12話 15歳のリウ
翌朝、ミウが目覚めると、ベッドの横で椅子に座って眠っているリウの姿があった。
血を分けた後の疲労感は残っていたが、初めてリウに血を分けたときとは、ずいぶん違っている。今のほうが前回よりも楽だ。
「リウ・・・」
ミウはそっとリウの顔に手を伸ばした。するとリウが目をぱちりと開けた。
「リウ、おはよう。」
「ああ、ミウ、おはよう・・・、良かった。いつものミウだ。もう、苦しくない?」
「うん、大丈夫。もしかして、リウはミウに何か食べさせてくれたの?」
「えっ?」
昨夜のことを思い出し、リウの顔がカッと赤くなる。
「う・・・、うん。砂糖水を飲ませたよ。」
ミウは赤くなるリウを見て、少し不思議そうな顔をする。
「ありがとう。リウのおかげで元気になれたよ。リウの身体はどうなの? 血は止まったけど、まだ痛い?」
「ああ、僕なら大丈夫だ。まだちょっと痛いけど、ミウの血のお陰でケガは治ったから・・・。」
「そう。良かった。リウが死ななくて・・・。本当に良かった・・・。」
ミウが嬉しそうに微笑むと、リウもつられて微笑んだ。
「ふふっ」
二人はにっこりとお互いの顔を見ながら微笑みあった。
三日後にはミウの体調が元に戻り、二人の日常も元に戻った。朝食にはリンゴとミウが焼いたパンが並ぶ。飲み物はリウが絞り器で絞った絞りたてのオレンジジュース。二人はテーブルで向かい合って朝食をとる。
「ねえ、ミウ。僕がここに来た時は魔物の呪いの病気にかかってたんだけど、もしかしたら、そのときも、ミウの血を飲ませてくれたのかな?」
「・・・うん・・・そう・・・。黙っててごめんなさい。」
「えっ?なんで謝るの? 僕を救ってくれたのに・・・。」
「あの時は、人間のふりをしてたから、本当のこと言えなかった。けど、リウは本当の自分を受け入れてくれたのに、それでも黙ってた。」
「いや、僕が言いたかったのは、あの時も、今回みたいに、ミウの命が危なかったのかなって思って・・・。」
「あのときは、食べながらできたから・・・。」
「そうか・・・、今回は家まで遠かったし、ずっと僕に血を飲ませ続けて動けなかったから・・・。」
「父さんが言ってた。ミウの血は、人間のケガや病気を治すことができるって。死にかけている人間にたくさんの血を飲ませたら、命の交換もできるって・・・。」
「なっ、・・・それって、死にかけている人間が生きて、ミウが死んでしまうってこと?」
「たぶん・・・」
はあ・・とリウは大きくため息をついた。おそらく、ミウの父親は、まだ幼いミウに失血死の言葉が難しかったから、そんな言い方をしたのだろう。
「ミウは、僕を生かして、自分は死んでもいいって思ってたの?」
「・・・」
ミウは言葉に出さずに、小さく頷いた。
「はあ、まったく・・・。僕の命を救ってくれたことには感謝するけど、僕はミウに死んでほしくない。もしもミウが僕のために死んじゃったら、僕は一生後悔する。だから、絶対に僕のために命を粗末にしたらだめだよ。約束だよ。」
リウがミウの目の前に小指を差し出した。
「これは?」
「約束するときは、小指を絡ませるんだ。ミウも小指を出して。」
ミウがおずおずと小指を差し出すと、リウは自分の小指を絡ませた。
「約束だよ。僕のために死なないって・・・」
「うん。約束・・・する。」
ミウとリウは、絡ませた小指を長い間じっと見ていた。
僕は15歳になった。魔物の森に捨てられてもう6年たったんだ。
今でも名前も家族も思い出せないけど、不思議なことに自分の年齢は覚えていたし、町のことや国のこととか、常識的なことも覚えている。
だけど、自分の名前を思い出そうと一生懸命に考えると、ズキズキとまるで頭が締め付けられるように痛くなるから、それについては考えることを止めた。きっと思い出さない方が良いってことなんだろう。
昨年イノシシの牙に脇腹を引き裂かれたときは、死ぬかと思ったけど、ミウのお陰で一命をとりとめた。本当にミウには感謝だ。
原因は罠の老朽化だと分かったので、あれから新しいのを買って、使う前後には必ず点検することにしている。もう、二度とあんな恐ろしい思いはしたくないからね。
この森での生活はすごく気に入っている。気候は温暖だし、動けば必ず食い物は手に入り、ひもじい思いをすることはない。
それに何よりミウがいる。いつも僕のそばで、にこにこと笑っていて何をするにも一緒だ。
初めのころは何をするにもミウに負けてたけど、今では僕の方が力が強いし、上手くできるようになった。そんな僕をミウはほめてくれるんだ。なんでもできるようになったねって。にっこり笑いながら・・・。
ミウが笑ってくれたら、僕はとても幸せな気持ちになる。だから、もっと笑ってほしくて僕はがんばっちゃうんだ。きっとこう思える人のことを人生のパートナーって言うんだろうな。
ミウは僕の人生のパートナーだ。でも、困っていることもあるんだ。ミウが可愛すぎて、昔のように触れない。
イノシシのケガで僕を救ってくれたミウに、砂糖水を口移しで飲ませたことは、ミウには言ってない。あの時は仕方がなかったとは言え、思い出すだけでカッと顔が熱くなる。ミウの身体をぎゅっと抱きしめたのも、あの時が最後。
本当はもっともっと触れたい。ぎゅって抱き締めたい。キスもしたい。でも、そんなことをしたら歯止めが利かなくなりそうで、怖い。
ミウが僕と同じ気持ちかどうかは、わからない。ずっと家族のように暮らしてきて、兄妹みたいに思っているかもしれない。僕の気持ちのままに動いたら、ミウを怖がらせてしまうかもしれない。だから僕は我慢する。
それからもう一つ、困っていることって言うか、気になることがあるんだ。
最近、なんとなくだけど、ミウが時々寂しそうな顔をする。その理由を知りたいんだけど、なんて聞いたら良いのかわからなくて、まだ聞いてないんだ。
でも黙ってても、いつまでたっても理由なんてわからない。やっぱりここは、自分に正直になって聞いてみようか・・・




