魔神と勇者の(少し変わった)戦い~side魔神~
「おい、あと何秒だ?」
「50秒」
「長過ぎるだろ!!もうちょい短縮しろ!」
「60秒」
「延ばすな!短くしろっていってんの!」
「3時間?」
「はぁ~、なに、俺に恨みとかある?」
目の前にいる人間の男が、手に持った武器と話している。
あの武器は古い世代の物なのだろう。ああして話している間も、男の体から生命力を抜き取り続けている。
『おい、無駄口を叩いていると武器に搾り殺されるぞ?』
しまったと思ったが遅かった。ワタシの口は存外お喋りだった。ああも親しく話しているのだからあの武器と男は仲が良いのだろうと思い少しお節介を焼いてしまった。
「…お前、俺を心配したのか?」
『……』
「いや、いやいやいや、無いだろお前の事殺そうとしてるんだよ?」
「無い、アイツに私たちを心配する理由がない」
「だよな、ヘヲルもそう思うよな!」
ワタシの言葉に心底驚いたのか、男と武器は、下らない言い争いをしていた間も続けていた嵐の様な攻撃の手を止めた。
『…ワタシの事は良いのだ、それよりお前、本当に搾り殺されるぞ?良いのか?忠告したぞ?』
「いやいや、ないない、ヘヲルに限って俺を殺そうとかしないでs」
そこまで言って男は目の前で尻を天高く突き上げた状態で倒れた。
「あ、加減間違えたごめん、ウロ」
ワタシの魔眼で男を見るが、既に絶命しているようだった。
男が絶命した事を理解したワタシは何とも言えない気持ちになっていた。今まで経験したことの無いような悲しさとも寂しさとも言えない狭間の感覚。
そこまで考えてワタシに一つの答えが見えた。
ワタシは、対等に戦える相手を喪った事に喪失感を覚えたのだと。生まれて初めてだった。
魔神と呼ばれるようになって初めて出会えた対等な相手。この男がワタシと出会ってから数時間しか経っていないが、その間ずっと剣を交えたのだ。互いを深く知るのにこれ程までに適したモノもない。
だが、この男はもう死んだ。戻らない。その事実にワタシの心は空虚になった。この男と何を掛けて戦ったかも思い出せない程に、ワタシの心は死んでいた。
戦う理由も無くなったワタシは、戦闘の余波で壊れた城の玉座に座る。玉座の座り心地は当然のごとく悪い。だが、心の死んだワタシには気にならなかった。
戦いは終わりだと、唯一残った古き武器に告げようとすると先に喋りだした。
「ウロ、ごめん。ちょっと吸いすぎた…返すね」
自分のミスで死んだ使い手に対して余りに薄情な言葉。ワタシは冷静さを欠こうとしていた。
「だぁ!何分死んでた?て言うか、ヘヲル何回目だよ、このミス!」
「やっちった☆」
「あ、全然可愛くない。それで許される罪は精々万引きぐらいだから」
「え、ウソ、ウロならこれで許してくれるって信じてたのに…私達の絆は紛い物だったんだね…」
「絆を育んだ相手をミスで殺しといて良く言えたな!お前、今日という今日は許さないからな!」
「しくしく、しくしく。過去一(都合の)良い使い手を見付けたと思ったのに…」
「何か含みがなかった?ねぇ、今の言葉に含みを持たせたよね?あと、嘘泣き止めてね?」
ワタシは何を見せられているのだ?
目の前で死体が動いた?いや、アンデットの類いではない。ワタシの魔眼があれを生者だと認識している。ならば死を克服する魔具か?それも違うな、周囲を漂う魔力に変化がない。ならば体質か?ワタシと同じ魔神だと言うなら説明は付くが……。
ワタシは、思い付く限りの死を乗り越える方法を頭に浮かべては、場の状況証拠で否定されを繰り返した。
良くわからなくなり、あえて素直に聞くことにした。
『どうやって死を越えた?』
ワタシが考え事をしている間も言い争っていたヤツ等が口を閉ざしこちらに意識を向けた。
「あの、俺は貴女の事を無視してませんからね?こいつですよ?こいつ、この古びた武器です。悪いのは!」
「は?ウロが先に無視しろって言ったんでしょ私はあれだけ辞めようって止めたのに…。ごめんね魔神、今代の使い手は私じゃ制御できないみたい…」
「おい、ヘヲル、俺に擦り付けようとしてないか?」
「私はしてないよ。ウロが無実の私を犯人に仕立て上げようとしてるだけ。とても悲しい…」
『ワタシが聞いているのはそう言うことではない。どうやって死を越えたのかと聞いている』
「ほら、ヘヲルが無駄なこと言うから怒らせちゃったじゃん。謝りなよ~」
「はぁ、ウロってば良くないよ。良い歳して謝罪の一つも満足に出来ないなんて。しょうがない子供のミスは親が取り返して上げなきゃね。まかせて」
「はぁ!?謝れるし?それに勝手に親面しないで貰えますぅ~?」
「反抗期だね。ウンウン、多感な時期だもんね。ウンウン、わかるよ」
「反抗期じゃないし!大人の余裕見せてやるよ!」
「ふっ、頑張れ童貞」
「おまっ、はぁ!?言って良い事と悪い事があるだろうが!あ~わかった、やってやるよ決闘だ!表出ろお前!?」
ワタシは本当に何を見せられているのだ?
コイツらの会話を聴いていたら頭が痛くなってきた。
世界を破壊する魔神であるワタシを前に、武器と喧嘩(使い手側劣勢)を始める推定勇者。言葉にすると最悪の類いだな。
そんな時ワタシの口から考え事のせいでポロっと本音が漏れた。
『大丈夫だ、童貞も悪いものではないぞ。ピュアは良いことだ…』
「あっ……」
「あっ、また死んだ。魔神、良くないよ?言葉はナイフなんだよ?」
ワタシの言葉で、精神的苦痛が限界を超えた男が、また、天に尻を突き上げて倒れ死んだ。
そして、先程まで男を煽りに煽った張本人?張本武器?がワタシに責任転嫁してきた。
何だか疲れた。
あー、世界征服辞めよ。
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