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第2章 1年間(7)



「零ちゃん来てから、もう一年になるの?」


 常連客の香苗、今日も化粧ばっちりだ。珈琲カップを傾けながら零に問いかける。


「ああ、そうですね。もう三月かあ。早いものですね」


 少し手が空いてきて、常連客との会話が弾む。これも地域カフェのいいところだ。他のお客も、ほとんどが顔見知りになっている。


「ま、過去より今、今より未来よ」

「はは、いいですね、それ」


 香苗とのお喋りしながらも零の手は働いている。食洗機の中からカップを取り出し、棚に綺麗に並べ始めた。


「あ、しまった。やっぱり牛乳足りないかもしれん」


 そのすぐ横、店の大型冷蔵庫を開け、航留が唸った。業務用の牛乳は配達してもらっているが、昨日、そこの店が臨時休業したのだ。


「僕、買ってくるよ。コンビニなら自転車で行けるし」


 自転車なら10分くらいで行ける。零は早々とエプロンを外した。


「お、じゃあ頼む。5本あればなんとかなる」


 航留は店のレジから千円札を3枚、無造作に掴むと零に渡した。


「了解」


 バックヤードに置きっぱなしのブルゾンを羽織り、駆け足で外に向かう。航留家のママチャリは自宅用の車庫に停めてある。それを颯爽と駆り、零はコンビニに急いだ。


 住宅地を抜け、バス通りに出る。バス停にして最寄りから一つ向こうのところにコンビニはあった。そこまでは緩やかな下り坂が続き、自転車はスピードアップ。風はまだ冷たいけれど、春の日差しが気持ちいい。


 ――――うわあ、綺麗だあ。


 道路わきの花壇に植えられたチューリップが、今を盛りと咲いている。その周りには可愛らしいパンジーも。一足早く春を見たようだ。思わず零の視線が奪われた。


「うわあっ!」

「えっ! うわあっ」


 突然目の前に現れた人影、ブレーキは間に合わない。零はハンドルを切り、そのまま道路を滑る。縁石、ブロック塀、衝撃。体が宙に浮き、一瞬のブラックアウト。


 ――――航留……いや……。


 その後、零が『時游館』に戻ることはなかった。






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