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ミウとリウと曼殊沙華  作者: 矢間カオル


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15話 薬を買いに

二人が結婚の約束をしてから、三年が過ぎた。


リウは十八歳になり、身長がぐっと伸び、毎日の力仕事のお陰で見るからに逞しい青年になった。


ミウも少し大人に近づき、胸のあたりがふっくらとしてきたが、人間に比べて成長が遅いのか、一見すると少女のままである。


この三年の間にリウは力がぐんと強くなり、斧で太い木を短時間で切れるようになった。その木を使って、燻製小屋を大きくし、より多くの燻製肉を作って売ることができるようになったので、金銭的にもかなり余裕が出てきた。


九歳のときに溺れかけた川は、今では余裕で対岸まで泳いで行くことができる。おかげで魚を捕る仕掛けも思う場所に自由に設置できるようになった。


「ミウ、今日は大漁だぞ。干物にして売ろう。」


「リウ、良かったね。鶏の卵もたくさんとれたよ。」

卵が7個入った籠を見せてミウもにっこりと笑う。


三年前には飼っていなかった鶏を、柵を作ってその中に、現在15羽放し飼いにして飼っている。毎日卵が産み落とされ、それを拾うのはミウの仕事だ。美味しい鶏肉を食べるために、いくつか拾わずに残しておくのも忘れていない。


「今日も僕たちは幸せだな。」

リウはミウの肩を抱き寄せ、チュッと唇にキスをする。


「ふふ、本当にね。」

ミウもお返しに、リウのほっぺにキスをした。

ミウの動きに合わせて、胸元の青いガラス玉がキラキラと光る。

五年前に買ってもらったネックレスは、今でも大切な宝物だ。

毎日の収穫とささやかな幸せが、二人にはとても嬉しい。




最近リウは物置部屋が手狭になってきたので、別棟の倉庫を作っている。


金銭的に余裕が出てくると町での買い物が増え、保管しなければならない物も増えてきた。このままでは、物置部屋に入りきらなくなることは明らかで、その前に作ってしまおうと考えてのことである。


ミウが目玉焼きを作って朝食の準備をしている最中、リウは倉庫作りの続きを始めた。朝食の準備ができたら、ミウが呼びに来てくれる。リウにとって、「朝食できたよ。」と可愛い声で呼びに来てくれることが楽しみの一つでもあった。


ところが、今朝はミウがなかなか呼びに来ない。


あれ?おかしいな・・・ と思っていると、家の中からバタンと何かが倒れる音がした。驚いて家の中に入ったら、ミウが台所で倒れている。


「ミ、ミウ、ど、どうしたの?」

倒れているミウを抱きかかえてリウが声をかけた。

抱きかかえた身体が熱い。顔を見ると火照って青くなっている。


「リウ、ごめんなさい。朝からなんだか力が入らなくて・・・、急に足がふらついて・・・。」


テーブルの上には、目玉焼きと小麦粉を溶いて焼いたパンと、切ったリンゴが皿に盛られていてる。テーブルの上に半分に切ったオレンジがそのままの状態で置かれているところから、どうやらオレンジジュースを絞ろうとしたところで倒れてしまったようである。


「体が辛いときは、無理しなくていいんだよ。早くベッドで横になろう。」

リウがさっとミウを抱き上げて、ベッドに運ぶ。身長が伸び、力が強くなったリウには、ミウは羽根のように軽く感じる。


「何か食べれるか?」


「ううん・・・、今は食べたくない。」


額に手を当てると、かなり熱が高い。このような状態になったのは、四年前に町に行ったとき以来である。あのときは、薬屋で買った黄色い飲み薬を飲んだら熱が下がり、翌日には動けるようになった。


「ミウ、僕、町に行ってあの飲み薬を買ってくるよ。食事はテーブルの上に置いたままにしておくから、食べたくなったら食べるんだよ。水もポットに入れておくからね。」


リウは急いで朝食を平らげると、馬に乗って町まで駆けた。


早く薬を買ってミウに飲ませたい。

その思いが先立ち、町に入っても、馬に乗ったまま薬屋に向かった。


いつもなら馬を馬宿に預けてフードを深く被り、顔を見られないようにして歩いて行くのに、この日は、馬宿に馬を預ける時間ももったいないと思った。


馬で駆けている間にフードが頭から外れているのに、うっかり被り直すこともせず、そのまま薬屋に向かった。


薬屋に着くと、馬を繋いで急いで中に入り、四年前に買った黄色の飲み薬フェブリローゼを三本注文する。


「少しお待ちください。」

店主が薬を用意してくれる時間も長く感じ、早くしてほしいと気持ちだけが焦る。


待っている間に、リウはフードを被っていなかったことに気付き、慌てて深く被り直した。


やっと店主から薬を買うことができ、リウは店を出たのだが、突然、待っていたかのように若い娘に声をかけられた。


「あ、あなた・・・、ミハイル、ミハイル様じゃなくて?」


「えっ? 僕はそんな名前じゃ・・・」

リウは、困惑し、否定しようとしたが・・・


「やっぱり、ミハイル様よ。きれいな金髪に青い瞳、お母様によく似た面立ち、ミハイル様、生きていたのね。良かった、本当に良かったわ。」

娘はミハイルの手を両手で握り、茶色の瞳からぼろぼろと涙を流した。


「ちょっと待ってください。僕はミハイルでは・・・」

ミハイルではないといいかけたが、目の前で涙を流す若い茶髪の女性には、心のどこかに見覚えがあった。


それにミハイルという名前を否定しようにも、否定することを拒む何かが湧き上がってくる。


「ミハイル? 僕の名前はミハイル? ああ、そうだ、あなたの名前は・・・」

娘の名前を思い出しかけた瞬間、頭が割れるように痛くなった。痛くて痛くて立っていることができず、頭を抱えてその場に倒れこむように蹲る。


「ううっ、頭が割れるように痛い・・・」


「ミハイル様、大丈夫ですか? ああ、たいへんだわ。ミハイル様、しっかりして! 私の名前はアルメリアです。あなたの婚約者だったアルメリアですわ。」


「アルメ・・・」

リウは、アルメリアの名前を最後まで口にする前に、意識を失い倒れた。


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