第3話後編 星愛と静と己の罪と
話し合いが始まってしばらくは無言が続いた。その無言な空間で透き通るような声が響く。
「みなさんあまり話さないようなので、私が仕切ってあげますね。」
カレンが話を始めた。
「まずは死者の確認をしますね。1人目はくろい様です。図書室で死亡していました。2人目はせら様です。保健室で死亡していました。」
ここまでは俺も知っている。ここからが重要だ。頼む静、生きててくれ。
「そして3人目はしろい様です。」
静ではなかった安心感と共に困惑が訪れた。
「しろいが死んだだと?くろいの仇を打とうとしていたあいつがなぜ…」
カレンが補足説明を始める。
「しろい様の死体は誰にも発見されませんでした。仮眠室にて死亡しているところを私が発見しました。」
白井まで死んでいたとなるといよいよ犯人が分からない。…いや、そんなことはどうでもいい。今は一刻も早く静と話がしたい。
「おいカレン。しずはどこだ。なんでこの教室にいないんだ。」
「しず様はどこにもいませんでした。おそらく自室にいるのでしょう。私は保健室で倒れていたやえこ様と仮眠室で寝ていたえな様を連れてきました。そのついでにしず様も探しましたが見つからず…」
意味が分からない。死んでもいないのにどこにもいないなんて、静はどうなってしまったのだろうか。守ると言ったのに、安心させたのに、また俺は、守ることが出来なかったのか。妹の時と同じように…
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6年前のy県。そこにはとても仲の良い飯室姉妹が過ごしていた。姉は飯室弥江子小学6年生。妹は飯室星愛小学2年生。近所の家族からもいい仲だと言われてきた。しかし飯室家は貧乏だった。弥江子は小学5年生の時からスカウトで探偵事務所の見習いをしていたがお金は全然足りなかった。父親は競馬にパチンコばかりしているギャンブル依存症、母親はホストに月100万以上貢ぐほどの強迫的性行動症。学校に2人が通うのでさえギリギリだった。幼い頃からそんな両親を見てきた弥江子にはある気持ちが心の中にあった。
「せいあだけは私が命に変えても守る」
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1年後のある日、弥江子はとんでもないことを聴いてしまう。
「あなたどうするの?もうそろそろお金が尽きるわよ。」
「安心しろって。家にはいい金になりそうな女が2人もいるだろ?」
「そうだったわね。…そろそろあれをやる時じゃないかしら?」
「そうだな。明日にでも行くか。」
それは弥江子にとってとても残酷な会話だった。幸い妹は聴いてない。私が何とかするしかない。そう思いながら私は布団で眠った。
深夜1時。外から1台の車のエンジン音が聞こえた。慌てて飛び起きると隣に星愛がいない。両親もいない。顔が真っ青になる。嫌な予感しかしなかった。私は日頃から星愛に付けていたGPSを頼りに自転車で追いかける。10分程漕いだところで車を発見した。場所は工場跡地。私の嫌な予感はどんどん加速していった。
工場の入口を探していると微かに声が聴こえてきた。
「たす…けてよ……お姉ちゃ………ん…」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。そんな悪いことなんて、起きてるはずが…………
目の前に広がる、残酷な風景。夢であって欲しい。いや、これは夢だ。だって星愛は昨日あんなにも元気だったじゃないか。目の前のこの子が星愛なわけ…が……な…
…限界だった。体力も、気持ちも、頭の中も、何もかも、その目の前の風景を否定しようにも、することが出来なかった。四肢を巨漢4人に捕まれ、顔や体は汗や涙や精液でドロドロ。恐らくもう眠ってしまっているにも関わらず動くのを辞めない5人目の巨漢。後ろで札束を片手に笑うのを辞めない両親。頭の中が1つの文字で埋め尽くされる。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
ふと、気がついた時には目の前が真っ赤に染まっていた。自分の手も、足も、服も、何もかもが赤色で塗りつぶされていた。全部どうでもよかった。後ろで話す声が聞こえる。
「犯人は中学生だと思われる女子1名。注意しながら近づくように。」
警察がいるらしい。逃げる訳にはいかない。妹が、星愛が死んでしまう。早く病院に連れて行って貰わないと。液体でぐしゃぐしゃの星愛を持ち上げる。冷たい。でも星愛が死ぬわけが無い。私の妹、いや、俺の妹だから…
星愛は生きてるはずもなかった
たまたま巨漢の1人がカメラを回していたらしく、音声データから俺は正当防衛が認められた。だからなんだ。嬉しくなんかない。たった1人の守ると決めた大切な大切な命。それなのに俺は、守ることが出来なかった…
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「…こ様?…えこ様?やえこ様?」
透き通るような声が聴こえてくる。
「やえこ様、大丈夫ですか?いきなり倒れたので。」
思い出したくもなかった。心の中に閉まっていた。でも、お陰で俺は1つの可能性を導き出せた。
静の死体を確認するまでは死んだとは限らない。いや、絶対に生きている。少しだけ気分が楽になった。
「すまないなカレン。話し合いを再開しよう。」
「分かりました。では話し合いを再開します。」
俺はこの話し合いで殺人したやつを追放し、静を見つけ出す。それが星愛を守れなかった俺に出来る最大の恩返し、いや、最大の贖罪だから。




