第7章 アップデート(2)
深夜の高速道路は文字通り高速で走り抜けられる。下り坂では滑るように進んでいき、渉のHV車は快調に飛ばしていた。インターを知らす緑色の看板に沿い、ETCの料金所を抜ける。
もう10分も走れば目当ての展望台がある公園に着く。市民のための無料公園なので出入りは自由だ。BGMだけが流れる車は、そのまま公園の駐車場に到着した。
「どうしてそう思うんだ? 僕が、思い出したって」
駐車場に着き、無言のまま渉は車を降りた。成行もそのあとに続く。ロックされる音を聞いてから、ようやく口を開いた。
「そうだな。口調かな」
「口調?」
10台ほどが停められる駐車場には、ライトが2基設置されていた。元々夜に来るような場所でもないので、周りには人の気配のするものはない。店も土日のみキッチンカーが出るくらいだ。
「おまえ、ずっと自分の性癖隠してただろう。そう、高校生のころからずっとだ」
成行の動悸が一瞬飛び跳ねた。相槌すら打てない成行に、渉が面白そうに続けた。
「俺はずっと気づいてたよ。おまえの気持ちなんかさ。女と付き合ってたって、それは本気じゃないって知ってた」
「ああ、そうか。そうだったんだ」
「だからか知らないが、おまえはいつもおどおどしてた。自分の隠し事がばれるんじゃないかって。覚えてるか? 俺がどうしておまえに声をかけたかって理由」
暗い上り坂を歩く。その先には公園を見渡せる展望台がある。夏になれば星を見る会も催されるが、それ以外は夜の来訪者はほとんどいない。ましてや深夜の今は皆無だった。所々にある電灯の明かりを頼りに、どうにかたどり着いた。
「覚えてるよ」
『びしょ濡れの子猫みたい』
渉はそう言った。俺が守ってやらないと、と。
「そうそう。だからさ、俺はおまえと一緒にいたんだ。けど、どうだ? さっきのおまえは全く違った。自分の生き方に自信を持てたように、生き生きとしてた」
「そんな、そんなことは」
言われてから気づいたわけでもない。成行自身もその変化を感じていた。自分を受け入れられた瞬間。過去を忘れ、航留に恋した『零』こそ、自分自身だった。一時期また元に戻ってしまったが、全てを取り戻したあの時、二つの意識は融合し、アップデートした。
――――自信か……そうだ。僕はここに存在してもいいんだと、航留のおかげで思えたんだ。
「おまえ、記憶を失ってる間に好きな人が出来たんだな」
階段を上る。展望台は3階建てのビルくらいの高さだろうか。公園そのものも標高が高い位置にあるため、展望台の頂上からは遠く都会のネオンが光の海のように広がる。
もう少し手を入れればカップルが来そうなものだが、この自治体にはそんな色気はないようだ。
「綺麗だなあ。ここに来るとテンション上がるよ!」
突然両腕を広げ、大きな声で渉が叫んだ。展望台には椅子はないが、手すりに持たれかけるようにして前方に広がる宝石箱のような景色を見入った。
「今日、そいつに会ったんだろ? いや、今日が初めてじゃなかったのか。なんで俺に言わないんだよ」
渉から体二つ分ほど離れて立つ成行に、渉は顔を見ずに言う。
「なんで知ってるんだ。ああ、そうか。渉、実況見分に来てたんだね。デートなんて嘘だったんだ」
声が震えそうになる。それを誤魔化そうと、成行はいつもより声を張った。それに気づいたかどうかはわからないが、渉は終始テンション高く子供のようにはしゃいでいる。
「そりゃそうだろ? 大事な成行が刑事どもに色々聞かれるんだ。放っておけるかよ」
「なら堂々と、一緒に来てくれたらいいじゃないかっ。なんでこそこそと」
「こそこそだと? ふざけるな。おまえじゃあるまいし」
「そう、かな。同行できない理由があったんじゃ……ないの」
少しずつ、成行は渉から離れていく。体二つ分だった二人の間隔は三つ分から四つ分へと広がっていた。
「なんだよ。知ったふうなこと言うな。これからおまえにお仕置きしてやるんだから。こっちにこいよ」
さっと長い腕を成行に伸ばす。その指先を躱すようにもう半歩成行は後ずさった。
「なんで逃げるんだよ。おまえ、ずっと俺に惚れてたじゃないか。俺が気付かないとでも思ってたのか? それなのに、手のひら返しやがって。あの、茶髪野郎にすっかり鞍替えか? 心外だな。俺は、おまえ以外の誰にも靡かなかったのに」
「渉……」




