第7章 アップデート(6)
航留は渉が帰って来た時、成行の部屋に潜んでいた。もし、不測の事態が起こったら飛び出すつもりだ。だが、それはとりあえず何もせずに済んだ。
「今から渉とドライブに行く。なんだか渉の様子がおかしい。カマをかけるつもりなのか変なこと言うし。もしかしたら、僕が記憶を取り戻したこと、気が付いたのかもしれない」
「いいか、スマホを通話中にしておけ。畜生、トランクにでも忍び込めれば」
「無理だよ。渉の車のトランク、車内とつながってる」
くすりと笑う成行。どういうわけか大胆で肝が据わっている。
「大丈夫だよ。渉が僕を傷つけるわけないもの。本当に、今回のことはなにか、よほどのことがあったんだよ……だから、無駄でも自首してほしいんだ」
『成行! 行くぞ!』
玄関から渉の大声がした。
「じゃあ、行ってくるね」
「気を付けて、必ず守るからな」
途中のコンビニで缶コーヒーを買ったとき、遅れて変装した刑事たちが入ってきた。成行はさりげなく、『八王子の展望台に行くつもりです』と囁く。尾行車が撒かれたのを恐れてのことだが、先回りできたのは大きかった。
展望台で渉が話したことは、全てスマホを通じて刑事たちに筒抜けだった。階段を静かに上り、息を顰めて逮捕のタイミングを計っていたのだが、航留が先に飛び出した。
階段室の上に身を顰めていた航留は、咄嗟の判断で成行を抱えて逃げたのだ。まあ、結果オーライだったわけだけど。
「捜査のご協力ありがとうございました。凶器もあのナイフで間違いないようですし、例の腕時計にも、洗ってはありましたが何人かの血液反応が出ましたから」
渉が連行された警察署に、航留達も事情説明のため向かっていた。ようやく解放される頃、鮫島と真壁は礼を言いながらも鼻高々だった。自信と安堵に溢れご満悦。航留はあからさまに憮然とし、成行は寂しげな表情を浮かべた。
「成行、今日は俺の家に来ないか。多分、しばらくはあのアパートも家宅捜索されるし」
「ああ。うん、そうする。僕の荷物、まだ置いてあるかな」
「もちろん」
署から玄関に出ると、もう空は白々としている。初夏の朝は早い。
「ああ、終わったかあ? じゃあ帰るとするか」
越崎が車の中から顔をのぞかせる。仮眠を取っていたのか目を瞬かせた。
「おお、運転手、悪いが頼むわ」
航留が助手席に、成行が後部座席に座る。越崎はそれが当然のように何も言わなかった。ただ……。
「二人お揃いのところ悪いけどさ、私も『時游館』でひと眠りさせてもらえるかな。いい加減眠い」
「ああ? 仕方ないなあ。まあいいさ。客用の部屋なら空いてるから、そこでいくらでも眠ってけ」
航留は言いながら、後部座席に顔を向けた。成行は当然だが、疲労の色濃く魂が抜けたような表情だ。
時游館は本日、日曜日が定休日。ゆっくり休養を取り、今後のことを考えるに十分な時間があるだろう。




