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第7章 アップデート(5)


 時間を半日ほど戻す。

 実況見分で倒れた成行は、その後すぐ警察署に向かった。体を休めてからという、航留や医師の意見を退けたのは他ならぬ成行自身だ。

 突然頭のなかが破裂するほどの情報が流れ込み、一瞬にしてスパークした。


 アンダーパスで見たのは、ダークグレーのパーカーを来た男と血まみれの女性。逃げ出そうとした時、男の手首で光った腕時計。

 鞄で手を払い、夢中で走ったところで車にぶつかりそうになり転んだ。その映像が、まるでスローモーションで流れた。


『あそこに誰かいたんだ!』


 膝から崩れ落ちた成行を航留が支えた。事件を思い出したことが呼び水になったのか、止まっていた成行の脳内の『記憶』が全て繋がった。

 公園で初めて会ったあの朝から、自転車で転んだ1年後までの……成行は『零』であった日々を思い出した。


「殺人犯の手首で見えた腕時計ね。逃げてるときは、何かを思いついたわけではなかったんだ。恐怖が先に立って。でも、なんか違和感っていうか。その気持ち悪さだけが、多分残ってた」

「殺されるって時だ。恐ろしさが意識を席捲して、その違和感は潜在意識に潜ったんだろう」


 警察署の応接室で、事情聴取を受けた。医師と航留、越崎も同伴で行うことで航留達も了解したわけだ。


「ああ、越崎先生。多分、そんな感じです。で、そのままの状態で車にぶつかって全部吹っ飛んだ。それが時游館で先生の腕時計を見て、なぜかフラッシュバックした」


 成行は鮫島から防犯カメラの映像を見て息を飲んだ。ダークグレーのパーカーをすっぽり被って小走りに行く男の姿。自分が恐れていたことは間違っていなかったと知った。


「アンダーパスで見た男だと……思います」

「顔は見ていないとのことですが。この映像から思い当たる方、いますよね?」


 成行は深い息を吐いてから頷いた。


「はい」


 だが、アンダーパスでの記憶が戻らないまま見ていたら、似ているなとは思ってもそれを口にはしなかったろう。成行はうなだれ、両手で顔を覆った。


「実は、西園寺渉は我々にとっても容疑者の一人でした」


 鮫島たちが渉に目を付けたのは、やはり成行の失踪が原因だった。事件現場にいたかもしれない成行に近い人物だ。成行は2件目に限り、渉の共犯者だったのかもしれないと疑った。

 防犯カメラに映った身体的特徴にもぴったり。そして決定的なのは、渉には2件とも確かなアリバイがなかった。


「もちろん、それだけで容疑者扱いはできません。我々はずっと西園寺渉をマークしていました。でも特に有力ってわけじゃなかったんです。他にもそういう対象者は何人かおりましたから」


 結局それから1年間、新たな事件は起こらなかった。そこに突然舞い戻って来たのが行方不明だった『佐納成行』だ。なんと、渉のところに直接やってきた。

 捜査陣が色めき立つのも無理はない。成行は知らぬまま、刑事たちに監視されていた。


「捜索願が取り下げられて、驚いたことに『記憶喪失』だったって言うじゃないですか。病院にも行きましたが、にわかには信じられなかったですよ」


 苦笑する鮫島。結局そのまま監視を続けていたのだが、第3の事件が起こってしまった。犯人は渉だったわけだから、彼らはまんまと出し抜かれたってことだ。


「正直、見込違いかと思いましたよ。自分らが見張ってんのにやられちまって。だけど、とにかく佐納さんに話を聞きに行ったんです」


 そのときには、少なくとも成行は容疑者ではないとわかっていた。だから、何としてでも思い出してほしかった。記憶喪失が嘘ではないのであれば。


「僕にもう一度、渉と話をさせてください。それに、確かめたいことがあるんです」


 防犯カメラに映った映像だけでは証拠として不十分だ。成行自身もこの映像だけでは絶対と言い切れない。他人の空似だってあるし、本心ではそうであって欲しいと思っている。


「馬鹿を言うな。危険極まりないだろうっ!」


 当然航留は猛反対。今からあのアパートに戻ることはさせられないと息まいた。


「じゃあ、僕と一緒に来て。部屋のなかで隠れてて」


 それから夕闇が訪れるまで、警察署で作戦を練った。成行は洋服に小さな発信機を取り付け、航留とともにアパートに戻る。渉が帰るまでに部屋を調べ、目当てのもの、成行が贈った腕時計を見つけた。

 それは、あのアンダーパスで出くわした殺人鬼が嵌めていた腕時計に他ならなかった。




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