカの父モルフィー男爵は、機械の修理工場を営んでいるが、二年前に従業員の火の不始末が原因で工場が全焼してしまった。そのため、バルケル伯爵に多額の借金をして工場を再建したのだが、仕事ができない間に顧客をライバル会社に奪われ、事業は実質火の車であり、今では貧乏男爵家と呼ばれるほどに落ちぶれている。


なんとかバルケル伯爵の事業から仕事を得ているが、借金の全額返済にはほど遠い状況である。


「どうせ、娘にお前をたぶらかせて、借金を帳消しにでもするつもりだろう。」


「ジェシカはそんな娘ではありません。気立ての良い、誰にでも優しい娘です。」


「はっ、そんなことでは先が思いやられる。お前は、バルケル伯爵家の跡取りなのだ。もっとふさわしい令嬢と付き合わねばならない。」


「私は、ジェシカ以外の女性など考えられません。跡取りだから、ジェシカと別れなければならないのだったら、私は跡取りなどにはなりたくありません。後継者をミハイルにしてください。そして、この伯爵家にふさわしい令嬢を婚約者にすればいい。」


「バカ者っ、何を言うか、頭を冷やせ!」


大声で怒鳴りあう父子喧嘩が廊下にまで響き渡り、リウの名前まで出てきたのには、当の本人も驚いて冷汗が出た。


「僕が兄上を差し置いて、跡取りだって?」


リウにとって、フレデリックは何でもできる特別な存在で、将来伯爵家を継ぐのは兄以外に考えられないし、自分が務まるとも思っていなかった。


母親はこの件に関しては黙しているだけで、兄の味方になることはなかった。


結局この父子喧嘩は平行線をたどり、一つ変化があったことは、リウに婚約者ができたことだった。


「ミハイル、お前には変な虫がつく前に、ふさわしい婚約者を決めておくことにする。」

そう言って紹介されたのが同い年のトレイソン伯爵家の令嬢アルメリアだった。


隣接する領地を治めている伯爵家の令嬢で、親は伯爵どうしの親交があり、婚約の話はとんとん拍子で進められた。


茶色い巻き毛に大きな茶色い瞳で、色白の顔にピンクの唇が可愛い女の子。

何度か屋敷に来たことはあるらしいのだが、初めて面と向かって話をしたのは、婚約話が持ち上がってからのことだった。


その際に着ていたピンクのドレスがよく似合っていて、リウにとっては、婚約などまだまだ現実味を感じていなかったのだが、この子となら、将来結婚してもいいかな?と思った。


二人の顔合わせは滞りなく終わり、リウとアルメリアの婚約はわずか九歳で結ばれた。ところが、婚約の二ヶ月後に、リウは魔物の呪いにかかって、魔物に森に捨てられてしまったのだ。




リウが覚えているのはここまでで、この屋敷を去ってから、何が起こったのかはわからない。


兄上もジェシカも今は二十四歳だ。

男性はともかく、女性はとうに結婚している年齢である。

兄上の恋人、ジェシカはどうなったのだ? 


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