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第3章 帰還(3)


 その後の渉の行動は素早く的確だった。まず成行の両親に連絡を取り、その日のうちに涙の再会を果たした。警察へ提出していた捜索願を取り下げ、翌日には大学の病院に連れて行った。そこで明らかになったのは、成行が1年前、失踪に至った原因から覚えてないことだった。

 成行の最後の記憶は、アパートから最寄りの駅、雨ケ谷に向かって急いでいたことだった。それからぷつんと糸が切れたように途切れ、次に気づいたときには、見知らぬ自転車の下敷きになっていた。


「じゃあ、記憶を失った原因はわかんないんだ」

「そうなんだよ……。今回みたいにどっかで頭打ったのかなあ」

「さあなあ。あ、あのさ、成行。奈津美のことは覚えてた?」


 病院の待合室、両親が席を外したのを見計らったのか、渉は会話の途中にさりげなく、けど言いにくそうに切り出した。


「思い出したのは、渉より後だよ。電車に乗るまでは帰巣本能に突き動かされてた気がするけど、電車のつり革にぶら下がりながら、とてつもない時間が過ぎてることに気が付いたんだ。そこでようやく彼女とのデートに向かってたことを思い出した」

「あいつさ。今、別の奴と付き合ってる」


 こんな状態の成行に、言うべきかどうか迷ったが、会いたいと言い出してからじゃ気の毒な気がし、ようやく口にした。


「ああ、そうなんだ。1年音沙汰なしなら仕方ないよ。普通なら激怒案件だよね」

「え、そうかな。仮にも失踪なんだから、心配すると思うけど」

「奈津美はそういうタイプじゃないよ」


 それには渉も同感だった。最初はただすっぽかされたことに腹を立てていた奈津美だったが、その後、全くの音信不通になり、春休みが終わり大学が始まっても成行は現れない。両親が捜索願を出したことでさすがに心配した。けれど、それは長続きしなかった。


 彼女は見てくれやステータスに恋するタイプの女子大生だった。だから、中流家庭はマイナスポイントだが、それ以外は満点に近い成行と交際していたのだ。当然のことながら、積極的だったのは奈津美のほう。美人でスタイルのよい彼女は、迫れば落ちると知っていた。

 そんな関係性だから、次の獲物が見つかればそっちに行くのは火を見るよりも明らかだ。そのドライな性格を、成行も渉もお見通しだった。


 結局、1日入院を経て医学的には何の問題もないという検査結果が出た。定期的に病院に通うことにして、成行は解放される。


「大学には復学できそうだよ。両親が休学にしててくれて助かった。とりあえず、住む場所探さないと」


 一旦実家に帰ることになった成行を、渉は見送りに来た。病院前の駐車場、成行は笑みを見せる。


「それなら、俺のところに来いよ」

「え……でも……」

「まだ体のほうも一人じゃ不安だろ? 俺んとこなら部屋もあるし」


 渉の部屋には一つは少し手狭だが、ベッドルームが二つある。成行も今まで、何度も利用したことがある部屋だ。


「な、そうしろ。とりあえず落ち着くまで」

「ありがとう……そうだな、そうさせてもらうかも」


 嬉しそうに頬をほころばせ、成行は車に乗り込んでいった。窓を開け、手を振る成行に渉も軽く右手を挙げた。成行との同居は実現するだろうと思う。


それから1週間後、渉の予想通り、スーツケース2個に荷物を詰めて、成行は渉の部屋へやってきた。




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