05 村人の感想(その1)
「……村に、帰りたくない」
どうも、村人Aことアリシアです。
事の始まりは貴族のお嬢様が追放されたといきなり村にやってきたことです。
突然の立ち退き、拉致でどうしようかと困っていましたが、連れてこられた屋敷はとても広くて、村人全員が住めるほどでした。
一人一部屋用意すると言われたときは驚きすぎたけど、2,3日もすれば慣れました。
私は村から出たことはない17歳。あのお嬢様と同じくらいかと思うんだけど、胸囲からも格差を見せつけられた感じがしましたよ。
なんで追放されたのか話してくれていたけど、ほとんど内容がわからなかったわ。
この村には教会がないので、教会の教えといわれてもピンとこなかった。
ただ、自由に読書をしたり本を作れるというのは羨ましいと思ったの。村には昔の人が残してくれた書物は少しあったけど、ずいぶん風化してる。扱いが悪くて読むことが難しくなってしまった本もあったわ。
それに、この村は明日を迎えることを考えるだけで精一杯で、ほとんど娯楽なんてものはなかった。
「みなさまにはとにかく健康的な体になっていただきます。
そして、同時にここで文字や計算を覚えていただきます。僭越ながらこのサニーが皆様をきっちり教育いたします」
サニーと名乗る女性の申し出を聞いたとき、うれしさのあまり私は泣きそうだったの。
ずっと文字を勉強したかったから。
この村で使う文字は覚えているけど、それだけでは読めない本もあった。
文字を覚えればすべての本を読めるようになると思うと、教育とやらも楽しみで仕方なかったわ。
でも、そうじゃない人たちも当然いるわけで、私の兄・ジョンはサニーさんにかみついていたわね。
あのインサニアさんにも掴みかかったり、血の気が多いのが欠点だと思うの。
だけど、サニーさんは強かった。
あっという間に兄を投げ飛ばしたの。その結果、兄は弟子入りするって大騒ぎ。まぁ、村で一番強いと思われていた兄があっさり負けたことで誰もサニーさんに逆らおうとは思わなくなったわ。
それにこの家にいると、しっかり三食食事ができる。
10時と3時にお茶の時間まであるのよね。
午前中は勉強、午後は運動、夕食後の寝るまでは自由時間。
食事や洗濯などの家事はサニーさんが一人ですべて処理しているのよね。
手伝わせてもらうこともあったけど、見たことない道具などを使っているからなのかあっという間に終わってしまう。
今まで村で苦労していたのは何だったのだろうと思ってしまうほど。
食事も村では食べたことない料理もたくさんあるし、大きな湯舟でのんびりお風呂にも入れる。
ここにきて私初めてお風呂を知ったわ。
村にいたときは布で体を拭くだけだったもの。
この屋敷では布より柔らかなタオルというものを使わせてもらってるけど、もう麻の布には戻れないわね。
着るものも肌触りがいい生地で作ってあるのか、チクチクしない。
村での服は自分で縫っていたし、上手にできていたと思っていたけど……この屋敷で渡された服を着たらもうね……自分で縫った服には戻れないわ。
でも……この布だったら、私でも素敵な服が縫えるかしら?
衣食住、整った屋敷で過ごすこと数か月。
いずれは村に戻らなければいけないけど―――帰りたくないなぁ……。
ここで一生過ごしちゃダメなのかしら。




