11 王国の聖女の憂鬱
最近王国、特に王都では混乱が生じていた。
一つ、第三王子の失踪
一つ、教会内の騒動
一つ、聖女の病
一つ、一部市民からの暴動
この国では国王が納めているが、それに匹敵しそうな勢いで教会が権力を持っている。
第一王子は隣国の姫を迎え入れ、次期国王となることが決まっていたが、それを由としていない教会側はより国政に口を出せるよう、第二王子の婚約者に聖女を立てた。
第二王子は第二夫人の子供で、王位継承権は三番目だ。
第二継承権をもつ、第三王子の失踪は教会の手によるものではないかという話が立ち上がり教会に不信の目が向き始めていた。
「はぁ……」
聖女はカンパニーレから街を見下ろす。
町中に鐘の音が響くようにと城についでの高さを誇る。
聖女の名はディアナ。10歳の時に聖女としてのギフトを発動させて以来教会で保護という名目で監禁されている。
16歳になり学園に通うことは許可されたが、この学園に通う理由が第二王子との仲を周囲に見せつけるためだというのだからたまったものではない。
学園では身分関係なく過ごすことができると言われていたが、そんなのは口ばかりだ。
しかし、その中で本当に身分も立場も関係なくいろいろな人と楽しんでいる生徒がいた。
アピキテル家の問題児・次女のインサニア。
第三王子の婚約者候補といわれていたが、本人にはその気はなく王子も婚約者とは思っていなかったようだが、とても仲は良かったように思える。
恋人というよりはできの悪い弟の面倒を見る姉のようでもあった。
彼女と交流するきっかけは図書館だった。
異端者といわれていたインサニアがこの国の聖典を読んでいたことがあった。
それもとても熱心だった。
それに、信仰を伴うものが持つ特有のオーラを感じることができた。
見える人からすれば、これは神からの祝福だと呼んでいる物だった。
「あなたは、神を信じますか?」
驚いた顔をしたインサニアだったが、すぐに笑顔を作った。
「神はいます。それは理解していますが、信仰という意味では信じていません」
「信仰と何が違うのですか?」
インサニアは読んでいた聖典の一部を指さす。
『偉大なる神はただ一人でこの世界を作り上げた』
この国は一神教なので、当然の表記だ。
「わたくしは、神は一人だとは思いませんの。そういう意味でこの国の信仰とは合いませんのよ」
「神は一人ではない?」
ずっと信じていた現実を壊されるような感覚にめまいを覚える。
「王国は一神教ですが、お隣の帝国では複数の神々がいます。しかも神たちは親族関係、面白いでしょう?さらにすべてのものに神が宿るという考えを持つ島国も存在しますし、神ではなく精霊を信仰する森の民も存在しますわ。
神は神でもこの世界の外側にも神が存在するという考えもありますし、宗教は面白い学問ですわよ」
そのキラキラした顔は、神を信仰する信者たちと何ら変わらなかった。
彼女は神を否定しているのではない、この世界中の神を肯定している。
だから信者とも変わらない信仰の力を感じるのだろう。
「まぁ、何よりわたくし自身が神ですので」
ふふーんとどや顔をしている。
恐らくこういう不遜な態度が教会からは目を付けられるのだろうなと苦笑いを浮かべた。
「それより、わたくしと話していてよろしいですの?
教会に目をつけられても知りませんわよ」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。
でも大丈夫ですよ。私があなたに話しかけても、一生懸命布教しているとしか周りは思わないですから」
そう、教会が許可したのは
第二王子との仲を広めること
教会信者を増やすための布教活動
それ以外でかかわりを持つことは俗世の害悪に染まると言われていた。
「あらやだわ、この害悪の元凶に布教なんて難しいですわよ」
けらけらとインサニアは屈託なく笑っていた。
それから私は分厚い経典を手に彼女によく話しかけた。
そんなものはカモフラージュで、寮で休んでいるときも彼女の部屋に押し掛けた。
彼女とかわす何気ない会話、知らないほかの神の話や市政の流行り事、彼女が用意したお茶菓子や不思議な空間で過ごす時間は何物にも代えがたかった。
彼女が国外追放になることが決まった時、教会に掛け合おうとしたが彼女はそれを止めた。
その代わり、コンパクト型の手鏡を一つ私に残してくれた。
彼女がこの国からいなくなって2か月。
ただただ鏡を眺めるだけの日々。
教会はインサニアが去り際に聖女である私に呪いをかけていったと広めていたが、あながち間違いではないのかもしれない。
あの子がいなくなって、私の心は重い。
あの子を奪った教会が憎い。
ああ、最近は神の声もほとんど聞こえない。




