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序章



 その日、佐納成行(さのうなりゆき)は、恋人とのデートに遅刻してやや焦っていた。いつもの通い慣れた道ではなく、裏通りから近道となる細い舗装道路に入り、小走りで急いでいた。鞄を小脇に抱え、右手にはスマホを握る。 

 目の前に現れたのは、ローカル電車の線路の下をくぐるアンダーパス。申し訳程度の歩道はあるが、車はすれ違えられない一方通行だ。

 そこに入る手前、何か嫌な感じがした。誰かがいる。まあ、人がいるのは別に変なことじゃない。人通りが少なくったって無人の町ではないんだ。人ぐらいいるだろう。


 ――――けど……なんだろう。しゃがんでる?


 人は二人いた。夕暮れのアンダーパスは薄暗い。複線だからそれなりの長さはあるのだが、頼りない蛍光灯は何か所か切れかけ、光量はすれ違う人の顔をなんとか認識する程度だ。アンダーパスに入ってすぐの成行は目が慣れておらず、顔どころか服の色すらはっきりしない。二人はただの黒い影でしかなかった。


 その影のうち、一人は男なのか背の高い大柄だった。そしてもう一つは男女はわからないが大柄な男の腰より低い位置にあり、しゃがんでいるようだ。気持ちが急いでいるから足は止まらない。それどころか、中央に向かって軽く傾斜になっているアンダーパスだ。勢いがついて歩みは速まっていた。


「あっ!」


 だが、その黒い影がようやく色を成してきたところで、成行の足は止まった。上がっていた息も一瞬止まるが、心臓は飛び出さんばかりに大きく跳ねた。


 気分が悪い人でもいるのかくらいに考えていた。だが違う。直後、一緒にいた男の異様さに気付いた。それでも、行くか、逃げるか、一瞬迷う。迷ったことが、成行の未来を変えてしまった。

 大柄な男はその一瞬を見逃さない。突如土を蹴り、大股で成行に迫って来た。仰け反る成行の腕を取ろうと手を伸ばす。ダークグレーのパーカーのフードをしっかりとかぶり、顔は見えないが、伸ばした手首に腕時計が光った。


「うあっ!」


 迫る手を鞄で叩き、成行は元来た道を必死で走る。アンダーパスを抜けても男が追いかけてくる気配に怯え、成行は通りに飛び出した。


 ――――あっ!


 だが、その先には真っ暗な穴が、成行を待ち構えていた。




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