17 レムスは胃が痛い
「きっとね、インサニアは僕の命を取りに来るよ」
病に伏せたヴェラックス様はベッドの上でそう呟いた。
国から追放された魔女。
彼女の復讐が始まろうとしていると彼は言った。第一王子への毒も、自分の病も、弟が行方不明なのもすべて大罪の魔女のせいだという。
そうではないとも言い切れない。
処刑という話も出ていたくらいだから、インサニア様が王家を恨むのもおかしくはないだろうと納得できた。
ただ―――それは普通の人の思考だと思う。
「インサニアは僕を殺して、ディアナを連れて行こうとしているんだ。
婚約者の僕が邪魔なんだろうね」
周りからは政略結婚だと言われているが、ヴェラックス様は聖女であるディアナ様に恋焦がれている。
表立ってその姿を見せないので、たぶんその気持ちはディアナ様には三分の一も伝わっていないと思う。むしろ嫌われているんじゃないだろうかと感じることもある。
とはいえ、インサニア様がディアナ様を連れて行こうとしているというのはあながち間違いではない気がする。
あの二人はとても仲が良かったのは、『同士』の中では有名で、名と見た目を変えてあるが、どう読んでもあの二人だろうという百合な作品を書いている同士もいた。懐かしいなぁ。
インサニア様が捕まって、同士の活動はほぼ停止状態だった。
見つかって処刑にでもなったら困るからだ。
「はぁ……」
ディアナ様を教会から保護しなければいけないというのに、ディアナ様はインサニア様と接触し、まさかの追放先の村まで転移してしまった。
そして、私も巻き込まれていた。
「どうしました、レムス様」
「いえ……やはり規格外ですね」
転移魔法はあるが、発動には魔力がかなり必要でそれで運べる人数も数名が精いっぱいだというのに、3人異動させる魔法をインサニア様一人で行われた。
「サニー、ディアナをお風呂に。レムス様と話がありますので」
メイドはディアナ様を連れて部屋を出ていった。
「ディアナは先ほど言った通り、第二王子を助ける気持ちでいますわ。安心してくださいませ。
その報酬として、ディアナには自由をお与えくださいませ」
「それは……私が一概にお答えすることはできません」
「ですわよねー。まぁ立ち話もなんですわ、はい。スリッパに履き替えてこちらへどうぞ」
彼女に従いついていくと、毛足の長い絨毯の敷かれた書斎だった。
かなり広い屋敷に住んでいるようで、ここに来るまでにいくつもの扉を見かけた。
「わたくしがいない王都は平和になると思ったんですけど、そうではなさそうですわね」
慣れた手つきで紅茶を淹れてくれた。茶菓子も王都で見るものと同じようだが、味はこちらの方が良い。
「今の混沌は魔女が国を追い出された際に残した呪いと考える者たちもいます」
「そちらが勝手にわたくしを魔女扱いしているだけですわ。ぶっちゃけ、どうなろうと興味ありませんもの。親族は辺境で安全ですし」
本当にどうでもよさそうに答え、優雅にお茶を飲む。
姿だけ見ていれば、とても優雅なご令嬢なのに、口を開けば平民の付け焼刃のような敬語だったり、思想は過激だし、ギャップが悪い意味で大きい。
「本当に復讐しようという気はないですか?ルシアーノ様との婚約も破棄されて辛くはないのですか?」
お前は何を言っている?と言わんばかりにきょとんとした顔をしている。
「……えっと、インサニア様とルシアーノ様はそういう関係ではなかったのですか?」
「もしかして恋愛的意味で繋がりがあると?イヤイヤイヤ、ありえませんわね。しいて言えば悪友ですわよ。もしくはマブダチってやつですわね。
そもそもわたくし結婚願望ありませんのよ。そういう意味では貴族社会から追い出されてむしろ感謝していますわ」
それを聞いて私はルシアーノ様が可哀そうになってきました。
学園にいる間、あんな全力で愛情表現していたのに脈なしだったなんて。
「それで、わたくしが王国に対して復讐を企てているという考えは捨てていただけたかしら?」
「……まだ、なんとも。確かに復讐する必要はないですが、嫌がらせくらいはするんじゃないか…と」
「そんなことしている暇ありませんわよ。この村を発展させて、わたくしこの村にいずれ同士を呼んでイベントを開催したいと思っていますのよ!
同士の作った作品を誰の文句も言われず語り会えるイベントを開催しますの!
その際には遊びに来てくださるとうれしいですわ」
「でも、森を抜けてくるのが普通の人にはできませんよ?」
実際、そんなイベントが開催されるなら参加したい!
「実際に王都のそばからここまで直ぐ来れたでしょ?あれを利用いたしますわ」
「……転移陣を設置したことはどなたかに報告・許可は取りましたか?」
そっぽを向いて口笛を吹いている。ああ……私は今何も聞いていません。だから転移この流刑地と王都が即移動できるようになったなんて知りません!!




