表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/61

第4章 糸の切れた凧(6)


 戸ノ倉真司はある有名若手俳優のマネージャーだった。才能はあるが我が儘な彼に振り回される日々。『時游館』には開店当時、近くに住む友人と来店したことがあったらしい。


 戸ノ倉はどういうわけか、零の本名を知っていた。だから『野波零』と名乗ったことに疑念を抱いたのだ。零が記憶喪失なんて知る由もない彼は、何故零が実名を伏しているのかわからなかった。そこを航留に気付かれたのが運の尽き。


「どうして、彼の名前が偽名だと思ったんでしょうか」


 越崎は優しい言い方をしたが、目は決して笑わない。銀縁眼鏡の奥から針を刺すような鋭い視線を戸ノ倉に投げている。


「そんな、思ってませんよ。変わった名前だと」

「嘘ですよね。こう見えても、私はプロですから。さっさと本当のことを言ったほうが身のためですよ」

「何言ってるんですかっ! 彼の居場所を知ってるって嘘なんですね。だいたい君たちなんの権利があって……」

「まあまあ、落ち着いて、戸ノ倉さん」


 血相を変え立ち去ろうとする戸ノ倉に、今度は航留が近寄る。そしてテーブルに置いたカップをさっと転がした。


「うわ、熱いっ!」


 熱湯が戸ノ倉の手にかかる。同時に彼が大事そうに抱えていた鞄にもかかってしまった。

「あ、すみません。どうぞ、タオルです。鞄も拭きましょう」

「え。あ、それはっ!」


 戸ノ倉が自分の手に注意を向けた途端、航留は鞄を取り上げ越崎にパスする。越崎はファスナーを開け、すかさず中身をぶっちゃけた。


「うわあっ! や、やめて!」


 財布やタブレット、宣伝用リーフレット等々、その中に紛れて皺だらけの小さな紙袋がテーブルの上にカタンと音をさせて落ちた。越崎は躊躇うことなく紙袋の中身もぶちまける。


「おい、航留、これ!」


 傷だらけのスマホとともにそこから出てきたのは、紛れもなく零の写真が貼り付けられた免許証や学生証。『佐納成行』の身分証明書だった。


「あんた。これはどういうことかな。説明してもらおうか」


 さっきまでの温厚な話し方から一変し、まるでやくざか刑事のような態度で越崎が迫った。


「ひ……ひええ」


 1時間後、脅したり賺したり、心療内科医の巧みな誘導尋問に戸ノ倉は抵抗むなしく洗いざらいを話すことになった。それは航留にとって衝撃の事実だった。そしてなによりも、零に再び会うことが可能になる、予想もしないチャンスが訪れた瞬間だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ