15 友人がピンチですわ
「インサニア……助けて…っ」
久しぶりに友人に連絡を取ったら、いきなり死にそうなほど切羽詰まった声で助けを求められました、インサニアです。
ガラスハウスへ水を引く工事も終わり、くみ上げのビックバンブーもいい感じに稼働していることも確認済みですわ。
くみ上げのビックバンブーには、防腐、破損保護、水のくみ上げ、くみ上げる水量の調整機能、また瘴気を燃料として稼働する術式を組み込みましたわ。
この瘴気を活用できる方法は王国だけでなく、近隣諸国も欲している方法らしいですわ。
方法としては市販されている本に載ってはいるんですけども、それを実行できるだけの魔力が無いそうですわ。
瘴気を魔力の代わりにする、その初期投資となる魔力が多すぎて机上の空論だと本の中身を実際に試そうとしないのが悪いんですわ。
まぁ、効率化については賢者(仮)のメンバーの彼が得意だったので、あと10年以内には一般に普及するとは思いますのよ。
ガラスハウスでは手の空いている年配の方が各々好きな野菜や果物を育てることになり、小さな農園を各自が持っているような状態になっていますわ。
生育も通常より早く設定していますので、いろいろ育てられて楽しいみたいですわね。
一仕事終えたわたくしは、久しぶりに王国で聖女をしているディアナへ連絡を取ってみることに。
彼女の渡したコンパクト型の手鏡と、わたくしの部屋の化粧台についている三面鏡はつながっていて、テレビ電話のように通信ができますのよ。
まぁ、あの子に使い方を教えていないので、現状はわたくしから一方的に連絡を取る方法しかありませんわ。
下手に彼女からこちらへ連絡したら、教会側から怒られてしまうのは彼女ですもの。
意気揚々とディアナの手鏡につなげると、彼女はちょうど鏡をのぞいていたのでばっちり目が合ってしまいましたわ。
それにしても、泣いていたようで目元が真っ赤に腫れていますわ。
「ディアナ、どうしましたの?愛らしいお顔が涙で濡れているじゃありませんの」
嗚咽を必死で抑えながら、久しぶりに聞いた彼女の言葉はわたくしへの救助要請。
「何がありましたの?」
「ぐす…っ、あのね……数日前に救国の聖女を名乗る少女が現れたの。
私よりも聖女としてふさわしいと言って、私は教会から追い出されたの」
ディアナは教会側の都合で教会に監禁生活を送っていたのに、今更いらないと追い出すとはどういう了見ですの?
「それはいいの。教会から離れられるのはうれしかったわ。でもね―――」
続く言葉にわたくしは言葉を失いましたわ。
「教会の事を深く知りすぎた私を殺すって」
ディアナは現在第一王子に毒を盛った容疑で追われているという。
どう考えてもディアナと第一王子が接触する機会が無い。国王は教会側を警戒しているため、聖女といえど婚約者である第二王子以外の王族との接触は許可していない。
幸い、第一王子は毒を口にしたが大したことはなかったそうだ。
うーん、万能解毒薬を差し上げておいたのが役に立ったみたいですわね。
面白半分で第三王子と賢者(仮)と実験していてできた産物ですわね。国王と王妃にも差し上げていますので、1回くらいの毒殺なら解毒できますわ。
教会は新しい聖女を据えるためにディアナをギフトを偽り教会に入り込んだ異端者、王国に牙をむく異国のものとして処分する方針だと分かった。
元婚約者である第二王子ヴェラックス様は現在病で伏せっており、救国の聖女による治癒で奇跡の復活。そして真実の愛に気づくというシナリオを教会は押し通す計画なのだと、ぜーんぶディアナに話したそうだ。
……いや、教会ってアホなの?アホですわね。
アホじゃなかったら大まぬけですわ。
なんか適当な計画でもなんだかんだうまくいってしまうから、雑な計画でも神の加護で教会関係者は守られると本気で思っているようですわね。
別に教会がどうなろうと関係ありませんが、ディアナが殺されるのは困りますわね。
「ディアナ、あなたはいまどの辺にいますの?」
「なんとか門を超えて王都を出たわ。近くの森に隠れているけど……見つかるのも時間の問題だと思うわ。
王家も教会も私を追っているの。ああ……もう、神の声も聞こえないわ」
「近くの森ね……ふふ、安心してディアナ。声は聞こえなくとも、あなたには神の加護がある。
ちゃんと守られているわ」
サニーにディアナの位置を特定してもらうと、その森はわたくしが自宅から王都へ移動するために設置した転移拠点のすぐそばだった。
なんだかんだと神の導きというものは存在している。声が聞こえずともディアナは祈りは続けていたのだろう。
「今すぐ迎えに行きますわ」
部屋の一角にある転移拠点を起動する。
「サニー、お風呂の用意とお茶の用意頼みましたわよ」
「畏まりました、お嬢様」
地面からまばゆい光があふれ、次の瞬間部屋から風景は森へと一変する。
「インサニア…なの?」
「ごきげんよう。ああ、きれいな銀の髪が泥だらけですわ。わたくしがきっちり洗ってあげますから、一緒に帰りましょう?」
わたくしの顔を見た途端、ディアナは抱き着いて泣き出してしまった。
追手がいるならすぐに逃げるべきだとはわかっていますが、安堵から泣き崩れる彼女を引きはがすこともできず、しばらく落ち着くまで泣かせてあげましたわ。
案の定、かなり近くにまで追手が来てしまいましたが……教会の人間ではありませんわね。
「あなた様は……」
木々の間から姿を見せたのは第二王子の側近の一人、えーっと……忘れましたわ!
真面目そうな眼鏡の青年はわたくしとディアナを見て、膝をついて礼をする。
「お久しぶりでございます。インサニア様」
ダメですわ、声を聴いても思い出せませんの。
眉を寄せていたことに気づいた彼は懐から一冊の本を取り出した。
【ふわけもパラダイス】
獣人族の中でもより獣に近い獣人たちの写真集。
「そ、その本は同士『ふわキュン』氏に贈ったもの……まさか」
「そのまさかでございます。そういえば、こうして実際に顔を合わせ言葉を交わしたのは初めてでございますね。
さすがにそちらの名で会話するわけにもいきませんので、本名のレムスとお呼びください」
世間は狭いですわね。まさかの第二王子側近が『ふわキュン』氏だったなんて、想像もしませんでしたわ。
ああ、かれの精密な筆遣いで描かれる獣のふわふわの毛皮は本物と見まごうほど。帰ったら久しぶりの彼のイラスト本じっくり読み返しましょう。
「ところで、レムス様はディアナを捕まえに来たのかしら?」
「いえ、我らは保護するためにはせ参じました。教会側が用意した新しい聖女のお披露目のためにヴェラックス様は呪いをかけられました。
毒であれば解毒できるのですが、呪いは高位の教会関係者でなければ不可能とのことでした。
なので教会より早くディアナ様を保護し、ヴェラックス様の呪いを解いていただきたいのです」
呪い……確かに厄介ですわね。おそらく新しい聖女が呪い、そしてその呪いを解除する流れなのでしょうね。
真実の愛とやらも魅了による呪いの可能性も高そうですわね。
「どうしますディアナ、呪いを解けばこの国で追われる事は無くなるかもしれませんわよ」
「王家も全力でディアナ様をお守りする所存」
暫く悩んだディアナは、第二王子にかけられた呪いを解除することを選びましたわ。
ただし、表向きはディアナは死んだことにして教会の追手を払う事。
王家もディアナを追いかけない事。
わたくしと同じ場所で暮らすことを許可する事。
死んだことにする以上、国籍がなくなるので新しい国籍を用意する必要があるのですが
そんなものはなくても平気なわたくしの暮らす村で生活したいというのですわ。わたくしは大歓迎ですけども。
「もう、教会や王家のいざこざに巻き込まれるのは嫌なの」
面倒ごとは嫌ですわよね。
ディアナが村で暮らすなら、新しいお家を用意しなくてはいけませんわね。
「それでは、一度身なりを整えてから第二王子を助けに行きましょう!」
何か言いたそうなレムスを無視して、わたくしは村へ戻るための転移拠点を起動しましたわ。ふふ、これからが楽しみですわー!




