第7章 アップデート(3)
どんどん渉が壊れていく。ふざけたところはあったけれど、いつも優しくて気にかけてくれていた。大胆でありながら、細やかな気遣いもあった。
頭が良くてかっこよくて、成行のあこがれであり、思いを寄せる人だった。けれど。
「話を混ぜっ返すな、渉。あの日、あのアンダーパスで女の人を殺したね。なぜ? 他の事件も、つい最近のことも、全部渉がやったことなのか?」
意を決したように、成行は渉に向かって叫んだ。震えるのを薙ぎ払い、わざと大声を出す。渉は目を丸々と開け、じっと成行を凝視している。
「やっぱり……気づいていたのか。ははっ。やっぱり地元でやっちゃあだめだったなあ。あんときは、どうしても抑えられなかった。おまえ、アンダーパスは苦手だったじゃないか。なんであの日に限ってあの道を通ったんだよっ!」
喜怒哀楽が一度に吹き出るような渉。その激しさに成行はたじろいだ。冷静でめったに感情的にならない。高校生のころから大人びていた渉とはまるで別人だ。
「渉、なんでだよ。おまえがそんなことするはずない。おまえは誰にでも優しい――」
「黙れ、黙れ、黙れ! 俺のこと、勝手に決めるなっ! なんにもわかっちゃねえくせに!」
「そ、そうかもしれないけど!」
だから渉ともう一度話がしたかった。成行はそう言おうとしたが、渉はそれを許さずしゃべり続ける。
「あれからすぐおまえは居なくなった。俺がどんな気持ちだったかわかるか? もしかして俺と気付いたのか。それで逃げたのか。あんとき、おまえを追っかけておけば良かったのかって」
渉はあの日、アンダーパスから逃げ出した成行を追うことはしなかった。顔を見られていない自信があったからだ。殺人現場に長居は無用だ。成行とは逆方向に向かって立ち去った。
「僕を探してくれたのは、そのため? 自分を疑われてるかもと思ったから?」
「ああ、そうだよ。もし、顔を見られたなら……そのままにしておけないだろ? まさか記憶喪失なんて、思いもしなかったからなっ!」
渉は大声で喚きながら再び成行との間を詰め、パーカーのファスナーを下ろした。
「ひっ!」
渉の手に、大きなナイフがあった。弱弱しいライトに照らされ刃がきらりと光る。
「あのな、いいことを教えてやるよ。俺はさ、おまえのことがずっと好きだったんだよ」
「えっ」
腰が抜けそうなのを、成行は手すりにしがみつきながら後ずさりする。けれどもう2、3歩も下がったら、階段室の壁に突き当たってしまう。
「おまえがずっと隠してたのと同じように、俺も隠してたのさ。自分の気持ちと……迸る激情」
完全に目が据わっている。目の前にいるのは成行が知っている渉じゃない。それとも、これが本当の渉なのか。
「あれは高二だったな。おまえに初めて彼女が出来たと聞いた時だ。俺は体が引き裂かれるような苦しみを味わった。おまえは俺が好きだったはずだ。一体なにがどうなったんだ? って、どうにかしないと死にそうなくらい苦しかったんだ」
渉はナイフを持ったまま、身振り手振り大袈裟に動かす。なにか邪悪なものが憑りついたかのようだ。
「苦しくて息もできなくて……俺はどうにかしてそれから逃れようとしたんだ。それで、どうしたと思う?」
渉の口角の片側がぴくりと上がり、冷え切った笑みを成行に向けた。




