第3章 帰還(9)
「奴にとっては三人目の犠牲者ということになります。佐納さんがここに戻られてからひと月。なにか関係があるのではと言う者もいます」
「ま、待ってください。それはあんまりだ。僕はなにも関係ないですよっ」
「わかってます。今回の犯行時間、佐納さんはちょうどバイトに入ってましたよ。先ほど店長にも確認しました」
「あ、はあ」
疑ってないとか言って、実はちゃっかり疑ってんじゃないか。憤慨しつつもアリバイがあってよかったと思う。しかし、やはり面白くない。
「じゃあもういいですか。仕事中なんで」
あからさまに憮然として席を立つ仕草をした。
「あ、ではもう一つだけ」
テレビドラマでおなじみのシーンだ。成行はムッとしながらも可笑しくなってしまう。
「どうしました?」
「あ、いえ。ホントにやるんだなって思って……最後に一つだけってやつ」
それには両刑事とも、苦笑いを口元に浮かべた。
「まあ、そういうことです。えっと。佐納さんは今、お友達のところにいらっしゃるようですが……どういったご関係の」
「え? ああ、はい。彼は高校時代からの友人です。大学も同じで。まあ気心が知れてるので、なにかこう、記憶喪失の後遺症みたいなのがあっても一人より安心かな、て」
「なるほど。確かにそうですね」
どこか的を得ない質問だ。成行はふと疑問に思ったが、刑事たちが深追いしないのでそのまま流した。自分の居場所の確認だろうと推察する。
「お忙しいところありがとうございました」
「いえ……」
二人の刑事は座ったまま成行に頭を下げた。成行は今度こそ立ち上がり、ぺこりと会釈をする。踵を返す背後に、彼らが立ち上がる音が聞こえた。
「あ、佐納さん、すみません。あの、実はお願いがございまして」
「まだあるんですか?」
うんざりとした表情で成行は振り向く。
「申し訳ない。でも大事なことでして。もしかしたら思い出すかもしれない。例のアンダーパスにご同行してくださいませんか? お時間あるときで構いません」
下手に出た様子で頼むが、真意がどこにあるかは明白だ。実際この依頼は断れないものなのだろう。
「わかりました。今度の土曜日なら……シフトの後、現地に行きます」
「ありがとうございますっ。迎えにきますので、御面倒はかけないつもりです」
「はあ……」
十分に面倒だけど。成行は大きなため息をつく。それでも、成行自身も確かめたかった。一瞬のフラッシュバック。あれはあの日見た光景だったのだろうか。それがきっかけで自分は記憶喪失になったのだろうか。
――――思い出せば、空白の1年も埋まるのかな。彼のことも……思い出せるだろうか。
そこだけが切り取ったような闇。アンダーパスはぽっかりと開いた穴のように成行を迎える。その深淵に踏み入れたいようなしたくないような。嫌な感じだけが胸に残った。




