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第3章 帰還(10)


 その夜、まかないを食べてから渉のアパートへ戻った。ちょうどシャワーを浴びていたらしい渉が、上半身裸で髪を拭きながらリビングをうろうろしていた。


「ただいま」


 見慣れた裸体ではあるが、恥ずかしくて思わず目をそらしたくなるような美しい肉体だ。海外の有名サッカー選手がお手本と言う通り、鍛えていてもボディビルダーのようなくどさはなく、豹のようなしなやかさと美しさが同居している。


「おお、お疲れ」


 当の渉はそんな気恥ずかしい成行の気持ちなどお構いなしだ。どすんとリビングのソファーに腰を下ろした。


「あ、これ。食べるだろ?」


 家賃をお安くしてもらっている手前、バイトのある日は何かしら店の商品をお土産に買ってくる。今日は渉が好きなナゲット。袋ごとテーブルの上に置いた。


「お、いいねえ。ビール飲もうぜ」


 ということで飲み会が始まるのだが、成行はあまり酒が強くない。渉の分のビールと自分用のコーラを取り出した。


「今日さ、バイト先に刑事が来たんだ」

「え? 刑事? なんでさ」


 ソファーに成行の身が収まるのも待たず、渉が問いかけた。自分は渡されたビールのピルトップを開け、ぐいっとひと飲みする。


「例の……女子大生連続殺人事件、あれ、また起きたんだってね」

「ああ。そっちか」


 渉も成行と同様、彼が記憶を失っている間に巻き込まれた事件かと思ったようだ。その可能性もないわけではないが、連続殺人事件の件なら、渉にも覚えがあった。


「おまえが失踪したときさ、何度も刑事が来たんだよ。その、現場近くの防犯カメラに映ってたからって」

「そう……なんだ」


 バイト先にももちろん、大学や成行が住んでいたアパートにもやってきて、手あたり次第に成行の人となりを聞き込みしていたらしい。だが、刑事が言っていたように1件目の犯行時間、成行には完ぺきなアリバイがあった。

 それはクリスマス前で、奈津美たちとパーティーの準備をしていた時だ。そのパーティーがきっかけで奈津美と付き合うことになったのだが。


「それがわかってからは、今度は犯行を目撃して……」

「殺されたかもって言うんだろ?」


 言い及ぶ渉に、肩をそびやかしながら成行が返した。


「まあ、そう。だから俺たち、めちゃくちゃ心配したんだよ」

「うん……ごめん、心配かけて」

「おまえが謝ることはないよ。それで……実際はどうなんだ。何か、見たのか?」


 ナゲットを摘まみながら、それでも鋭い目力を向けてきた。しっかりとした眉と切れ長の双眸。前から知ってたけど、こういう表情されるとイケメン度が増す。そんなどうでもいいことを改めて成行は思った。


「いや……全然覚えがない。刑事さんたちにも言ったけど、記憶にないんだよ」

「お、国会答弁か」


 自分と同じことを思いついたらしい渉に、成行は思わず口元を緩めた。


「そうだよ。頭のなかに、ぽかんと大きな穴が空いてるみたいだよ。ほんとに何かを見たのか。それとも、全く関係ないのか」


 それでも、あの殺人現場は必ず自分が歩いたであろう場所だ。防犯カメラの自分は駅に急ぐため、アンダーパスを通ったんだ。犯行よりも前だった可能性もあるけれど。


 ――――そう考えたら、刑事が僕に固執するのも当たり前だよな。犯行時間がどれほど特定されてるのかはわかんないけど、現場を見てたり、犯人とすれ違ってる可能性はあるわけだから……。


 もしもこの殺人事件が連続でなく、それだけが単発であるなら、十分成行も被疑者足り得る。だが、『連続』と断定されているのはそれなりの理由があった。凶器が一致しているのだ。

 今は科学捜査で、凶器が見つかっていなくてもその刃型は特定できる。特徴のある刃型だったようで、2件の殺人事件があるメーカーのものだと断定された。そのおかげと言っていいのか、成行は被疑者から外されていた。





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